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実録:COVID-19流行下での妊娠・出産(NICU編)

COVID-19流行下での入院生活は、それまでにない制限のたくさんあるものだった。ここでは、子どもがNICUに入院しているあいだの体験を書きたい。

前段となる「産科通院編」はこちら「産科入院編」はこちら

NICU/GCUのCOVID-19対策

NICU(新生児集中治療室)とGCU(回復治療室)では、予定より早く生まれた赤ちゃんや低出生体重児の赤ちゃん、病気の赤ちゃんが24時間体制でケアを受けている。私の子どもは、出生後すぐにNICUに入院した。生後の低血糖症状が深刻だったためだった(出生2時間後の血糖がなんと13mg/dLだった)。子どもは先天性高インスリン血症と診断され、そのまま1ヵ月NICU/GCUに入院した。体の弱い小さな赤ちゃんがたくさんいるNICU/GCUでは、COVID-19に対して厳戒態勢がとられていた。

NICU/GCUでの新型コロナウイルス感染対策は、大きくは面会制限によるものだったと思う(産科でのお見舞い・外出禁止と軌を一にするものだといえる)。手指衛生はもちろん元から徹底されている。NICU/GCUユニットの入り口には手洗いとロッカーがあり、まずそこでしっかりと手洗いし、検温してCOVID-19対策の問診票に記入する。そして、使い捨てガウンを身に着け(トップ写真のバックに見えている黄色い布が、この使い捨てガウンである)、再度手指消毒して、それからはじめて入室する。元々は、両親のほか、きょうだいや祖父母も面会可能だったようだが、COVID-19の流行以来、面会は両親のみに制限されていた。面会頻度も、私が通っていた頃には、父親と母親がそれぞれ最大週2回までに抑えられていた。聞くところによると、緊急事態宣言中には週1回の頃もあったらしい。

自分たちや家族に疑わしい症状があるときには、もちろん面会はできない(赤ちゃんたちがどうなるかと思ったら、する気にもならないだろうが)。医師の先生方も厳戒態勢で、上気道症状などが出たときには担当を外れられるということだった。

COVID-19と母子分離

NICU/GCUは産科と同じ病棟・フロア内にあり、産科に入院している母親はいつでもNICUに行けた。これはCOVID-19流行下でも変わらなかった。妊婦は産科での入院時に全員PCR検査を受けているため、感染の恐れがないから、ということらしかった。私もそこの産科で出産していたので、産後に退院するまでの1週間のあいだには、毎日赤ちゃんに面会できた。とはいえ、帝王切開後だったので身体がつらく、長時間赤ちゃんと過ごすというわけにはいかなかったのだが。産科の助産師さんたちに教わりながら3時間ごとに搾乳し、自分のキズの処置も受けていたので、1回の面会は1時間ほど、一日に多いときで3回面会するのがせいぜいだった。同じ病棟内にいる他のお母さんがたが母子同室で赤ちゃんのお世話をしているのと比べると、赤ちゃんと過ごす時間は格段に短かったし、私の子どもには太い点滴が繋がっていたので、入院中にはおむつ替え数回と授乳を数回くらいしかすることができなかった。NICU/GCUでは、スマートフォンの持ち込みが禁止されており、デジカメを持ち込まないと写真が撮れなかった。夫にミラーレスカメラを差し入れてもらって子どもの写真を撮り、それを眺めて少しでも顔を覚えようと努力した。しかも退院したら週2回しか会えなくなる。夜の一般面会時間が終わった夜22時過ぎにNICUを訪ねていって、明かりが落とされて薄暗くなったNICUのなかで、子どもを抱っこさせてもらったりした。

自分が産科病棟を退院してからは、ルール通り週2回の面会になった。訪問のタイミングを夫と別にして、できるだけ頻繁に親のどちらかが子どものもとに行くようにした。室内に入らず、赤ちゃんに会わなければ「週2回」のうちにカウントされないので、搾乳・冷凍した母乳だけ持参して、そのまま赤ちゃんに会わずに帰ることもあった。扉の向こうから赤ちゃんの大きな泣き声が聞こえて、あれは自分の子どもやろうか、なんだかそんな気がする、と思いながら、備え付けの冷凍庫に母乳だけを入れて、泣き声の主が自分の子かすら確かめずに帰らなければならなかった。

とにかく、COVID-19流行対策下におけるNICU/GCUでの母子分離は、本当におそるべきレベルだった。ただでさえ産後すぐから母子が引き離された状態なのに、退院したら会えるのは週に2回。会える時間はそれぞれ数時間。あまりにも顔を合わせる時間が短くて、自分や夫が撮った写真を何度も何度も見返さないと、自分の子どもの顔すら覚えられない。抱っこできるのも、週に合計2時間ほど。生まれた直後から毎日たくさん採血して、太い血管に点滴を入れて、ずっとずっと頑張っている子どもに、週にたった数時間しか会えず、「がんばってるね」と毎日言ってあげることもできない不甲斐なさ。COVID-19の流行さえなければ、もっと頻回に会いに行けたかもしれないのにと、コロナ禍の理不尽さに対するやりきれない気持ちが沸き起こる。一方で、週に5日は子どもの顔を見ることなく自宅で静養しているせいで、自分は本当に子どもを産んだのだろうか、と感じてしまう。赤ちゃんに会ったときに、これが自分のおなかのなかにいた自分の子どもなのだ、という実感が湧かない。この実感が湧くまでには、かなりの時間がかかった。たった1ヵ月の入院でもそうだったのだから、まして、数か月入院せねばならない早産の赤ちゃんとそのお母さんたちはどれほどだろうか。隔絶された産科での入院の後に、子どもとなかなか会えない長い時間……。想像するにあまりある。体のよわい赤ちゃんたちを守るためなのでどうしようもないこととはいえ、このCOVID-19流行下における母子分離は、発達心理学研究などでも今後問題になるのではないかと思う。

NICU/GCUでうけた心遣い

そんななか、小児科の先生方、NICU/GCUの看護師の皆さんには本当によくしていただいた。小児科の先生方の説明はいつも丁寧で、看護師さんたちからは、赤ちゃんのお世話の仕方やコツをとても詳しく教わることができた。オムツ替え、授乳のコツ、沐浴の方法、浣腸の仕方、薬ののませ方、血糖値の測り方など……。短い面会時間のなかで、こういったことを夫と一緒に習うことができたのには本当に助かった。COVID-19流行のせいで両親学級がまったくなく、NICU入院で産後の母子同室も無かった私と夫にとっては、本当に貴重な情報源だった。

ときどきNICU/GCU備え付けとおぼしきカメラで写真を撮って、プリントして手渡してくださったのも本当に嬉しかった。生後1日~2日に撮ってくださった赤ちゃんの写真は、そののち何度も見返した。この病院では、NICU内のタブレットで両親のどちらかがSkypeを起動し、面会に来られない祖父母やその他の家族にリアルタイムの赤ちゃん映像を見せられるようにする、というサービスも始めていた。COVID-19流行で面会制限がかかっているから、ということだそうで、そのおかげで夫は義理の両親に子どもの映像を見せることができた。

お蔭様で1ヵ月の入院を経て、私の子どもは自宅に帰ることができた。今もなかなか会えないまま治療を頑張っている赤ちゃんとその親御さんたちが、全国にたくさんおられるはずだ。COVID-19の流行がなんとか収まれば、そういった親子が元のように顔をあわせられるようになるのではないかと思う。新型コロナウイルスへの感染対策は、個人にとっては面倒なこともあるだろう。でも、一人ひとりが感染対策をたてるとき、流行が収まればそれが助けになる赤ちゃんたちもいるのだということを、少しでも思い出してもらえれば嬉しい。

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