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パリで活躍した画家Valerio Adamiの展示を鑑賞する

先日、Valerio Adamiという存命の画家の展示を鑑賞した。

6月も下旬になると、イタリアでは新しい展示が激減し、7月になると「9月にまた会おうね~」という雰囲気になる。そのため、この時期は余程そそられないもの以外は見るようにはするが、如何せんシマ子は完全なる秋冬の生物のため(🤭)、夏っぽさがあるものは苦手で、ここのところNoteの投稿もイマイチなのは承知の上だ。

そんな中、このValerio Adamiには、
・Montmartreに住みパリで活躍している画家
・小学生時代に買った村上春樹の「パン屋再襲撃」の表紙の作風と似ている
・ボルドーや深い緑等の色合いを多用している

等の複数の引き寄せポイントがあり、これを見てから休暇に入りたいな、という思いが強く、営業時間が延長される木曜の仕事帰りを狙い、この展示を見に行ったのだった。

入り口

まずはこの画家についての簡単なBioからご紹介しよう。

Valerio Adami(1935年3月17日、Bologna生まれ)
パリ在住のイタリアの画家。Francis Baconの作品に影響を受けた表現主義絵画から始まり、抽象絵画、ジェスチャー絵画を経て、アメリカのポップ・アート、特にRoy Lichtensteinのモジュールに従って、解決された具象の回復を自らに課した。その作風は、ドローイングのシャープな黒枠の中に、平坦で滑らかな連続した下書きの色彩的素材を用いることで特徴づけられる。
彼のイメージは洗練された視覚的メタファーに満ちており、哲学的、文学的、神話的な概念を内包し、ヨーロッパと西洋の思想の進化を作品に表現している。

Wikipediaと展示案内より抜粋

作品紹介へ移ろう。
会場にはビデオも用意されており、そこで注視した部分も加えて作品にコメント付けしてみたので、細かい文字もご一読いただければ、と思う。


【アメリカとコミック】

ショーウインドー 1969年
1960年代にAdamiはよく、大都市の風景を描いたり写真を撮ったりしていたそうだ。
子供が眠る時間 1993年
作品説明:『死』を表した山賊に扮した骸骨に気づいていない、肘掛け椅子で眠る女性の姿が描かれた絵。骸骨は子供を誘拐しようとしている。
(右)暴力の国のアリス 1963年
(左)Swing 1962年 Pop Art
作品説明: ポップアートと長い間結びついてきたAdamiにとって、言葉とコミックの復活は、中世アートへの言及であり、そこではコミックのように登場人物の口から言葉が出てくる…表現の発見によって絵画の歴史は変わった。口から出る言葉は、顔の表現力に取って代わられた。
罠 1964年

【メタファー】

Intolerance 1974年
作品説明: 鑑賞者は、絵画のイメージが構成されるのと同じような表現のプロセスを、自分なりに追体験しなければならないと思う。閉ざされた、動かないものを見るのではなく、まだ起こっている何かに巻き込まれている自分に気づくべきなのだ。
爆弾テロ 1971年
誰がどこで行ったテロを描いた作品かはわかりませんが、複数の事件が混ざり合っていそう。
割れた卵 1963年
作品説明: 割れた卵。車が橋に乗り上げた。投影。落下してくる恐怖に怯える下の人影。黄身の赤い色、それを割ったスプーンを持つ片手、あの不思議なフォークのシステムを使ってみたかった。ザバイオーネクリーム(※)とチェリーの入ったカップを投影、レモンのウェッジが丸見えの広告ポスターと関連している。その人物はストライプのドレスを着ていた。私は彼女の足首、泥だらけのピンヒール、そしてあのリボンだらけのウェイトレスのドレスに見入ってしまった。カーテンのようなストライプのドレス: オレンジ、ブルー。スプーンには缶詰のグリーンピースのような緑色の食べ物。左側には卵4個入りのクリーム、プディングの文学の中で見直される光の白い四角。生命の起源の象徴としての卵。胎児を囲む楕円形。車から降ろされること、人の死を引き起こす衝突事故との関連。左側は、卵の粉末で作られた極上のプリン。
※ザバイオーネはピエモンテ名物のデザート。卵黄に砂糖を加え、泡立て、温めながら、マルサラワイン、シェリー酒、白ワインなどの洋酒を加えて煮詰めたカスタードクリーム。
プライバシー、ブルジョワの風景、心優しい女中 1966年
女中に卑猥な想像をしていた余韻のある作品ではないでしょうか?
プライバシー、ホモセクシュアル 1966年
作品説明: 『散文』や『詩』という言葉を使い、私の作品を散文画と定義できればと思う。物語の衝動は不可欠だ。しかし、形式は私の信念や疑念を修正する。

【人物】

人物を描いた作品はたくさんあったが、目を引いたもののみ数点載せておこう。

Giacomo Leopardi
Adamiの父親の出身のMarche州がLeopardiの出身地でもあり、あたかも縁戚にあたるような語り口をし、非常にLeopardiを慕っている、とビデオの中で語っていた。
Igor Stravinsky
Thomas Mann

【Ego君】

Ego
Adamiの愛犬Egoが描かれた作品。
ビデオの中では、Egoは自分の一部、だったか、もう一人の自分だか、と表現され、犬の外見ではありながら犬ではない、と語っていた。
犬は飼い主の言葉が分かるので"犬の外見でありながら犬ではない"というのは頷ける気がする。
絵の端々にEgoらしき犬の姿が。
犬と飼い主 2022年
「犬はとても忠実な動物で、私は自分の職業、自分の描き方に深く忠実だ。猫はそうではない」というようなことをビデオの中でAdamiは語っていた。
Adamiさん、おっしゃる通りです、私も断然犬派です😆

【エロス】

かなり際どい作品もあり、モザイクがかけられないので、幾つかは投稿を諦め、ぎりぎりのところで攻めてみた😁

日没-顧み 1990年
「過去形、現在形、未来形、条件法は時制であり、線が記憶から紙へ、欲望から比較へと移動する動きである。」
これ一つ見ているだけで色々な妄想が膨らみませんか?
フィンランド 1987年
「北は私に、色とは光の接ぎ木であること等を教えてくれた。太陽が地平線上にあれば、風景は紫や黄色に染まる。対照的な色、例えば、暗い平らな背景に小さな強い黄色、これは図形の戦略だ。過剰な筆致の光と過剰な影は色彩の寄生虫であり、絵画は塗られたものではない。」
確かに、これが白から黒へのグラデーションや青が基調だと、エロティックな雰囲気はなかったかもしれませんね。
雲 1991年
ミューズの謎めいた生成力を暗示した作品。 Adami曰く「ミューズはドローイングに付随し、手と紙、想像力と真実、ビジョンと理性を結びつける」のだそうだ。
個人的には、男性から魂も血も抜き取ってさらにパワーアップしたミューズ、という風に見えるのですが、いかがでしょう?

【おしゃれ】

決して、展示会場で「おしゃれ」と分けられていたわけではなく、個人的な印象なので、全く違う印象を持たれる方もいらっしゃるとは思う。

スフィンクス 2023年
こんなに女性的で粋なスフィンクスを見たのは人生初な気がするのですが、いかがでしょう?
フラメンコ 2023年
飛行中のハーピー 2023年
ギリシャ神話では女性の顔と鳥の体を持つ怪物的な生き物として描かれているハーピーが、男の顔になっているのはなぜ?
作品説明「Paul Kleeの水彩画『Angelus Novus』を暗示しているようだが、Walter Benjaminによって、進歩の風によって未来に吹き飛ばされた人物として再解釈されている。現在を前にして、ノスタルジアに浸ることもできない。後ろ向きの視線は、Adami自身の表象の泣いている男の顔に注がれている。」
Paul Kleeの「Angelus Novus」(Wikipediaより)

Walter Benjaminは、大学時代に文学・美術系の学部に通われた方なら何かしら彼の本を読まされたのでは、と思うので割愛しますが、理系だったけれど気になる、という方には「パサージュ論」をお勧めしておきます。

イメージ「パサージュ論」
アイネアス、父アンキセスを肩に担いでトロイを脱出 2009年
かなりギリシャ神話の登場人物を描いていることがわかった。しかし、パンテオンがハリウッドと組み合わされている理由は説明されていないので謎。
ペンテシレイア 1994年

ちなみに、Adami氏のアシスタントをしているというMorishita Taroさんという方がビデオに登場していたが、元々はTaroさんの父上がAdami氏のアシスタントをしており、Taroさんが生まれた際にAdami夫妻が病院に来てお祝いしてくれた時からの付き合いだそうなので、もしかしたらAdami氏は日本贔屓なのか、とも思った。ただ、残念ながらそういった片鱗が見える作品は一切展示されておらず、私の憶測にすぎないのだけれど。


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