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「たいして音楽が好きじゃない人」って言われちゃった話

あれは大学生の頃だろうか、
「レコードやCDを買うほど好きな
 ミュージシャン」について
友人たちと話をしたことがある。
要するにレコードやCDを沢山買う人
のほうが音楽好きだという、
ただのマウントの取り合いなわけだが
僕はこのことにとても傷ついてしまった。

クマよけの鈴を鞄につけて登校するほど
ド田舎出身の僕が都会の大学に入学して、
友達がいない寂しさから入ったのが
バンドのサークル。
ほとんどの人が都会育ちで
地方出身者でも、自分ほど田舎から
出てきた人は珍しかった。
すると当然田舎とのギャップに驚くことになる。
まず最初に驚いたのが、お金の使い方。
自分のような、コンビニもファミレスも
ファストフードもアルバイト先すら無い
田舎町から出てきた正真正銘の田舎者は、
お金のかかる友達付き合いというものに
慣れていなかった。
都会っ子が自由に使えるお金の額は
僕にしてみれば、ありえない金額だった。
うっかりこのことを話してしまったときの
周りの反応は、興味津々で、
明らかに人を小馬鹿にするものだった。
「あぁ、なるほどねぇ。」
と思った僕は、この時からボーっとした
人間のふりをして、なるべくみんなの話に
関わらないようにした。
「お前はいつもボーっとしてるなぁ。」
などどよく言われたものだ。

で、当然バンドを組むわけだが、
頭を下げて納屋を借りたり
町の公民館に機材を運んだりすることなく、
都会ではお金を払えば簡単に
機材のそろった練習スタジオが借りられた。
その環境の違いには降参としか言いようがなかった。
一生懸命バンドをする方向性が
まったく違っていたように感じられて、
「僕にも最初からこの環境が
 与えられていたら
 どんなに良かっただろう」
と本気で思ったものだ。
しかしながら、やはり出費は痛かった。

そして前述の
「レコードやCDを買うほど好きな
ミュージシャン」の話である。
その場にいた友人たちは全員「都会っ子」。
僕としては圧倒的不利な状況である。
そもそも田舎では、
数か月お小遣いを溜めなければ、
レコードなんて買えなかった。
だから僕の持っていたレコードなんて
ほんの数枚だった。
しかも全部違うミュージシャンだ。
他はバンドで演奏するためにダビング
してもらったりFMラジオから
録音したカセットテープだった。
そのとき僕はそのことが
ものすごく恥ずかしく感じてしまった。
大好きなミュージシャンは当然いた。
邦楽ならアリスや甲斐バンド、
ゴダイゴにノヴェラ。
洋楽ならジューダス・プリーストや
エマーソン・レイク&パーマーに
ビリージョエル、ビリースクワイアなど
僕は本当に大好きだったのだ。
かなりジャンルに開きはあるが・・・。
でもまあ、そんなことは一刀両断。
「お金をかけるほど好き」ということに
意味があるのだという都会っ子の言い分は
僕を「たいして音楽が好きじゃない人」
に任命してしまった。
ミュージシャン側からしてみれば
レコードやCDを買ってくれなきゃ
お客さんじゃないんだろうから、
僕みたいなお金のない人より
お金に余裕のある人の方が
「好きでいてくれる」ことの意味は
大きいんだろう。
とは言え僕は、音楽を聴くことよりも
演奏することの方が好きだったし、
さらに言えば自分で曲を作ることの方が
もっと好きだった。
だから僕にはそんなことどうでもいい話
だったし、その友達の意見に左右される
必要などまったくないはずだった。
しかし、周りの友人たちも「そっち派」
だった事もあり、僕は多少なりとも
傷ついてしまった。
お金を払えば音楽も環境も手に入る
人たちによって、自分の音楽への情熱が
否定されたような気がしてしまったのだ。

今はどうなのかは知らないが、その当時
まだ僕が子供の頃は、
作詞作曲なんでイタイ趣味だというのが
一般的だった。(僕の周りの環境だけそんな感じだったのかもしれないが)
「プロでもないのになんでそんなこと
 するのか意味が分からない」
と言われたこともあった。
「絵を見るより描くほうが好き」や
「ダンスを見るより踊るほうが好き」
と比べて、音楽に関しては、
クラシックやジャズくらいしか
「演奏するほうが好き」は
許されていなかった。
ましてやロックやポップスを
作詞作曲するなんて、
人に笑われることはあっても、
認められることはなかった。
そんな環境で育ったものだから、
バンド仲間であるはずの
そのときの友達との話には、
必要以上に傷ついてしまって、
今でもトラウマになっているような気がする。

なんだか暗い話になっちゃったが、
ここまで書いてみると、
やっぱりこれまでの自分の周りの環境が
悪すぎた気がする。
まぁ、こんな話どうでもいいと言えば
どうでもいい話なのだが、
世の中が寛容になってきたこの時代なら、
こんなほんのちょっとしたことで
自分を表現する場を奪われ
「生きにくい」と思ってしまう人が
減ってくれるといいなぁなんて思ってしまう。

なんて長めのひとり言・・・おしまい

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