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時差ボケ

「幸あれ」が別れ言葉だった。まだ付き合ってもいない、ただ気持ちを伝えたかった人への。お手紙を持って潔く振られてきたあの日から、一晩で立ち直れたと自分と周囲の者を騙し続けて三週間。遺品は悲しさではなく、人に対する不信感だった。

こう振り返ると私の恋も、地理的な距離だけじゃなく、心のズレもタイミングも、起きている時間帯も、私と同じく時差ボケ常習犯。得てないからこそ広がる想像力で補ったあの超長編映画も上映終了。やっとの事で歩みだしたこの一歩も、おかげさまで停滞している。

グレーゾーンがどうやら苦手で、慎重に行動しようとしても直感で判断することが多い自分は、この心に耳を傾けて正直に生きてきた者として、良くも悪くも目前で一番リアルな感応が味わえる。けれど私は思う以上弱いし、思う以上強い、矛盾で定義が成り立たない私にとって、他人を通じて自分を理解する消去法がより効率的だと近頃感じているところだ。

過去に感情のアウトプットを諦めた経験があるので、それがいかに体に害を及ぼすか承知の上で綴らせてほしい。嘘をついた人のせいにするのではなく、それを信じた自分がいけなかったという考え方は、コントロールできる主体である自分自身を中心に置いている。正直まだ揺れている。やはりまだ完全に釈然したわけではないけど、学び深かったこの「幸あれ」。自分も相手も許さないと、前に進めないのは確実であるから。時間は完治してくれないが、多少和らげてくれる。間近で見ると傷だらけだけど、それでいいのだ。

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