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擦り切れるまで何度でも

レコードプレーヤーを買った。もともと持っていたMarshallのスピーカーに、アンプ内蔵式のプレーヤーを繋ぐ……という入門セットではあるけれど、すっかり気に入ってしまい、既に暮らしに欠かせないものになっている。

しかし驚いたのは、レコードそのものを買わなきゃ音楽が聴けないという点である。

いや、そんなことはもちろん頭ではわかっていたのだけれど。でも感覚としてもう、私はサブスクリプションで、もしくはYouTubeで、好きな音楽が「そこに既にある」大前提で、それを再生することに慣れ親しんでしまっていたのですよね。だから、特別に好きな音楽を求めて検索、もしくは街でさがして購入して……というプロセスはとても新鮮だった。そして嬉しい誤算だったのだけれども、それは私の消費行動との相性が抜群に良かった。

動画、音楽、記事……サブスクリプションの登録画面には「月額980円で何万作品が……」といったような言葉が並ぶ。一生を掛けたって消費できない程の膨大なコンテンツ。1つのシリーズをようやく再生し終えたと思ったら、それが好きな人にはあれも、これも……と、食べきれない程に私たちの前に運ばれてくる潤沢なコンテンツたち。

NetflixのCEOであるリード・ヘイスティングスは、2017年に「Netflixの競合は動画サブスクリプションサービスだけではなく、ユーザの睡眠である」と発言している。つまり「朝までネトフリ観ちゃったよ」という人はまさに同社の戦略通り……となるのだけれど、ソーシャルメディアの中毒性などにまつわる批評的な独自ドキュメンタリーを多く発信している同社が、ユーザーの健康を積極的に脅かしているというのは、なかなかに薄気味悪いものがある。


ただ私は、そうしたNetflixの戦略に滅多とハマらない……というか、単に「あたらしいものを次から次へ」消化できないタイプの人間であるために、サブスクリプションとの相性はすこぶる悪い。

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新刊『小さな声の向こうに』を文藝春秋から4月9日に上梓します。noteには載せていない書き下ろしも沢山ありますので、ご興味があれば読んでいただけると、とても嬉しいです。