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【大人の社会科見学 その2】Corriere della Sera(新聞社)

初秋のある日曜日、美術館や博物館等が書庫を市民に公開するイベントがあった。その多くが平日の真昼間で、選択肢がほぼないので、一先ず1件、新聞社の見学に申し込んだ。イタリア人なら誰もが知るCorriere della Seraという新聞社だ。
日本と同様、イタリアにも各地に各種の新聞社があるが、Corriere della Seraは1876年創業のミラノの新聞社である。そのため、私が訪れたのは本社である。

大昔、博物館学芸員の資格を取った際、図書館司書の資格も取ろうか悩んだが、「幾つもの資格を同時期に取るのは大変だろう」と守りに入り、取らなかったことが今でも心残りで、ヨーロッパ各地の図書館にふらっと入った際、その苦い思い出を噛みしめている。そのため、「今度もきっとまた憂鬱な気分になるかも」と申し込んだ後、当日の朝まで、キャンセルするか迷った。ただ、朝早く目が覚めたし、暑くも涼しくもない気温で、気分もよかったので、前日にドイツ人が経営しているカフェ兼ベーカリーで買ったとても甘いブルーベリータルトを食べ、引けた腰を前に前にずらし、外に出たわけである。

通常こういった見学に参加するのは老人ばかりだ。40代の私が一番若い場合もある。この日もそんなことを予想していたが、今回に限っては、メインの参加者は40〜50代と中学生くらいの彼らの子供だった。皆一様に知的な表情をした分厚い眼鏡をかけた子供たちだった。
古典芸術にはあまり興味がなくても、彼らは新聞や時事には関心があるようだ。それもよかろう、20年後、私の定年があと数年に迫った頃、この世界をよりよく変えていただきたいものだ。

さて建物に入ると、イギリスから購入したという、初版刊行当時の印刷機があり、上階のdirezione (direction)という部屋で、新聞社の歴史の説明があった。

年代物の貴重な印刷機
今は使われていないが、定期的に整備され、使用は可能らしい

色々な人名が出てきたが、残念ながらCorriere を読んで育ったわけではないので(道新で育った)、馴染みのある名はほぼなかったが、

-当初は全て活字の4枚仕立てで、人々は隅から隅まで読んでいた
-その後アジア、ロシア、南米等を渡ってイラストを描いて送ってくる社員が加わった
-その更に後に、社外の写真を扱う会社に写真提供をしてくれるよう依頼したが、期限の問題があって社内で写真家を雇うようになった


という説明が、当時発行された記事と共になされた。

その後、別棟の書庫で、イラストレーターが描いた芸者や、シベリア鉄道の寝台車、南米の耕作の様子の写真のネガを見、Fernanda Pivanoという、米文学をイタリアにもたらした女性の写真を眺め、その中にLeo Lionni という子供の頃よく図書館で見ていた大好きなイラストレーターと彼女が一緒に写っている1枚を見つけて感動し、充実した午前中を過ごした。

向かって左がLeo Lionni。
写真を撮ったEttore SottsassはFernanda Pivanoの元夫

Fernanda Pivano(18/07/1917 – 18/08/2009)はイタリアの作家・ジャーナリスト・翻訳家・批評家。
1948年にErnest Hemingwayと出会い、この出会いが、1961年にヘミングウェイが亡くなるまで続く、濃密な仕事上の関係と友情の始まりとなった。
1949年、モンダドーリ社からヘミングウェイの『武器よさらば』の翻訳版が出版された。(同年、Pivanoはデザイナーで建築家のEttore Sottsassと結婚し、ミラノに移り住んだ。Pivanoは1956年に初めて渡米し、そのプロフェッショナルな生涯を通じて、F. スコット・フィッツジェラルド、ドロシー・ソットサスなど、20年代を代表するアメリカ人作家のイタリアでの普及に貢献した。

以下省略

Wikipediaより抜粋・翻訳

ちなみに、Fernanda Pivanoが写った写真の多くはSottsassに撮られたものであるが、Sottsass亡き後、その所有権は後妻にあり、貸し出しを依頼すると多額の費用を請求してくるため、それもなかなか困難ということだ。全く、Fernanda Pivanoとは赤の他人の後妻が、彼女の写真をがっちりと掴み、金蔓の対象にするとは、Sottsassもゆめゆめ想像しなかったことであろう。
それゆえ、Corriere della Seraの図書館司書の方は、早く後妻があの世に行ってくれることを願っているそうだ(苦笑)

実は、Sottsassの建築の展示は、Triennaleという複合美術館で、この社会科見学の少し前に見た(下がその展示の詳細)。若き日の後妻らしき女性が、着衣やヌードでアメリカの灼熱の大地で各種ポーズを取り、写されている写真はあったが、そういえばFernanda Pivanoの写真は一枚もなかった。

Leo Lionni(05/05/1910 - 11/10/1999)はオランダのアムステルダムで生まれたアメリカ合衆国、イタリアのイラストレーター、絵本作家。主に動物の絵本を作っている。
14歳の時にイタリアに移住するが、1939年にファシスト政権誕生と人種差別法公布により、アメリカに亡命。1959年、孫のために作った絵本『あおくんときいろちゃん』で絵本作家としてデビュー。1962年、再びイタリアに戻り活動する。

代表作
『Swimmy(スイミー)』(1963年)
『Frederick』(1967年)
『A Color of His Own』(1975年)
『It's Mine』(1985年) 等

Wikipediaより抜粋

作品の表紙(日本語版)の一例

『あおくんときいろちゃん』表紙
『スイミー』表紙
『Frederick』表紙
『Frederick』のあるページ
か、可愛すぎる、幼稚園の頃見て可愛いと思ったものがいまだに可愛いなんて。。。
どなたか有名なアーティストの落書き的な作品。
聞きなれない名前で、メモし忘れてしまった


外に出た時には、苦虫をつぶしたような気分になるどころか、ほろ苦い郷愁を感じる清々しい気分だった。
図書館司書の資格は取らなかったが、博物館学芸員の資格だって実際に仕事には活かせていないのだから、これからも楽しんで色々な展示を見て回ろう、と思った。

本棟から別棟の書庫へ向かうCorriere della Seraの敷地




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