コロンブスの卵
僕が介護保険サービスで関わってきたいわゆる「利用者」の爺様婆様たちは沢山いらっしゃって、おそらく1000人は軽く超えてるんじゃないかなと思います。
そりゃ20年もこの仕事をしていたら、それは普通のことかも知れないですね。
沢山の爺様婆様たちに色々なことを教わりました。
今回の記事ではもう10年以上前になりますか…
食事中にいつもイラついていた爺様について書いてみます。
カンカンカンカン晩餐カーン
太郎さんは80代の爺様。
アルツハイマー病と診断されていた…と記憶しています。
デイサービスで支援をしていたんですけどね。
普段はとってもユーモラスな爺様だったんですよ。足は不自由だったんですけど、ニコニコしていて、女性スタッフにいたずらもよくしていました。
外出した時に、カエルをポケットに隠し持っていて…
施設に帰ってコーヒーを出してもらう時、職員にポイっとカエルを投げるんですね。
カエル嫌いな人からしたら地獄ですわね。
ケラケラと笑って、いつも楽しく過ごされていました。
そんな太郎さん。
なぜか食事の時にはいつもイライラとしていました。
食器をお箸やスプーンで叩くんです。
カンカンカンカンカン!
部屋中に、食器を叩く音が響き渡っていました。
1時間ほどかけて食事を終えるまで、周りの方にもストレスを撒き散らしていた太郎さん。
職員も、言葉をかけたり、食事中の関わり方や座る場所など思いつく工夫をしていましたが、解決まで至らずでした。
他の爺様婆様たちも同時に困らせてしまっていました。
ニヤリホット
デイサービスでは、その1日のプログラムを終えると、スタッフ全員でその日の爺様婆様の記録をつけます。
・ケアプランの目標が達成できているか
・どんな言動があったか
・新しい課題は出てないか
とかをスタッフで会議形式で情報交換をしながら、担当の爺様婆様の記録をつけます。
その日も、太郎さんが利用した日でした。
相変わらず晩餐カーンが続いていました。(ランチですけどね
ただ、その日は看護師があることに気づいたようでした。
「あのさぁ、私ちょっと思うんだけど…
お皿の緑の絵柄が食べ物に見えてるんじゃないかな」
「それやん!」職員みんなの疲れた顔にニヤッと笑みがみられました。同時に、次にうつ手が出てきてホッとしながら帰りました。
最後の晩餐カーン
次の太郎さんの利用日に、さっそく真っ白なお皿に変えて食事時間を迎えました。
隣で食事介助や見守りをしている職員はドキドキです。
そして何ということでしょう。
太郎さんが、お皿をカンカンしないではないですか!
食堂にいる数名の職員がガッツポーズを送り合い、解決したと思ったその時。
またもや太郎さんが「あーもう」とイライラしてお茶碗をカンカンしだしました。
ただ、これには隣で食事を見守りしていた職員がすぐに気付きました。
「ははーん。
お茶碗が白いくてご飯も白いから…」
その日の終わりに、黒いお茶碗を買いにいきました。
次の太郎さんの食事は、晩餐カーンがなく更に1時間以上かかっていた食事が30分くらいで終わっていました。
いつものちょっと緊迫した食事の時間が、楽しい食事の時間になりましたとさ。
色々な工夫
アルツハイマー病に限らず、白内障や視力が低下した爺様婆様にとって、緑の葉っぱのガラがついたお皿はとても紛らわしいものになることがあります。
他にも、看板の文字や床の色なども同じことが言えると思います。
今回の太郎さんの場合は、白い食器にしましたが、おかず自体が例えば白い魚の場合は、白いお皿では見えにくいです。白いご飯に白いお皿と一緒ですよね。
同じ色のお皿だと、健康な人にとっても食欲が湧かないかもしれないので、美味しく見える工夫があるといいと思います。
まとめ
今となっては、記事を書いていて「なんで気づかなかったんだろうか?」と思いますが、そこはコロンブスの卵ということで。
今回のお話。食器の色の工夫は他のことにも広がっていきました。
例えば、糖尿病の爺様婆様で、糖分の制限がある人がいたとしましょう。新人職員にとっては、何十人もの人の基礎疾患をいきなり覚えるのはとても難しいことですよね。
コップに名前をつけて、さらに糖分制限がある人のコップは白ではなくパルスイート(糖分が上がりにくい人工甘味料)と同じうすいピンク色にすることで、確認の時間や間違いが格段に減りました。
こんなちょっとしたコロンブスの卵が、介護の家族の知恵や介護の現場の気づきから生まれているのでした。
おしまい。
今日も最後まで読んでくれてどうもありがとうございます。
あるとデザインでは「あるとイイな!」をデザインしてます。
追伸
個人情報の保護のために、エピソードには若干…の脚色がついていることをお許しください。固有名詞も仮称です。
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