シン【ソウサクの中毒⇔中毒のソウサク⑩】

「レロレロ」
 窓の外の奇怪な声は、まだ続いている。

「キキキキイ」
 生理的に嫌な、高音域が響いた。
 ――あの黒板をチョークでひっかいた音だ!
 白塗り人間は、ガラスカッターみたいな鋭利な舌ベロで、俺の部屋の窓ガラスを円形に切り取っている。

「死ねえい」
 元母親キョンシーは、相変わらず俺の首を絞め続けている。

「ぐぐぐぅ……苦しいよ、元お袋」
 もう他人だけど。

「カラン」
 切り取られたガラスが床に落ちた。

「ぬるぬるぬる」
 白塗り人間がガラスの隙間から入って来て、貞子みたいな動きで部屋の床を進んでいる。
 不法侵入だろ――それどころの騒ぎじゃないけど

 こええ。
 何度見ても、コイツらの見てくれは怖えよ

(南無阿弥陀仏……)
 胸の内で、念仏を唱えだした俺。

 俺は、念仏を他に知らないことを恨んだ。
 マジョリティの日本人と同じ“えせ仏教徒”の俺だが、こんな時の為に、悪霊ゾンビに効き目のある“呪文”でも教わっておけばよかった。
 コーカイ後の祭りさ。
 
「ぬるぬる」
「死ねえい」
 化け物らは俺の命を奪う為に、ドンドン突き進んでいる。
 ヘルプ、マザーファッカー
 

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