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淋しさゴールデンタイム

”私、淋しさゴールデンタイムなの、今” アスカが愛らしい笑顔でケロケロと笑いながらつぶやく。その言葉に楓流は思わず吹き出してしまった。
”淋しさゴールデンタイムって、何?” ”昭和の歌謡曲のタイトルみたい”
楓流が笑いながらアスカに答えた時、
”わかるよ、そういう時あるよね!” 先に別の誰かが答える。
すると、”私も私も”、と、あちこちから声が上がり、それが文字になって画面いっぱいに流れ、結局、私の言葉はアスカの目にとまることなく、あっという間にその中に埋もれていってしまった。
”だから、みんなに会いたくなって配信してるの!” アスカはそう答えると、また画面の向こうでケロケロと満足そうに笑った。
 淋しさゴールデンタイム、淋しさゴールデンタイム、楓流はアスカの言葉をなぞりながら、タバコの煙をフワッと吐くと、そっとスマホの画面を閉じた。
 今日は一日稽古場でレッスンだったが、結局一日中気が乗らず集中できなかった。次の公演内容が決まらないのだから、仕方がない。なにやら作家先生がスランプらしく、台本が上がってこないとプロデューサーの釜戸がぐわぁっぐわぁっとこぼしていた。そんな悩めるプロデューサーも気にせず阿是道が、
”ねえねえ!畑組に新人入るらしいよ、うらやましくない?”と大声で言うものだから、釜戸の表情がさらに険しくなっていた。
 畑組は比較的新しく作られた組というのもあり、田んぼ組と同じ蛙塚歌劇団とは思えないほど、アグレッシブだ。積極的に新人を取ったり、今までどの組でも扱わなかったテーマの公演をしたり、歌劇団に新風を吹き込んでいる。”私、畑組に移るのもアリかなって思うのよね” デリカシーのない阿是道の大声は疎ましくもあったが、楓流にも阿是道がそう言いたくなる気持ちがよくわかった。
 その稽古場での出来事が頭をよぎったせいで、楓流は眠れなくなってしまった。とりあえず落ち着かない心を鎮めようと、新しいタバコに火をつける。
 フワッと煙を吐きながら、楓流はこの先のことを考え始めた。

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