見出し画像

環境を変える。
よくプロ野球を例えに、力はあってもなかなかタイミングが合わない、好機を逸して不遇を被る選手がトレードで他チームに移籍するや活躍するシーンがままあります。心機一転でしがらみや過度なプレッシャーからの解放が本来の姿を呼び戻すきっかけになったのだと端で感じます。

上手く物事が運ばない時にふと気付くのは、自分自身の仕事のやり方、周囲とのコミュニケートの行き違いが何か停滞している要因ではないかと仮定して、ある程度の改善が図れたとします。それでも理想的な仕事目的、目指す目標が見えない場合は一旦、職種を変えてみるのはアリなのではないかと私は思います。

noteを使って私が主として書き記すテーマに映画映像にまつわるものと音楽があります。現在、その両方についての自分なりの最善を常に考慮しながらパッケージに顕していくのが仕事として考える軸ではありますが、その軸に気づいたきっかけこそ環境の変化から感じたことに依ります。

若い頃、CM音楽専門の制作会社にちょっとだけお世話になった事がありました。
音についての自分の感性がどれだけ通用するのか試したくなったのが動機です。
社長は誰でもご存知のエピックソニーレコードで名を馳せたシンガーのバックバンドを長年務めたプレイヤーの方でした。最初に話した時に私の音楽趣向を訊いて適当に頷くのみで勘所として噛み合わない予感がありました。
案の定、あるCM音楽を制作する際にイメージを図るため、既製曲からのサンプルを10タイプ、社内にあるライブラリーのCD棚より選んで社長に聴かせたところ、全てダメ出しとなりました。
何処か空回りをしている中、別班が手掛けていたCM音楽の制作でディレクターがフリーキーなギターノイズが欲しいというオーダーがあり、全くミュージシャンに依頼する予算も無いため、急遽私がギターを弾く事になったのです。
当時バンド活動をやっていたとは言え、無謀な試みを受けてしまった若気の至りに他なりませんが、自前のテレキャスターに複数のエフェクターを駆使して、私の好きな前衛ギタリストのマーク・リボーの真似ごとを必死に奏でているつもりと言うより、無我夢中の緊迫感からの冷汗満載な体験は今でも忘れられません。
イラン人のディレクターの方がスタジオブース越しのミラーから指示を出して、もっとやれみたいなポーズやら親指を立てて良しのようなサインと、正直生きた心地がしませんでした。
本当にコレで良かったのか…安請け合いするものではないという後悔が襲ってきました。今にしては得難い経験談に昇華できなくもありませんが、やはり恥ずかしさ極まる記憶に変わりはありません。

その後、完パケを聴くこともなく、私の中に去来したのは一度映像から離れてみて映像制作にもっと真剣に向き合ってみたいとの覚悟が生まれたのです。
物事について真剣に向き合う時、要領ややり過ごす事で良しとするのであれば、それは真剣ではなく一つの経験です。
自分に嘘をつかない事、そうした対象に出会えなければ個性は確立できないと私は考えます。
個性は暗示にかけられてその気になることでキャラクター化するものではなく、様々な環境からの影響はあるにせよ、自分で掴みにいくものだと思います。

前述のCM音楽のくだりで環境を変えた試みから‘ものづくり’に対する自分の資質を客観視できたような気がしたのです。
自分を限定せず、最大に活かせる、その考え方に最適に符合する環境が人には必ずあるはずだと私は信じて疑いません。


【インフォメーション①】
下関名画座のご案内です。
次回は36歳で早世したジェラール・フィリップの晩年の代表作。共演にジャンヌ・モロー、監督にロジェ・ヴァディム、音楽にセロニアス・モンク、演奏にアート・ブレイキー&ジャズメッセンジャーズと豪華スタッフィングによる、これぞフランス映画の決定版と言って良いでしょう。

『危険な関係』4Kデジタル・リマスター版
(C) 1960 - TF1 DROITS AUDIOVISUELS
■原作
コデルロス・ド・ラクロ「危険な関係」
■音楽
セロニアス・モンク
アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ
■監督
ロジェ・ヴァディム
『バーバレラ』『悪徳の栄え』
■出演
ジェラール・フィリップ
『赤と黒』『モンパルナスの灯』
ジャンヌ・モロー
『死刑台のエレベーター』『クロワッサンで朝食を』
ジャン=ルイ・トランティニャン
『男と女』『愛、アムール』
■配給
セテラ・インターナショナル     
■内容
外交官のバルモンとジュリエットは、パリの社交界でも目立つ存だ。しかし実際の二人は互いの情事を報告し合う奇妙な夫婦関係を続けていた。ジュリエットは、愛人だったアメリカ人のコートが18歳のセシルと婚約したことを知り、嫉妬心からバルモンにセシルを誘惑するよう持ちかける。セシルを追って冬のメジェーヴまで来たバルモンは、そこで貞淑な人妻マリアンヌと出逢い、本気になってしまう・・・

■日程
2023年7月22日(土) 
シーモールシアターにて
■タイムスケジュール
1日4回上映実施。それぞれ上映後は5分程度の作品解説あり。
①10:30  ②13:30  ③16:30  ④19:30 
■チケット 
前売り1,100円 当日1,300円
※シーモール下関1Fインフォメーションカウンターにて販売中
※映画チケット購入者には当日有効の駐車場3時間無料
※お電話にてチケットの取り置き可能です(但し全席自由)
■問合せ
山中プロダクション 090-8247-4407


【インフォメーション②】
映画『マゴーネ 土田康彦「運命の交差点」についての研究』

8月、9月も全国単館系にて劇場公開されます。お近くの方にはぜひご鑑賞ください。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?