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自宅が火災に巻き込まれて知った世界①

それはあまりに突然だった。
あまりに突然で、その日から私たち家族の生活は一変し、信じられないような日々がしばらく続いた。
にもかかわらず、記憶はだんだんと薄れていってしまって、このまま自分の中でなかったことになってしまいそうな気がして嫌だった。

なので私は書くことにした。
私たち家族に起こったことすべてを、拙い文章になると思うが、目を通して知っていただけたら幸いです。
そして同じような境遇や思いを持った方が今どこかにいるのなら、もしかしてこの記事がそんな誰かの思いを少しでも代弁できることがあるのなら。

そんな願いと希望も込めて、誰かのために、そして自分のために記していきます。

2021年11月19日、自宅の隣にある自動車整備工場から出火した


2年前の2021年11月19日の学校終わりの夕方、私は自宅二階でピアノの練習をする二人の娘の演奏を聴きながら、布団の中でパートで疲れた身体をゴロゴロと休めて至福の時間を過ごしていた。
耳に届くのは長女が奏でる『メヌエット』。
可愛らしく弾けている。

「そろそろ時間だね」
意を決して布団から抜け出し、出発。
時刻は16:28。いつもより少しだけ早い。

車を走らせて約5分後、景色が一望できる高台にある住宅地の坂の上、まさにお気に入りの曲がり角に到着したとき、異様な光景が私の目に飛び込んできた。

遠く離れた場所からでも分かる真っ黒に立ち上る大きな煙。
明らかに焼き畑とかではなく、火事を連想させる黒々と不気味な煙だ。
方角的に自宅の方向で、もしかして自宅から火が出たのではないかと胸騒ぎがする。

とその時、私のスマホに着信。
表示された相手は近所に住むママ友で、LINEでちょっとしたやり取りはしたことがあったものの電話をもらうのは初めてだ。
嫌な予感がする。やはり私が火災を起こしてしまったのだろうか。
怖い。
どちらにしても電話がかかってくるなんて、何かただ事ではないことが起きているのだろう。

「〇〇(私)さん今どこ? 火事! 〇〇モータースから火が出たの! 風向きが〇〇(私)さんの家の方に煙がいってて近寄れないんだけど家にはだれかいない?」

早口でパニックになっているが、彼女の的確な言葉のおかげで私はしっかりと状況を把握することができた。
やはり家の方角だった、、、私が起こした火災ではない、、、
ショックと安堵と不安でクラクラとしてきた。

急いで夫と義母に電話をすると、夫は驚いた声の後、すぐに駆け付けるとだけ言い電話を切った。義母は電話に出なかった。
スピーカーで会話していたため、娘たちも後部座席で不安そうな顔をしている。

「大丈夫。とりあえずピアノに向かおう。ママは家が心配だから帰るけど、また迎えに行くから待っててね」

しっかりしなきゃ。
私が今パニックになって急いでここで家に戻るより、子どもたちはとにかく安全な場所に連れて行った方がいいと咄嗟に判断した。

不安な気持ちをいったん飲み込んで、運転に集中することだけで精一杯だった。

消防車が24台。自宅前は規制線が張られ入れない状態

娘たちをピアノ教室に送り、不安に押しつぶされそうな気持のまま家路を急ぐ間にもスマホに次々とLINEが届く。

「ねえ! 〇〇ちゃん大丈夫?」
「火事の方角って〇〇ちゃんの家の方じゃない?」
「近所で火事だよ! 今どこにいる?」

いろんな人からメッセージが届く度に、自宅が本当に危ない状況になっているということが嘘ではなく現実のことなのだと実感して焦りが大きくなる。

最初の一報を知らせてくれたママ友からまた電話が鳴る。
「戻ってこられそう? 家の前の道は放水で塞がれてるから車では入ってこられないと思う。ファミマに停められそうだったらそこに停めて、消防や警察の人には『住民です』って言ったらきっと入らせてもらえると思うから!」
普段は子供たちの登校時に顔を合わせるだけの間柄の彼女の声が、こんなにも心強いなんて。

「分かった! ファミマに向かう!」
「気を付けてね! 動転して事故でも起こしたら元も子もないんだから。おうちの状況を確認してあげたいんだけどすごい煙でうちも窓を開けられない感じで。ごめんね! でも風向き的にまだ〇〇さんの家の方に煙はいってるかも…被害が少ないといいね」
「分かった…ありがとう」

ここでやっと義母とも連絡がつき、すぐに向かってくれるとのこと。

ファミマに向かう道路はだいぶ前から渋滞をしていて、上空にはヘリコプターも飛んでいた。車はノロノロとしか進まなくて焦りがさらに募る。
早く帰りたいような、現実を見てしまうのが怖いような、そんな気分だったと思う。

近所に住む娘たちの幼稚園時代のママ友から電話。
「あ! 無事! よかった! 大丈夫? 娘ちゃん達も大丈夫? 私も今からそっちに行くから!」
ひとり焦る気持ちの中、優しく心強い言葉に涙が出てくる。
「ありがとう…」

夫から着信。
「家に着いた。だいぶ燃えてる。とにかくサチとヒナがやばい。今から病院連れていく」

サチとヒナがやばい…。
夫のその言葉が私の心をさらに深いところへ叩きつけた。

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