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ドリス・ヴァン・ノッテン 美の背景を巡る旅

僕がファッションに興味を持ち始めた頃から、長い間変わらず好きなデザイナーがいます。アントワープ出身のデザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテン。

彼のクリエイションを一言で表すと、まさに着ることができる「アート」。歴史、写真、民族的要素、映画、音楽、地理、自然などあらゆる分野からインスピレーションを得て、そこに伝統的な職人技術を駆使し、美しいエネルギーを洋服に宿します。
いわゆる独立系ブランドとして(2018年についにプーチの傘下に入りましたが)、クリエイションとビジネスの両立をデビュー当時から保ち続け、かつ刺激的なコレクションを毎回発表し続けるそのスタンスは、他の誰にも真似できない素晴らしい偉業です。

本日は彼のクリエイションの背景にある「風景」を少しだけご紹介したいと思います。

DRIES VAN NOTEN(ドリス・ヴァン・ノッテン)

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ここ最近のトピックで言うと、やはり2018年に日本でも公開された映画「ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男」。彼のクリエイションが世界的により注目されるきっかけとなりました。僕ももちろん映画館で観ました。とても素晴らしい作品でした。

密着取材をことごとく断り続けてきたドリスを、ライナー・ホルツェマー監督は3年掛けて説得、ようやくこの映画の制作に至りました。
劇中で語られるコレクションの創作過程はもちろん必見ですが、個人的には映像初公開となるベルギー郊外にある自宅「ザ・リンゲンホフ」での私生活がとても印象的でした。
広大な庭があるこの豪邸は、以前から話題になっていましたが、やはり映像で見るととても美しかったです。様々な樹木や植物、花、野菜などが庭で栽培されており、ドリス自ら手入れしている姿はとても愛らしく、オフィスでデザインしたり、ランウェイの準備をしたりする顔とは全くの別人でした。

コレクションのインスピレーション源として、花や植物は彼の作品によく登場します。この美しい「風景」がそのまま彼の頭の中に浮かび、誰も思い付かないような独創的な想像を掻き立てるのでしょうか。ともかく素敵なご自宅です。

Dries Van Noten's Belgian house and gardens “Ringenhof”

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映画のタイトルにも使われている「花」。花を使った演出でとても印象に残っているコレクションをご紹介します。

2017年春夏コレクションは、日本を代表するフラワーアーティスト、東信氏とのコラボレーションを行いました。彼の代表作でもある、氷に花を閉じ込めた「ICED FLOWERS」がランウェイを彩り、美しくも幻想的な世界を表現していました。ショーが進行するとともに、氷が溶けてランウェイに水が滴るんですよね。その様が何とも言えずエレガントでした。

“ICED FLOWERS”とは、花々を氷で包み込み、その中で刻まれていく命の変化を鑑賞する作品です。
氷の中に存在することによって引き立てられる花の表情には、普段は見ることのできない独特の空気が漂います。
廃墟という人の手から離れた無機質な空間で、花と氷が互いに時間を進めていく姿をぜひご覧ください。

DRIES VAN NOTEN×東信 
2017年春夏コレクション

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最後に2014年から2015年にかけて、パリとアントワープで開催されたドリス・ヴァン・ノッテンの展覧会(インスピレーション展)をご紹介します。僕は実際に見には行けませんでしたが、会場の写真を見るだけでも美しさが伝わってきます。
ドリスのクリエイションの奥深さがひしひしと感じられる展示です。
彼の作品の素晴らしさを再認識できる良い機会になったと思います。

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彼がこれまで影響を受けたジョヴァンニ・ボルディーニやダミアン・ハーストなど、あらゆる分野のアート作品を一同に集め、ドリスの作品との共通点や矛盾を指摘。それにより、彼の80年代初期からのコレクションにおける主要なテーマや特徴、そして多種多様なインスピレーション源を通した独特なクリエイションのプロセスが感じ取れるような内容になっています。
洋服では19世紀の作者不詳作品などに加え、エルザ・スキャパレリ、クリスチャン・ディオール、クリストバル・バレンシアガなどのクチュリエたちの作品も展示。
アート作品は100点以上、ドリス・ヴァン・ノッテンの作品も180体以上という見応え。
若さ、原形、多義性、情熱といった個々の内面的なテーマを提起していました。

インスピレーション展は回顧展ではないのです。自分が生きて、現役でいる間にこのような展覧会を行えるのはファッションデザイナーとしてこの上ない幸福であり、名誉です。私がこの展示で表現したかったのは“何からインスピレーションを得てデザインしてきたか?”を開示し、展示することで私の頭の中を一緒に旅して貰えたら、ということです。私にとってファッションとは即席でつくられたり、誰かの作品をコピーしたりして出来上がるものではないし、また、インスピレーション源自体も絵画や映画や文学や新聞、あるいは自然や草花や偶然拾ったもの、旅先で出合ったもの等、多岐にわたり限定できないものです。しかも、そこからそのままカタチになることはなく、頭の中であれこれ捻っているうちにだんだんと形になっていきます。
ードリス・ヴァン・ノッテン

DRIES VAN NOTEN, INSPIRATIONS

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ドリス・ヴァン・ノッテンは様々なインスピレーションを毎回テーマに掲げています。その背景や想いにも注目して、どうぞコレクションやお洋服に触れてみて下さい。



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