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アメリカから帰国して、そしてこの家で再出発してから1年。


今の家に越してきて一年が経った。

本当はもっとはやく、出来れば春頃には日本での新居を契約したかったのだけれど、アメリカで借りていた家を解約するのがなかなか厄介で、「契約期間が終わるまでの家賃相当額を全額払うのであれば途中で解約しても良いよ!」と言われた(つまり解約は出来へんっちゅうこっちゃ)。当時住んでいたのはニュージャージー、といっても家賃は安くなかった。

そんなら契約満了まで住んだほうがマシやなぁ……と、昨年の夏はハドソン川の辺にあるタウンハウスの中でひとり、熱心に飾りつけていた内装をトンカチ1つでなんとか解体しながら、その合間に何度もリンカーントンネルを抜けてマンハッタンまで遊びに行き、アメリカ最後の夏を楽しんだ。


そして2021年8月上旬。日本に帰国し隔離が開けた瞬間に、ずっと前から憧れていた町にある、ずっと目をつけていたコンクリート造りの物件を内見。がらんどうの箱、という言葉が似合う少々寂れた部屋だったけれど、当時の憂鬱な気分であれ受け入れてくれそうな影のある空間に惹かれて、即決。

しかし海外帰りで住民票なし、マイナンバーなし、過去数年の日本での確定申告なし、本名の銀行口座なし(苗字が変わる出来事がありましたもので)、もちろん所属組織なし、同居人なし……というないない尽くしで、契約は難航。理解ある大家さんの御慈悲でなんとか入居できたのが、昨年のちょうど今頃だった。


そこから一年。昨年と同じように虫の声が響き、昨年と同じように心地よい風が部屋に入ってくる。入居直後は「なんて過ごしやすい家だろう!」とひとり喜んでいたものだけれど、それは単に今が一年でいちばん良い気候だからというだけだった。この家で過ごす夏はきちんと暑く、冬はしっかり寒かった。秋ほど良い季節はない。その始まりに寂しさを含んでいるから、私は秋が格別に好き。


そうやって季節が一周するうちに、この家には随分とものが増えて、賑やかになってきた。

こちらが昨年の10月頃で、
これが今。

不必要にものを増やさない暮らしを心がけているつもりではあったけれど、それでも私は生粋の買い物好きらしい。食器、本、小物、鍋、調理器具、用途のない置物……小さな物たちが景色の中に含まれて、包容力のある空間になってきたなぁ(と言っておけば耳障りも良かろう)。

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新刊『小さな声の向こうに』を文藝春秋から4月9日に上梓します。noteには載せていない書き下ろしも沢山ありますので、ご興味があれば読んでいただけると、とても嬉しいです。