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来週の相場見通し(8/22~8/26)

1.はじめに

現在のマーケットのポイントは「2つのセンチメントの逆相関」が同時に発生している。「弱い経済指標が出ると、FRBの利上げペースの鈍化からリスクオンとなる逆相関」だ。これは、よくあることだ。市場は良いとこどりする局面もあれば、悪いとこ探しをする地合いの時もある。今は良いとこ取りする相場環境だということだ。もう一つは「市場がリスクオンになると、FRBがそれを警戒してタカ派的なコメントをするという逆相関」。これも市場があまりに楽観的な場合にはしばしばあるのだが、現在のように経済指標も低迷し、株価も一時は弱気相場入りするほど落ち込んだ環境では珍しい。もちろん、インフレを最優先しているからなのだが、今のFRBもそしてバイデン政権も、あの6月の最も市場環境が厳しい局面でも、「どこからも株安を牽制したり、心配する声は出なかった」という点は忘れてならない。民主党政権においては、富裕層に影響の大きい株安よりも、全国民に影響するインフレ退治が遥かに重要なのである。トランプ前大統領は、「株価を政権の成績表」と位置づけ、株価が上がることをとにかく喜んだ。これがバイデン政権とトランプ前政権の明確な違いであり、飛躍すれば民主党と共和党の違いでもある。さて、この2つの逆相関が同時に発生しているため、リスクオンなのに金利が上がらない、経済指標が鈍化しているのに、債券市場は妙に慎重で、逆イールドは一向に解消されない。株高が進む一方で、金利は動かないなど、市場参加者にとって分かりにくい相場環境となっている。しかし、話は簡単で「個別の資産が勝手に動いている」ということだ。但し、これは一時的な展開だと思われる。いずれ、市場は株式市場も債券市場も、為替市場も商品市場も、「FRBは簡単にインフレ退治の手を緩めない。利下げはかなり先まで見込めない」という点で共通見解を持つことで、それぞれの市場の動向は連携し、相関し、少し分かりやすくなっていくと予想している。

2.市場の利上げ見通し

いつものように市場のターミナルレートから確認しておこう。最新の状況は、来年の3月にかけてFF金利は3.7%弱まで引き上げられ、その後は年末までに3.2%台まで引き下げられることを織り込んでいる。利下げを織り込んでいることに変わりはないが、ここ数週間で市場の見通しはかなり変化してきた。少し前は来年末のFF金利は2.6%台まで低下することを織り込んでいたので、60bpも変化したということだ。これは、冒頭に述べたように市場がリスクオンに転じる中、FRBのメンバーが連日、タカ派的なコメントを発信しているからだ。

(市場の利上げ織り込み)

ところで、このFRBの市場とのコミュニケーションの取り方は新しいスタンダードになる可能性がある。どういうことか?正式な会合であるFOMCの場では、従来のような明確なフォワードガイダンスは示さない。つまり、不確実性が高いので、「データ次第」ということを強調して、市場に楽観も悲観もさせない。そのかわりFOMCメンバーたちが、FOMCの外でかなり細かい部分まで自分の見通しを発信して、市場に横から影響を及ぼすやり方だ。このやり方ならインフレ見通しを外して、「FRBは間違えた!」と大騒ぎされるリスクが低減する。既にECBはフォワードガイダンスからは距離を置いている。これが米国と欧州の中銀の新たな市場とのコミュニケーションになるのだろう。一方で現行の金融政策を死守したい日銀などは、公式の日銀金融政策決定会合で明確なフォワードガイダンスを出し続けることで、金融政策のフレームワークを維持すると思われる。

3.米金利は再び市場の主役へ

このところの市場は米国株が主役であり、今年前半の市場のメインドライバーであった米金利は概ね膠着していた。しかし、9月は米金利が再び主役に躍り出るだろう。その要因は複数ある。
① FRBの量的引き締めペース加速
② FRBの適正なバランスシート規模への議論

 FRBの債務超過懸念(保有債券の市場での売却議論)
④ イールドカーブの修正(逆イールドの形状)
⑤ 3ヵ月物と18ヶ月物スプレッド動向
⑥ 中立金利の議論(本当に2.5%近辺??)
今回は見出しだけに留めておく。いずれ説明したい。とにかく、このところ膠着感を強めている米金利が動意を持つテーマがいろいろあるのだ。米長期金利が再び上昇したときに、ハイテク・グロース株がどれほど耐性があるかは注目だ。イメージ的には米長期金利の上昇が3.25%(従来の重要レベル)程度までなら、ハイテク・グロース株もそれほど大きな調整にはならないと見ているが、果たしてどうだろうか?

4.米国株の動向とインフレ関連

こうした中、米国株は力強く上昇しており、S&P500は6月の安値である3,666から一時4,300を回復し、高値から安値幅の半値戻しをあっという間に達成した。「半値戻しは全戻し」の格言を感じさせる強さである。この間、予想PERは15倍台前半から18倍台へと上昇しており、金融相場的な株価上昇となっている。(予想EPSは低下)FRBが過去に例のない利上げサイクルにある中で、金融相場的な環境というのは違和感はあるが、そもそも今年の市場は先に株価が悪材料を全て織り込む形でバリュエーション調整が起こったので、実際には「逆金融相場の思惑の揺り戻し」というのが実際のところだろう。

米国経済指標では住宅関連と製造業関連が弱く、労働市場と個人消費が堅調という状況が鮮明になっている。住宅着工件数は大きく落ち込んだ。

(住宅着工件数)

NY連銀製造業景気指数は▲31.3と前月の+11.1から急低下した。ISM製造業指数に換算すると、節目の50を大きく割り込む45台となることから心配されたが、フィラデルフィア連銀の製造業指数が予想を上回ったことから、やや安心感が出ている。

(NY連銀製造業指数)

ところで、何故ニューヨーク連銀やフィラデルフィア連銀、リッチモンド連銀などの製造業指数がこれほどぶれるのか?という質問を受けることがある。答は「THIS IS AMERICA」である。米国の州は、日本の県ではない。州が異なれば、まるで別の国くらい産業も人口構成も、気候も異なるのが、米国の特徴だ。だから、市場参加者もこういう指標にあまり一喜一憂しない。各州いろいろ状況は異なるので、ISM製造業指数などに集約されたものを見るのが一番いいということになるのだ。いずれにしても、9月のISM製造業指数には注目が集まっている。ISMはヘッドラインも注目されるが、今の市場はインフレのピークアウトを期待していることから、サプライチェーン関連の改善度合いも要注目となるだろう。

インフレについては、とりあえず事実を列挙するなら、次の点がポイントだ。①コロナに伴うサプライチェーン問題は著しく改善している、②原油や各種の資源価格も明確に低下しているが、冬場への警戒は強い、③米国の賃金インフレは根強い一方で、欧州の賃金インフレは限定的、④英国や欧州のエネルギー上昇によるインフレは冬場が試練、⑤市場は、インフレがピークアウトして鈍化傾向にある「方向性」に注目して楽観視する一方で、FRBは8%台という高い「水準」と2%へ向けての厳しい道のりに警戒を示している。下のチャート、ニューヨーク連銀のグローバル・サプライチェーン・プレッシャーインデックスだ。

(ニューヨーク連銀のGSCPI)

5.ウクライナ戦争関連

ウクライナ戦争は長期化しているが、両国ともに戦争の維持が厳しくなり始めている。ウクライナは総動員令と戒厳令を延長し、総力戦の態勢を整えているが、武器弾薬は不足しており、米国からの支援なしでは戦争を継続できない状況だ。一方のロシアも8月より「産業総動員」を導入し、工場を休みなくフル稼働させて、不足する物資の製造を行わざるを得ない状況となっている。ノーベル賞を受賞したクルーグマン教授が、「西側のロシア制裁は効果を出している。ロシアは中国やインド、中東がエネルギーを買ってくれるので、売ることに困っていないので戦費は稼げるが、西側が必要な製品を売ってくれないので、買うほうに困っている」と指摘している。実際にウクライナ軍が回収したロシアの兵器を分解すると、西側の製品や技術で構成されていたというので、そういう部品が輸入できないと、自前で作らざるを得ないということであり、色々と大変なのだろう。いずれにしても、戦局が膠着し、疲弊感が漂う中で、原発への攻撃、ロジスティクスに重要なインフラ(道路、橋)などへの攻撃も増えており、非人道的な作戦が展開される可能性も否定できない。
ところで、その米国に頼らざるを得ないウクライナにとって、米国のゼレンスキー政権のムードが変わり始めていることは要注目だ。遠藤誉氏が以下のサイトで説明されているが、米国のニューズウイークが「プーチンは凶悪犯で、ゼレンスキーは腐敗した独裁者だ」という記事を掲載したのだ。詳しくは以下のリンクで確認してほしい。

アメリカ、ゼレンスキーに不信感 習近平に救援を求めたのは大失点か(遠藤誉) - 個人 - Yahoo!ニュース

これから米国は中間選挙モードに突入する。トランプ前大統領の自宅への家宅捜索もそうだが、これから政治スキャンダル的なリークやフェイクニュースなどは出てくる時間帯となる。バイデン大統領にもハンター・バイデン氏のスキャンダルやウクライナ関連の疑惑など、いろいろネタはあるので、状況によっては米国がウクライナ支援を積極的にできない状態になる可能性もある。欧州は冬場のガス不足で、自国のことで精一杯だ。ウクライナ戦争は、ロシアが東部、南部の住民投票を延期するなど、長期化の様相を強めているが、ウクライナが戦争を継続できない状況になることで、戦争の終結がバタバタと進む可能性もあるだろう。(個人的見解)

6.来週について

来週については、ジャクソンホール会合が最大の注目ポイントとなるが、FRBメンバーの最近の発言等を鑑みれば、ハト派的なコメントは期待できず、今後のデーター重視という従来の姿勢を繰り返すと思われる。バランスシート縮小のペース加速についての言及があればサプライズとなる。ジャクソンホールに向けて米長期金利は上昇傾向にある。期待インフレ率は予想通り2.5%近辺へ上昇してきたが、この辺で膠着しそうなため、名目金利の上昇は実質金利の上昇を伴うことになる。名目金利、実質金利ともに大きく上がると、いったんは米国株は売られることになるだろうが、もっと厳しい条件を5月から6月に経験済みなので、急落する展開にはならないだろう。日本株も7月に海外投資家が1.7兆円を買い越した後、8月の2週目までに更に8千億円超の買い越しとなっており、日本株を取り巻く地合いは相当に改善している。従って米国株に連動して売られる局面では、押し目買いが入りやすく、大きくは下がらないと思われる。サハリン2については、今後の動向が変化する可能性があるが、とりあえず大丈夫なようだ。来週の予想レンジは28,500円~29,200円を予想する。

(海外投資家の日本株フロー)


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