ガラス張りの図書館がある「まちなかリビング北千里」について、蔵書の紫外線対策などを吹田市に質問しました
昨年11月12日、私の故郷でもある大阪府吹田市にあたらしく出来た「まちなかリビング北千里」ついてTwitterで投稿したところ、さまざまな声が届きました。
その際に投稿した写真がこちらです(一部)。
これらの写真や「場所によって飲食OK」と書いていたツイートの文言などを受けて、「ガラス張りの図書館は、紫外線によって蔵書が退色してしまうのではないか」「高い場所に飾ってある本を手に取ることが出来ないのではないか」「飲食OKの図書館では、本に虫害が発生するのではないか」ほか、多くの懸念の声が、引用リツイートなどで見られました。
また上記ツイート内では、「図書館」と書いてしまいましたが、建物名称は「まちなかリビング北千里」で、図書館や公民館、児童センターを内包した複合施設です。吹田市には公立の図書館(分室含む)が10館ありますが、その中でもこの施設では「複合施設による子育て・学びの拠点」をコンセプトにしているとのこと。
一方で、吹田市の中央図書館は昭和46年の開館当時からの資料を書庫に保存しており、特に地域・行政資料の収集と保存を積極的に行っているそうです(吹田市中央図書館Webサイトより)。
また市の運営ではありませんが、近隣には多くの蔵書を持つ大阪大学付属図書館もあり、事前予約をすれば調査研究を目的とした入館も可能とのことです。入館できない時期などもありますので、詳しくは大阪大学付属図書館Webサイトをご確認ください。さらに車で10分程度の箕面市立船場図書館も大阪大学が指定管理を任されており、約71万冊の蔵書があるそうです。
以下、とても長い記事になりますので、気になる箇所がある方は目次をクリックしていただければ、該当箇所に飛ぶことが出来ます。
まちなかリビング北千里のある場所について
本題に入る前に、地元でもある北千里地区について少しお伝えします。
これまで北千里地区には「吹田市立千里図書館北千里分室」という小さな図書館の分室がありました。ただ蔵書数も限られており、座って読めるスペースもなかったため、私が近隣に住んでいた頃は、予約した本を取りに行くような形で活用していました。
そうした中で、長らく使われていなかった北千里小学校の跡地に図書館機能を持った複合施設が建設されていると聞き、地元で暮らす家族や友人も、頻繁に帰省している私も非常に楽しみにしていました。
そして正直なところ、地元に出来た新しい施設のことを沢山の方に知って欲しい、という気持ちもあってツイートをしました。ただその結果、批判が殺到。同時に利用者の方や、地元の方から「地元が叩かれていて悲しい」という声も聞こえてきました。
今思えば該当のツイートには、客観的な視点が足りなかったなと反省しています。とくに蔵書数については、移転前の北千里分室に比べるとかなり増えたとはいえ、「圧倒的な」と言えるほどではありません。ツイートした当初に冷静さを欠いており、過剰な表現をしてしまいました。
ただ、批判の中には「ガラス張りの見栄え重視の図書館だと本が日光で焼ける」というような声が非常に多かったのですが、実態とは少々ずれがあるために、もどかしさも感じていました。私の紹介が施設の一部を切り取ったものだったために、必要以上の批判が出てしまっていることに関しても責任を感じてしまいました。
そこで現地での取材に加えて、吹田市に対して質問した回答をまとめて、この記事でレポートさせていただきます。
1.本の紫外線対策について
まずは1階部分のフロアマップをご覧ください。
今回のツイートで最初に掲載した3枚は、すべて緑の枠線内の写真でした。
また、該当箇所の外観は以下のようになっています。
このように、建物の東側(東北東側)には大きな屋根が設置されています。また紫外線対策に関して質問をしたところ、吹田市からは以下の回答がありました。
大屋根のない北向き(北北西向き)の窓からはある程度の日光が入りますが、角度的に強い直射日光は少なく、また本の背表紙が窓側を向かないように設置されています。
まずは大屋根を設置することで直射日光を大幅に減らし、そして二次対策として、ガラス面での紫外線対策も行われているとのことです。
次に、大きな屋根のない南側(南南東側)について。
大きな窓のそばは主に閲覧スペースになっており、ロールスクリーンが下げられていました。その奥には児童書コーナーがありますが、そちらもロールスクリーンとカーテンが下げられていました。
ただ、2階の南側通路にも書架があるのですが、そちらは現状カーテンやロールスクリーンが設置されておらず、季節によっては直射日光が入ってしまうこともあるそうです。現場での取材時に吹田市の職員の方が「今後改善していかなければいけないところです」と仰っていました(R5年1月現在、対策中とのこと)。
こちらは2階の平面図ですが、赤い「外部テラス」に隣した通路部分です。
▼本の紫外線対策について、私の感想
以上が、紫外線対策の現状になります。結論としては、「まったく考慮していない」ということはありませんでした。ただ、一部書架では季節によっては直射日光が当たってしまうこともあり、今後の改善が必要な箇所もありました。
もちろん、カーテンやロールスクリーンをしていても紫外線は入りますし、間接的な日光でも、さらには蛍光灯やLEDの光でもインクは退色してしまうとのことで、100%の対策は出来ていないのが現状です。
2.飾り棚の本について
紫外線に次いで多く寄せられた批判に、「飾り棚の本が手に取れないのではないか」「地震などで本が落下して危ないのではないか」「子どもが高いところに登ろうとして危険なのではないか」などがありました。
こちらに飾られているのは、発泡スチロールに絵本のカバーを巻きつけてあるもので、実際の絵本ではありません。さらに落下しないよう、落下防止の滑り止めシートが下に貼られていました。
また、並んでいる絵本の一覧表は、受付で見ることも出来るそうです。
この飾り棚(本の滝)について危険性と、アクセシビリティ、また清掃の点についての質問を吹田市に送ったところ、以下のような回答がありました。
また、「インスタ映え重視の施設なのではないか」といった声も多くありましたが、そちらには以下のような回答がありました。
▼飾り棚について、私の感想
まず、「落下して危険」という懸念点に関しては、出来る限りの対策がされているように感じました。
そして実際に施設へ訪れたとき、一番に目を引いたのがこの「本の滝」コーナーでした。図書館では多くの場合外側のカバーを取ってしまうので、使われていない資源をこのような形で魅力的に見せるのは、良い活用方法なのかもしれません。実際、背表紙がずらりと並ぶ児童書コーナーに比べて、あたらしい絵本に興味を持つきっかけを持ちやすくなっているとは感じました。背表紙の文字が読めない未就学児にとっては尚更、良いきっかけになりそうです。
もちろん、一番左上にある絵本などはよほど視力が良くないと表紙の文字も読めないので、「本の紹介」としては見づらいな、と感じるところもありました。
3.館内での飲食について
私のツイートの中で「場所によって飲食OK」と書いていましたが、それを受けて「図書館は食事をするところではない」「本に食べカスが挟まると虫害が発生する」という批判も多く届きました。それに対して、吹田市からは以下の回答がありました。
既出ではありますが、飲食ルールマップを再度掲載します。
・赤いエリア(屋外)=飲食可能
・黄色いエリア(ホワイエ・ホール)=軽食なら可能
・青いエリア=静かに読書や勉強をするエリア
とあります。
ただ、飲食可能である屋外エリアは、今は寒くて利用している人はいませんでした。温暖な時期になると、ここに机や椅子が並び、飲食をする方が増えるのだろうなと思います。
そして以下の写真は軽食可能な「ホール」で、
こちらは、同じく軽食可能な閲覧室です。ここは新聞や雑誌が置かれているエリアでした。
また、蓋付きの飲み物であればどこでもOKで、これは吹田市の図書館全館に共通したルールとのことです(他の自治体でもこのルールで運営している図書館が多く見られました)。
▼館内での飲食について、私の感想
この施設に隣接したカフェなどはありません。道路を渡り、数分歩けば駅前のカフェや飲食店などもありますが、ベビーカーや小さなお子さん連れの方にとっては「道路を渡って数分歩く」というのも大変なことですから、子育てを一つのコンセプトにしている同施設としては、利用者にやさしいルールであるように感じました。
ただ、飲食可能エリアでも読書をすることは出来るので、食べカスが本に挟まってしまうこともあるかとは思います。利用者のマナーによっては、今後ルールが見直されることもあるかもしれません。
4.利用者のマナーについて
Wi-Fiと電源があることで、「PC作業をする人が長時間居座ってしまうのではないか」という懸念の声もありました。そのような利用者を制限することはありますか?と質問したところ、以下の回答をいただきました。
利用者のマナーについて、私の感想
私が実際3回訪れたところ、勉強している中高生の姿が最も目立ち、次いで本や雑誌を読んでいる大人の方々、そしてPC作業をしている大人の方々、という印象でした(児童書コーナーを除く)。
もちろん時間帯や曜日によって利用者層は変わってくるかとは思います。ただ、みなさん静かに熱中して読書や勉強をしていました。また私が見た範囲では建物の内装を撮影するような方はおらず(現在は撮影禁止されています。記事内の写真は許可を得て撮影しました)、図書館エリアは静寂で集中できるような空気がありました。
開館直後は人気のあまり入場制限を設けることもあったようですが、現在は利用者数も落ち着いてきており、一部には空席も見られたので、適度に利用しやすい環境になっているのではないかと思います。
また児童書コーナーは他の閲覧室とはかなり離れているので、そちらでは読み聞かせをしたり、声を出していても大丈夫、という安心感もありました。
5.バリアフリーについて
階段が目立つ写真が広まったため、「バリアフリーになっていないのではないか?」という声が寄せられました。実際のところはどうなっているのか、質問しました。
▼バリアフリー化について、私の感想など
上記回答にあるように、寝台型の車いすでも乗降できるとても広いエレベーターがありました。これは車椅子の利用者の方とその介助をする方、双子用のベビーカーを使う方など、多様な利用者にとって使いやすい設備だと感じました。
また、活字を読むことが困難な方のための対面朗読室や、
身体に不自由のある方、さまざまなジェンダーの方に向けたトイレがありました。
6.建築の仕様上のリスクについて
吹き抜け+一部ガラス張りの施設は、冷暖房コストが高くついてしまうのではないか?という懸念の声が多数寄せられました。そこで、どのような省エネ対策がとられているのか吹田市に質問したところ、以下の回答がありました。
また、一部ガラス張りの設計に対して、「台風・地震時の飛来物やガラスの飛散」「野鳥の衝突」「冬場の結露」などについて、懸念の声がありましたが、そちらについては以下のように回答がありました。
さらに、一部木造化されていることに関して、火災に弱いのではないかという懸念の声がありましたが、そちらについては以下のように回答がありました。
これらの建築にまつわる回答に関して、私は専門的な知識がないために判断が出来なかったので、建築家であり、東京大学生産技術研究所特任教授である豊田啓介さんにこれらの回答を共有させていただきました。その上で、豊田さんからお伺いした内容を箇条書きでまとめます。
建築家の豊田さんからいただいたご意見
▼建築の仕様上のリスクについて、私の感想
実際12月中旬の寒い時期に同施設を訪れたところ、ガラスの結露などは起こっていませんでした。全体的に暑すぎることもなく、過ごしやすい空調でした。
ただ、千里ニュータウンは山を切り崩して作られた町であるために坂道が多く、この施設も坂道の上に建設されています。そのために、最初から階段やエレベーターを利用、もしくは坂道を上ってから入るという構造になっており、平地に建設されている施設よりは少々入りづらさはあるかもしれません。
また、隣接している阪急北千里駅からアクセスする際にもいくつかの階段やエスカレーター、エレベーターを利用する必要があります。
北千里駅の再開発とあわせて、より利用しやすい動線にして欲しいという市民の声などは、この施設の設計段階で既に出ていました(北千里小学校跡地複合施設 建設整備基本計画(素案)に対する市民意見及び市の考え方より)が、そこは今後の課題であるようにも感じています。
ネットでの批判と実情について
以上、主な批判についての吹田市からの回答と、専門家からのご意見、私の感想をお伝えしました。
もちろん、取り上げた以外にも様々な批判があったのですが、あまりにも多岐にわたってしまうことから、今回は私の判断で上記6つの主な批判をもとに質問表を制作させていただきました。ご理解いただけましたら幸いです。
「まちなかリビング北千里」は、建設の時から整備担当司書の方が専属で業務に従事し、そして市民の方々、図書館内、市役所の他の所管、設計事務所、工事関係者とも協議、調整をし、整備を進めていったと聞いています。
今回、SNSでは「司書の意見を無視している」「利用者の声を聞いていない」といった声が多く届きましたが、実際のところは司書の方が中心となり、市民の声を聞きながら進行されたプロジェクトであった、という点はお伝えしておきたいです。
2020年2月に公開された市民からの意見と市の回答は、以下の資料でもご覧いただけます。
▶北千里小学校跡地複合施設 建設整備基本計画(素案)に対する市民意見及び市の考え方
もちろん、上記資料に目を通していても、市民からの「こうして欲しい」という要望に対して、現状の施設は全てを満たすことは出来ていません。また、公民館や児童館と図書館が一体になったような施設を設計するという段階でも、一部では批判的な声もあったと聞いています。
現状利用している方々からは「素敵な場所が出来て嬉しい」「施設が出来て、久しぶりに図書館で本を借りるようになった」という声を聞いていますが、耳に届いていないだけで、不満を抱いている人もいるのだろうと思っています。ネットで出た批判の中にも、「確かにその問題点はあるな」と考えさせられる意見もありました。
また、今回の建築に限らず「木造は燃えやすいのではないか」「ガラス張りは寒いのではないか」といった印象は私自身もなんとなく抱いていたのですが、現代の技術ではそうした印象とは異なる施設を作れるということは大変勉強になりました。お忙しい中、専門的な知見からご意見をくださった豊田さん、本当にありがとうございます。
最後に、いち利用者として
私はこの施設が出来たことがきっかけで、10年以上会っていなかった幼稚園からの友人と久々に会うことが出来ました。待ち合わせをしていた児童書コーナーに現れたのは、お母さんになった友人と、初めて会う幼い小さなお子さん二人。
北千里駅周辺には子どもを遊ばせられるようなカフェや飲食店も少ないため、子育てをしている地元の友人と会うとなると、どちらかの家で……ということが多く、少し気を使ってしまうこともありました。
そこにマンションの共有スペースのような感覚で、気軽に集まれる場所が出来たことは本当にありがたい限りです。一緒に絵本を読んだり、遊具のバスで遊んだりと、とても楽しい時間を過ごせました。
また別の子育てをしている友人は、「開放感のある図書館は、痴漢の心配が少なくて良い」と言っていました。明るい雰囲気の場所=絶対に安全という訳ではないですが、そうした面でも効果を発揮するのかもしれません(防犯カメラなどの監視は終日行っているそうです)。
児童センターの遊戯室には小学生以下・未就学児(保護者同伴)が登録の上入場できるため、セキュリティ対策もされているように感じました。
──
現地でお話を聞いた際に、図書館の運営をしている方々は「建物に注目をいただいていますが、中身でガッカリされないように力を注いでいかなければいけないです」と繰り返し仰っていました。
私は子どもの頃、親の意向もあり、沢山の絵本や児童書に触れて育ちました。当時はその環境が当たり前だと思っていましたが、大人になってからは、そうして絵本や児童書に触れられる環境がどれほど有り難いものだったのか、とあらためて感謝するばかりです。
このような施設の本当の価値は、ここで遊んだり、学んだり、本に触れた子どもたちが大きくなるまではわからないのかもしれません。
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新刊『小さな声の向こうに』を文藝春秋から4月9日に上梓します。noteには載せていない書き下ろしも沢山ありますので、ご興味があれば読んでいただけると、とても嬉しいです。