見出し画像

[コラボレーション対談]春駒亭 真鍋正彦料理長× CLASS GLASS 池本美和

CLASS GLASSウェブサイトのProjectページでもご紹介している、山陽小野田が誇る銘店とともにガラステーブルウェアを制作する、飲食店とのコラボレーション〈和食編〉。今回は、「春駒亭」真鍋正彦料理長とCLASS GLASS 池本美和による、コラボの裏話をご紹介しましょう。

「春駒亭」は、地元・山陽小野田の人々からも愛される料亭。厚生労働大臣賞を受賞した真鍋料理長による、四季折々の食材を豊かに使用した日本料理が魅力です。遠方からのお客さまをアテンドする際に訪れることも多く、その度に季節感とおもてなしの心にあふれた料理に感動していたと言うCLASS GLASS 池本。「和食のテーブルウェアをつくるなら、ぜひ春駒亭さんと」という想いから、この取り組みが実現しました。

春駒亭のためのガラステーブルウェア / 池本 美和

― 制作スタート時には、どんなことを考えましたか?

CLASS GLASS 池本
「実は、“和食のため”と限定されたテーブルウェアをつくるのは初めてで。まず和食器について色々と調べました。だいたい3cmがひとつの尺度となっていることを知って、そのルールを守りながら、自分らしさのある器がつくれたらと考えました。」

真鍋料理長「だいたい3cmというのは、一寸のことですね。お茶席でも大切な寸法です。茶懐石の中には『八寸』という料理があって、八寸四方の器に、海のものと山のものを、美しくバランスよく盛り付けるんです。」

CLASS GLASS 池本「そうなのですね。和食には、そういった昔からのバランス的な美意識があると感じて、器のサイズにはとくに気をつけました。それから、透明感ですね。熔けた素のガラスが持つ透き通った魅力を、今回のテーブルウェアにも生かしたいと思いました。」

真鍋料理長「たしかに、美しくて盛り付けもとてもしやすかったです。日本料理でよく用いられる有田焼などの青磁も、盛り付けた際に料理が映えるように気を配られています。かの魯山人は、“器は料理の着物”と言いました。器と料理がともに力を発揮していいものができあがる。今回ご一緒して、まさにその通りだと感じました。」

― コラボレーションにあたり、意識したのはどんなことでしょうか。

CLASS GLASS 池本「ガラスは、“割れやすい・夏のもの”と思われがち。そのイメージを覆して、通年で楽しんでいただけるものを目指しました。そのため、形だけでなく厚みも意識しています。底やフチを厚めにすることで強度を上げつつ、ほのかなあたたかみをもたせて日常使いしやすくしました。今回はタイミング的に秋でしたが、真鍋料理長が紅葉などを取り入れて季節感あふれるお料理に仕上げてくださって、感動しています。」

真鍋料理長「下の台が透けて見えるほどの素晴らしい透明感でしたので、器と料理の間のクッションとなるよう秋らしい紅葉やイチョウの葉などをあしらいました。実際に盛り付けさせていただき、一年を通して使える手応えを感じましたね。食材だけでなく、たとえば梅や桜など、その時期に合った自然物を取り入れることで、ぐっと季節感が出てくる。日本は四季折々の表情が豊かなので、そういう楽しみ方ができるなと想像がふくらみました。手に持ったときのほどよくしっかりした感じと、上品な佇まいもいいですね。」

CLASS GLASS 池本「そう言っていただけて、うれしいです。本来ガラス作家の技術としては、より薄くつくることをよしとする部分もあるんです。でも、個人的にはそれだけではないと思っていて。ガラスは一般的には、硬くて冷たいイメージがありますが、制作途中ではとてもやわらかいもの。その印象をできるだけ残したかったんです。重すぎないギリギリのラインを意識して、透明感を保ちつつも、厚みに光がたまるやわらかな表情が出るように心がけました。」

真鍋料理長「光のあたり方がまろやかで、ガラス自体に美しさと品がありますよね。これまで、ガラスの器は夏場のほんの一時期しか使っていませんでした。でも今回のテーブルウェアに盛り付けさせていただいたことで、アイデア次第でいろいろと面白いことができそうだと感じています。」

― 今回、手がけられた料理のポイントについて教えてください。

真鍋料理長「たとえば『栗の吹寄風』では、栗の渋皮煮のまわりにがんもどきの衣をまぶして、そこへ卵そうめんを差し込んで毬栗に見立てています。山を散策している中で見つけた秋の実をガラスの器に散らしたかのような雰囲気をつくりたかったんです。添えているのは、本物の栗の枝。いわば、料理とガラス、自然とのコラボレーションですね。」

CLASS GLASS 池本「とてもすてきです。『春駒亭』のお料理には、いつも本物の季節のものが美しく盛り付けられていて、自然のパワーを感じます。そうした植物などを用意されるのも大変だと思うのですが、どうやって探されているんですか?」

真鍋料理長「大都市での料理修行から戻って、また自然の豊かな山陽小野田で暮らすうちに“この時期には、こういったものが山にある”とわかるようになりました。わざわざ採りに行くというよりも、ふらっと出かけて山を楽しんでいるうちに、使いたいものに出会うんです。お寺やお宮で了承を得て、きれいな紅葉などの葉っぱを分けていただくこともあります。そのときは、一年の感謝を込めて一升瓶などを奉納するんです。」

真鍋料理長「揚げ物の器にグラスを使うのは、あるパーティの際にひらめいたアイデアです。蟹の爪の天ぷらなどを、彩りよくスペイン料理のピンチョス風に盛り付けました。今はフランス料理のシェフが、たこ焼きから着想を得て球状の料理を考案するなど、互いの国のメニューを学びあった“世界料理”とも言うべきものが生まれている時代。器の使い方も、新しく工夫できればと考えました。」

CLASS GLASS 池本「そうなんですね!大胆なアイデアでグラスを使っていただけて、うれしかったです。斬新さがありつつ、シダの葉が和食らしさを演出していて、とてもいいですね。」

― 今後は、どんなことに取り組んでみたいですか?

CLASS GLASS 池本「やはり今回のように、いろんな方の意見やアイデアを伺いながら、通年で楽しめるガラスの器やインテリアへ取り組んでいきたいです。CLASS GLASSをきっかけに、地元・山陽小野田で作品を届ける機会も広げていきたいですね。たとえば、ガラスのテーブルウェアをご提案するとき、ただお見せするだけでなく、実際にその器でお料理を食べていただくことができたら、瞬時によさが伝わるはず。自分たちもわくわくしながら取り組めるものが、いちばん感動を伝えられると思うんです。」

真鍋料理長「感動は大切ですよね。なにごとも感動がないと伸びていかないですから。料理もある種の肉体労働ですので疲れるときもありますが、やはりその感動を求めていつも仕事をしていますし、それをお客さまへ届けるためにもがんばろうと思っています。」

CLASS GLASS 池本「まさに、わたしも同じです。ものをつくるときは、好きな気持ち、喜んでもらいたいという気持ちを大切にしています。真鍋料理長も職人で、わたしも職人。新しいものをつくりたい、人に感動してもらいたいという気持ちはつながっていますよね。お料理もガラスも、“いいね”と思ってくださる方との出会いを広げていきながら、ともに魅力を伝える機会を増やせたらと思います。そうすれば、山陽小野田らしさも自然に伝わっていくんじゃないかと感じるんです。」

真鍋料理長「それはいいですね。たとえば夏以外にも使えるガラスの抹茶碗ですとか“こういうものがほしい”と思っている方はたくさんいらっしゃると思うんです。それを伺う機会を設けることで、なにか新しい素晴らしいものが生まれる予感がします。山陽小野田は九州からも近いですし、観光で山口にいらっしゃる方や、市内外でがんばっている若い方などとも交流しながら、みんなで盛りあげていけたらいいですね。」

春駒亭 真鍋正彦料理長と、CLASS GLASS 池本美和