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建築デザインの可能性を拡げるために - 経営に貢献する建築デザインを目指して

こんにちは。安藤研吾です。
今日は、自分自身のキャリアを振り返ってみたいと思います。

私は、国内外での組織やアトリエを経験してきましたが、現在は建築業界を離れています(建築愛は継続しているつもりです)。ふらついているとも揶揄されそうなキャリアですが、背景には建築デザインの可能性をどうすれば拡げていけるのかと自分なりに考え続けてきた問題意識と自分なりの実践がありました。今日のブログでは、そんな自分なりの考えと実践をまとめてみます。

建築デザインの可能性を拡張することに対して、一人でも意識が向いてもらえれば望外の喜びです。


①考察: 建築デザインはどのような領域に拡張するべきか?

学生時代は建築雑誌を読み漁り、建築業界のいわゆる「言論」を崇拝し、「建築・都市のデザインを通して社会を良くしていきたい」。
そんな風に息巻いていました。

・・・しかし、現実に目に見える都市の風景は、おおよそ業界で語られている内容とは異なったものに映っていました。

なぜ建築業界での正しい理論が実現されていないのか?
建築業界の正しい理論を広く普及させるべきだ!!
世の中には、己の経済論理だけで街を作るならず者がいて、その者たちと建築業界は戦わなければならない!!

…とまぁ、過激な思想に染まっていた時期があったことをここに白状しますw

しかし、国内外での就労経験、特に国内都市開発の仕事を経て、都市が作られる上では、建築デザインだけでなく非常に多くの専門分野が交錯すること、そして異なる分野の数だけ別々の「正しさ」があることを痛感することとなりました

上記のような経験から、自分が見ていた「建築デザイン」の領域は世の中全体から見たらごく一部であること、更に、建築業界の中ですら「建築デザイン」の領域はごく一部なのではないかと感じるようになりました(その時に、建築業界全体を俯瞰してみようと以下のマップや記事を執筆しました)。

建築業界のポジショニングマップ

さらに、建築はその事業規模によって求められる要素が大きく異なることも、組織とアトリエの両方を経験することにより感じることができました。(規模が大きくなるほど必要なコンセンサスの規模も種類も増加するため、建築的感性のみでは合意を得られず、経済合理性等の論理性がより重要となっていきます。)

建築PJの規模により求められる理論・感性のバランス
(仮説)

業界を俯瞰してみたり、様々な規模のPJを経験することで、建築デザインの感性だけでは世の中は動かせない、少し言い換えると業界内の『意匠的価値観』だけでは社会は動かせないのではないかと感じるようになりました。しかしそれは、建築デザインの可能性を諦めたわけではなく、その可能性をフルに発揮するためには、業界の中に籠もらず、現実の社会に影響を持つ他の分野・領域と連携する必要があるのではないか?と考えるようになりました。

また、建築主が個人であれ法人であれ、建築の多くは不動産投資事業として成立していることにも気付きました。そのため、建築が構造として成立しなければいけないように、事業としても成立しなければそもそも実現できません
その点に気づいた後に、良質な建築デザインを実現するためには、良質なデザインが事業に貢献することを主張する必要があるのではないか?と考え、そこからは事業とデザインを水と油のように相反するものとして捉えず、事業とデザインの両方を高める方向性を目指すべきなのではないかと考えるようになりました。

その考えに至った後、どのように実践できるかを模索していくことになります。

建築デザイナーの目指すべき方向性

②実践: デザインとビジネスの両立に向けて

デザインとビジネスの両立を実現するため、自分が開拓していたのは建築の事業企画という業務領域でした。設計業務に入る前段階で、より良いデザインでより良いビジネスを実現することを目指し、ありとあらゆる業務を手探りで模索していました。

建築事業の収支計画や建築計画の策定だけでなく、時には企画段階で核となる商業テナントの出店合意を取り付けるために奔走したり、デザイン価値を高めることが売上アップにつながることを説明するための調査を実施したり、本当に様々な業務に関わらせていただきました。建築事業を立ち上げるまでの様々な検討や、建築が竣工した後の運営計画作成等を事業主と伴走させて頂ける経験を経て、建築PJの全体像を把握したいと考え作成したのが下のタスクマップです。

建築PJにおけるタスクマップ
建築PJにおけるタスクマップ
(濃黄色:建築業界の専門領域、淡黄色:一般的な建築業界が業務として担うことのある領域)

ここまでまとめた段階で、デザインとビジネスを両立するための方法もおぼろげながら見えてきました。今回は、周囲の助けのお陰で開拓・発見してきた4つの方法を紹介します。

01_クリエイティブ全体の監修とコスト最適化

上のタスクマップで記載したように、建築デザインの領域(設計)はPJ全体のタスクの中のごく一部となります。ここで、だから影響力が少ないのか…と諦めず、タスク全体を俯瞰して、他の業務領域と連携することでPJ全体の価値を高めることはできないかと考えます。タスク全体の中でも、マーケティングやブランディング・PR等は広告デザインの分野として感性が重要となるため、建築デザイナーが比較的連携しやすい領域となります。そして、広告デザインとの連携により、クリエイティブ全体のデザインを統一でき、PJ自体のブランドイメージを一貫性を持って強く発信することができます。顧客は、ポスターやTVなどの媒体でPJの認知をし、イベントやSNSで関心を高め、HPやパンフレットで調べてから、実際の空間を体験し、その場所で何らかのコミュニケーションを取りますが、この顧客体験全体で一貫したブランドイメージを抱いてもらえるようクリエイティブ全体を監修するのです。

建築PJの顧客接点(カスタマージャーニー)イメージ

また、クリエイティブ全体を監修できると、ブランドイメージの強化だけでなく、ブランドイメージやデザインの質を維持しながらコスト最適化を図ることができ、事業全体の収益性向上も可能となります。この結果、質の高いデザインによるビジネス貢献を実現しうると考えていました。

クリエイティブ全般の予算最適化による収支改善イメージ

非常にザックリな例ですが、例えば、建築コストを下げる代わりに、広告費や外構費を増額することによりブランドイメージを強化し、収益性を改善させるようなケースが上のグラフイメージです(もちろん、ケースによっては建築コストを上げるパターンもありえます)。このようなケースでは、コンセプトとの整合性や費用対効果の検証からクリエイティブの予算配分最適化を図ります。コスト削減をしてもブランドイメージを損なわないようなデザインの見極めも非常に重要となります。

02_事業ポートフォリオ全体における位置づけの提案

次の方法です。対象とする建築事業は多くの場合、クライアントの手掛ける複数事業のうちの一つです。

クライアント企業のPJ構成イメージ
(ここでは、Project1が対象とする建築事業)

今回の手法は私自身が開拓したものではなく、クライアントの担当の方々が自社での合意形成の上で工夫された方法ですが、対象とするPJを、他のPJのブランドアップのための広告的な役割と位置づけることで、他のPJのような厳しい収支基準を求められず、かつブランドアップのためにデザインに多めに予算を割くことが可能となりました

他PJへの収益性の貢献イメージ
(赤字:損益、青字:収益)

例えば、特定のエリアに集合住宅を多く所有するデベロッパーの事業において、駅前からエリアのブランドを発信するためのパイロットプロジェクトを収支基準に満たなくても先行させ、その駅やエリアのブランドイメージを高めた後に、他の集合住宅の賃料に上乗せすることで回収していました(言うは易しであり、これを実現されたご担当の方々には頭が上がりません。。)。

03_公益性の追求による公共ファイナンスの活用

特に地方都市においては、多少の工夫では採算を合わせられない程、マーケットが悪いことも多々ありました。そのような場合においては、そのPJに公益性を持たせ行政を巻き込むことで、公共からの予算を充てることもいくつか実践してきました(ただし、単に補助金を取るのではデザイン性の高いPJは実現し難く、また補助金の制限により必ずしも公益性も収益性も高い用途が実現できないこともあります。そのため、あるべき公益用途の検討や、非常に難しいですが、運用が制限されないような公共資金の入れ方を模索する必要があります。)

公共ファイナンスによる収支改善イメージ

この方法(PPP)は非常に奥が深く、専門性が非常に高いので、今回のブログでは詳細は触れません(「触れることができません」の方が正解)。しかし、正しくPPPを活用し、マーケットが成立しないエリアでも公共と民間とで公平にリスクを負いながら投資をすることで、地方が独自の開発を推進していくことは、地方創生に必要な施策だと考えています。

04_クライアント企業の経営戦略と連動した位置づけの提案

02の変化型です。建築PJを事業として見るだけでなく俯瞰して、クライアント企業の経営にいかに貢献できるか?という視点で検討していきます。

建築PJと経営との関係

建築PJ単体での収支が厳しいが重要な案件である場合、クライアント企業の経営改善のための取り組みと位置付けて、従来の開発予算以上の予算を獲得していく方法です。こちらも、私自身が開拓したのではなく、クライアントの担当の方々が実践されていることを横目に見ていたものですが、建築デザイナーもここまで提案できると、経営改善を図りたいクライアントにとっては有り難いはずです。

建築事業を行う事業部Aと経営との連携案

05_デザインとビジネスの両立のための実践・まとめ

さて、ここで一旦まとめます。
建築デザインはその業界に閉じこもらず、特にビジネスとデザインの両立を目指すべきだと考え、手探りで建築の事業企画を模索してきました。

その中で発見したことは、建築デザイン(設計業務)を建築PJ全体から俯瞰すると、全体のタスクの中のごく一部であるということでした。しかし、そうであるがゆえに、建築PJにおけるクリエイティブ全体を監修しコスト最適化を図ることで、デザインとビジネスを互いに高めていける可能性があると考えて実践してきました。

建築PJにおけるタスクマップ(再掲)
(濃黄色:建築業界の専門領域、淡黄色:業務として担うことのある領域)

さらに、建築PJだけでなくクライアント企業の経営との連携という視点から俯瞰すると、事業全体の中でのPJの位置付けや、経営上の位置付けを提案することで、デザインとビジネスを相互に高めていける可能性があると発見しました。その方法を実現していくためには、建築デザイナーも経営の領域へと踏み込んでいくべきだと考えています。ただし、踏み込むとは、専門領域に関する知識の蓄積だけではありませんが、必ずしも経営戦略の提案までをデザイナーが担う必要があるのではなく、経営を深く理解し、経営と建築をつなげた提案・実践ができることが重要となると考えます。

建築事業を行う事業部Aと経営との連携案(再掲)


③再考察: 経営に貢献する建築デザインを目指して

以上のように、建築デザインと経営を結びつけ、質の高いデザインの実現と、それによるクライアント企業の経営への貢献を目指していきたいと考えるようになりました。そのためには、どうすれば経営を改善していけるかに関する知識と実績が必要になると考え、経営コンサルタントとして修行をしているのが私の現在地です。今度は経営の現場から、建築デザインと経営の関係について考え続けていきたいです。

最後に、現時点(2022年2月)で考えている建築デザイナーによる経営と連動したアクション(案)をまとめます。全てを説明するのは冗長ですので、個人的に建築デザインの業界が目を向けてほしいと思う2つの方向性を説明して、本ブログを締めたいと思います。

01_クライアント企業の経営に貢献する建築事業の企画推進

自らは事業投資を行わず、事業会社を専門家として支援する立場としての提案です(一般的な設計事務所)。クライアントは設計者に設計を依頼するわけですが、クライアントの本音は、「建築PJを通して企業の業績を高めること」のはずです。

その実現に向けて、クライアント企業の採用戦略や広告・PR戦略等とも連携し、よりそれらを強化するために建築事業を活用できるような提案の実施。さらに、クリエイティブ全体の監修や予算の最適化を通して、事業自体の収益性向上も図る。そのように、よりクライアントの経営改善ために、空間だけでなくクリエイティブ全体を提供していくという方向性です。質の高いクリエイティブに対して、「これは質が高いです!(業界内で)」と説明しても企業は動きません。質の高いクリエイティブがどのように経営にインパクトを与えるかを説明・実現していけるデザイナーこそ、真にデザインを実現し、世の中を動かしていけると考えます。

02_少額投資で小規模店舗を開業し、実績を積みながら規模の拡大を目指す(デザインによる地方創生)

こちらは、建築デザイナーが自ら事業者として事業を経営する立場としての提案です。例えば、デザイン性の高い飲食店を自ら投資・設計・運営することで、そのエリアに人を呼び込み、自らのデザインにより地方創生を図っていく方向性です。

実際に実践されているデザイナーの方は多くいるのですが、地方創生を本気で実現するには、数個の店だけでは残念ながら力不足となるのも現実です。地方にも既得権益層はいますし、地方が本当に変革して競争力を持つようになるには、事業規模も政治的人数規模も必要となります。

建築デザイナーが自ら地方に投資をして地方創生をリードしていくことは、建築キャリアのあるべき姿の一つと捉えていますが、次のフェーズとしては、いかに規模を拡大していけるかだと考えます。なお、そのフェーズにおいてゴリゴリと開拓されている先人たちは既におりますので、個人的に大変期待している方向性です。


以上です。
あらためて、まとまりのない長文をここまで読んでいただき、本当に本当に有難うございました!まだまだおぼろげな考えを記しているので、構成も内容も不明瞭な点が多々あったかと思いますが、コツコツと改善をしていきたいと考えています!

建築デザインの可能性の拡がりを願って
-安藤 研吾

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