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~ 東南アジア縦断鉄道旅 ~(前編)

シンガポールからラオスまで.15本の列車を乗り継ぐ,総延長3,861キロの「東南アジア縦断鉄道旅」に挑んできた.旅のスタート地点はシンガポール・セントーサ島の "Southernmost Point of Continental Asia".その名の通りアジア最果ての地だ.ここから徒歩15分,ビーチ駅から旅が始まる.前編ではシンガポールからバンコクまでについて綴るとする.

旅のスタート地点 "Southernmost Point of Continental Asia"

第1列車 Sentosa Express/セントーサ・エクスプレス

Beach/ビーチ ~ VivoCity/ビボシティ
運賃無料
(セントーサ島への入島無料化による特別措置)

鉄道旅と言っておきながら初手はモノレール.客室から運転席を覗くと,日立製作所の車両ということで機器は日本とほぼ同じ.運転士の制服がカジュアルなポロシャツであることを除けば,日本の都市モノレールだと勘違いしてしまいそうだ.客室内は観光客輸送に特化した路線であるため,ディズニーリゾートラインのような雰囲気だった.途中下車してユニバーサル・スタジオ・シンガポールのグローブを撮影するなど一般的な観光スポットにも立ち寄った.

第2列車 North East MRT Line/MRT北東線

HarbourFront/ハーバーフロント ~ Little India/リトル・インディア

ショッピングモール3階にあるビボシティ駅からを地下へ移動,チャンギ空港で事前に購入したEZ-Linkカードを改札に通した.事前の調べでは6回まで利用できるスタンダードチケットがあるとのことだったが,窓口に "EZ-Link or Tourist Pass Only" という貼り紙がされていた.また,VISAタッチによる乗車は対応カードを持ち合わせていなかったので体験できなかった.ゆえに今回は一般的なEZ-Linkカードを利用した.

第3列車 Downtown MRT Line/MRTダウンタウン線

Little India/リトル・インディア ~ King Albert Park/キング・アルバート・パーク
運賃 1.72SGドル (約173円)
※第2列車との合算運賃

シンガポールの地下鉄は厳格なルールのもとで清潔に保たれている,という噂通り車内はとても清潔だった.このままマレーシアとの国境に向かうのでは面白みがないので,ブキッ・ティマ駅跡に立ち寄った.

かつてマレー鉄道がシンガポール中心部まで直通していた時代,このブキ・ティマ駅では列車交換が行われていた.廃線跡はレールコリドーという名の遊歩道に整備されており,当時のレールがそのまま残されている場所もあった.当時の駅係員詰所跡を活用したカフェ"1932 Story"に立ち寄った.当時の駅名標などが展示されており,落ち着いた雰囲気のなかで油条とコーヒーをいただいた.
ここからマレーシアとの国境までレールコリドーは続くのだが,国境まで約15キロあるので徒歩で向かうことは断念し,レールコリドーに沿って走るバスに乗り込んだ.

第4列車 KTM Shuttle Tebrau : SB88/マレー鉄道 シャトル・テブラウ 88号

Woodlands CIQ/ウッドランス・トレインチェックポイント~JB Sentral/ジョホールバル・セントラル
運賃 16.6リンギット (504円)

筆者にとって初めて鉄道による国境超え体験であった.シンガポール側の駅舎は出入国管理施設を備えているためか,ピリピリした雰囲気が漂っていた.また撮影などは禁止されている.列車に乗り込むと国境線が見える進行方向左側に座った.ここからわずか5分の乗車でマレーシアに入国した.なお,シンガポール側でマレーシアの入国手続きも完了しているため,ジョホールバルの駅ではそのまま下車することができた.

第5列車 KTM Ekspres Rakyat Timuran : ERT26/マレー鉄道 エクスプレス・ラケット・ティムラン 26号

JB Sentral/ジョホールバル・セントラル〜Wakaf Bahru/ワカフ・バル
運賃(上段寝台) 50リンギット(1,544円)

ここで東南アジアを縦断するルートから逸れることにする.イーストコースト線にはマレーシア最後の夜行列車があり,日本ではもう見られない機関車牽引の客車列車が使用されている.お世辞にも良い環境とは言えない老朽化した列車だが,車窓から未開のジャングル眺める体験は珍しく,慣れてしまえば快適な列車であった.また,食堂車が連結されており,興味津々で覗いてみたがメニューがなく,係員が英語を話せなかったので適当に注文してみたらミーゴレンが出てきた.

翌朝目覚めると,列車はなんと遅れなく走っていた.正直マレー鉄道の定時運行には期待していなかったのだが,これには拍子抜けだった.ところどころの駅では減速して走行するのだが,なんとタブレット交換を走行しながら行っていた。現役のタブレットキャッチーが使用される風景はなかなか見られないだろう.

乗客は徐々に減り,下段寝台が空いたのでそこへ移動した.マレーシアの東北部のクランタン州は特にイスラム色が濃い地域だと聞いていたが,確かに車内にいる女性は例外なくヒジャブを巻いていた.

ワカフ・バル駅はコタ・バルの最寄駅であるが公共交通機関は存在しない.そこで東南アジア旅行に必携といえる配車アプリ"Grab"でタクシーを召喚した.駅前で声をかけてくる白タク連中と違ってボラれることもないので安心だ.

第6列車 KTM Shuttle : SH58/マレー鉄道 シャトル 58号

Wakaf Bahru/ワカフ・バル〜Tumpat/トゥンパ
運賃 1リンギット(約30円)

鉄道ファンなら線区の始発から終点まで乗りつぶしておきたいと考えるだろう.そこで,次に乗る列車の始発駅であるトゥンパへ移動した.車両は中国中車製の新型気動車であるClass61.昨夜の客車と同じ線路を走っているとは思えないほど綺麗な車内だった.乗客のほとんどはワカフ・バルで下車していたので一両貸切状態だった.車内販売員は売店の片付けで忙しくしている.一方,車掌は退屈そうに客席でスマートフォン操作をしていた.短い時間だったがマレー鉄道のローカル線日常を垣間見ることができた.

第7列車 KTM Ekspres Rakyat Timuran : ERT27/マレー鉄道 エクスプレス・ラケット・ティムラン 27号

Tumpat/トゥンパ〜Gemas/グマス
運賃(下段寝台) 43リンギット(1,434円)

トゥンパ駅前で見かけたミーゴレンの屋台

トゥンパ駅は車両基地のための駅という雰囲気で,旅客が乗り降りできるホームは1面1線しかなかった.駅前にこれと言った名所もないのだが,露店が数件あったので見て回った.ミーゴレンの屋台があり,わずか3リンギットだったので買い求めて車内へ持ち込むことにした.

寝台車
ファーストクラス席
セカンドクラス席

トゥンパ駅から乗るのは,今朝乗った夜行列車の折返しであるジョホールバル行きだ.終点の行き止まり線なので列車は推進運転で入線してきた.複数の車掌がドアから緑色の合図灯を出していた.
復路は下段の寝台を取れたので快適さが段違いだった.なお,この列車には寝台のほかにファーストクラス席とセカンドクラス席がある.なぜか寝台はファースト席より安い.

翌朝,再び食堂車を利用してみた.ハンバーガーのパンズがあり,指差しで注文したところパティをその場で焼いてくれた.アツアツのハンバーガーが朝が食べられるとは嬉しい誤算だ.

第8列車 KTM ETS Gold : EG9420/マレー鉄道 ETS  ゴールド 9420号

Gemas/グマス〜Padang Besar/パダンブサール
運賃 97リンギット(2,947円)

グマス駅にされているかつてのブルートレイン

この旅程で最も接続時間が短いグマス駅での30分乗継.正直かなり不安だったが1分の遅れもなく到着し,対面ホームで乗り換えることができた.ここからはウエストコースト線,東南アジア縦断のルートに戻ることになる.
グマス駅にはJR西日本・JR九州から譲渡されたブルートレインが留置されていた.行先方向幕は「京都」が表示されたままだった.かつての「なは・あかつき」の行き先だろうか.

ETSの車両はclass93.一部の窓ガラスにヒビが入っている箇所があるが,概ね外観も車内は綺麗であった。カフェテリアの設備があり,食事を注文すると冷凍弁当をレンジで温めてくれる.これがなかなか人気のようで,昼時には10人以上がカウンターに並ぶほどだった.弁当はどれでも11リンギット、ホットのドリンクは3リンギットだった.実物をカウンターに出してくれているので指先し注文できるのが助かる.また,イスラム圏の国らしく,祈祷室が列車内にある.乗車中にズフル(正午の礼拝)の時間を迎えたので遠目で様子を伺っていると男性のみが入室できるようで,女性は自分の席で祈りを捧げていた.
この列車は昼行で8時間かかるがとても快適だった.クアラルンプールやイポーなどの大都市を経由しつつタイ国境へ向かう.終点が近づくと乗客は3割ほどになった.暇を持て余した乗務員がどこから来たのか,どこへ行くのかなどと問いかけてきて,その後しばらくのあいだ雑談に花が咲いた.

第9列車 SRT Special Express No.46/タイ国鉄 特急46号

Padang Besar/パダンブサール〜Krung Thep Aphiwat Central Termina/クルンテープ·アピワット中央
運賃(2等下段寝台) 958バーツ(3,863円)

マレーシア領内のパタンブサール駅構内で出入国の手続きが行われた.時刻表上での乗換時間は約30分だが,マレーシアとタイには1時間の時差があるので1時間30分のゆったりした乗り換えとなった.といってもパタンブサール駅周辺にはこれといったの見どころはなく,そのまま出国の列に並んだ.というか,乗り換えの列が捌けると入国管理官がいなくなってしまうのでのんびりしていると出国できなくなってしまう.また,このパタンブサール駅は国境の駅であるにも関わらず両替所やATMが見当たらなかった.そのためタイのバーツをほとんど持たないままバンコクへ向かうことになってしまった.ここで日本の大学生グループと出会った.聞くところによると目的は同じ乗り鉄であるらしく,旅の話が盛り上がった.


マレーシア出国とタイ入国はスムーズに行われ,タイ行きの列車に乗り込んだ.客車4両のうち2両がバンコク行きの2等寝台,残り2両はハートヤイ行きの3等車だった.寝台車は独特の構造で,ジャルグルジムのような車内だった.あまり目立たないがコンセントもあり,数日間モバイルバッテリーで持たせていたスマホをしっかり充電できた.
夕日を浴びながら列車は発車したがすぐに停車した.次の停車駅はタイ領内にあるもう一つのパタンブサール駅である.ここは3等車の乗客のみが乗降していた。発車後しばらくすると車掌がベッドメイクにやってきた.座席を転換してマットレスを敷き,手早くシーツをかけてくれた.

ハートヤイ駅ではスンガイコーロック方面からやってくる特急38号と併結作業が行われる.まず,ハートヤイ駅のホームに一旦入線して下車する旅客を降ろす.そのあいだにバンコク行きとハートヤイ止まりの客車が切り離される.バンコク行きの客車は車掌の合図により引上線へ移動する.そして別のホームに止まっているスンガイコーロックからの客車と連結される.この編成で終点のバンコクまで向かうことになる.停車時間も長めにあるので物売りが大勢乗り込んできて食べ物を売りまわる.しかし,パタンブサールで両替ができなかったので何も変えない.ダメ元でリンギットで払えないか交渉したところ小額紙幣ならOKとのことだったのでミネラルウォーターとポテトチップスだけ売ってもらっことができた.これでバンコクまでの19時間耐えることになった.

マレー鉄道と比べてタイ国鉄は駅の数がとても多く,流れゆる景色もこちらの方が楽しかった.深夜でも乗降客はそこそこあるようだった.また,多くの駅で工事が行われており南線の近代化が急ピッチで進められているようだ.そのうち列車はバンコク近郊までやってきた.レッドラインとの共用区間では真新しい高架線を古い客車から眺める今だけの体験もできた.そしてほぼ定刻でクルンテープ・アピワット中央駅に到着した.2023年1月から本格的に使用されるようになった真新しい駅だ.ここから無料シャトルバスに乗ってバンコクの旧ターミナル駅であるフワランポーン駅を目指す.

長文となってしまったのでバンコクで区切りをつける.後編はバンコクからラオスのビエンチャン,そして中国ラオス鉄道の様子を綴ろうと思う.

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