超短編小説 「クレヨンの世界の中で」

また、今日も冷ややかな目で、見られている。
どうしてなのだろう。僕の肌が、みんなの色と違うからなのだろうか。僕の鼻が、みんなより高いからなのだろうか。僕の名前にカタカナが入っているからなのだろうか。僕の、、、。


誰も理由なんて教えてくれない。学校の先生だって、Googleだって教えてくれない。もしくは、誰も明確な理由なんて、持っていないのかもしれない。「この世界に、理由のないことなんて何もないんだ。」と言っていた、あの科学の先生の言葉を信じて、これまで生きてきたが、この年になって、あの言葉が嘘であったことは、理解し始めている。この世界には理由のないことだらけだ。誕生日に、歳の数だけ、ケーキにロウソクを立てることも、ティッシュが二枚で一組なことも、寝る時に、枕を使うことも、全部が全部、僕からしたら、理由のない決まり事なんだ。


「Hey Siri, どうして僕はみんなに受け入れてもらえないの?」
『すみません、よく分かりません。』
「Hey Siri, どうしてみんな僕を冷たい目で見るの?」
『すいません、よくわかりません。』
「Hey, Siri, 君も僕を受け入れてくれないの?」
『すみません、お役に立てません。』
Siriだって、何の理由も教えてくれない。


この世界には、理由なんて退屈なものは見つからなくても、純粋無垢で、心を踊らせてくれる「色」という概念が存在している。しかし、その素晴らしいはずの「色」達が、人間に使用された時点から、「邪念」を含み出す。やめてくれ。これ以上、「色」を汚さないでくれ。


「今日こそ、白黒つけよう。」
「あの企業はブラックらしいよ。」
「赤の他人のことなんて、気にしないの。」
「一旦、この企画は白紙に戻そう。」
「君は、この中では紅一点の存在だな。」
黒だって、白だって、赤だって、何色だって悪気はない。悪いのは、そのイメージを付けてしまった、人間だ。

『Hey 僕, ブラックも、ホワイトも、そしてイエローだって、傷ついたらみんな、レッドなんだよ。』
Siriから僕への、最初で最後の、自発的な言葉だった。

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