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後追いの楽しみ…デヴィッド・バーンの『レイ・モモ』

ある音楽雑誌に目を通していると、名音楽プロデューサーのスティーブ・リリーホワイトの特集が掲載され、氏が手掛けたディスコグラフィが取り上げられていました。
ちょっと意外だったのが、デヴィッド・バーンの『レイ・モモ』がバーンとの共同プロデュースだったと知り、バーン名義のソロアルバムは概ね聴いているにも関わらず『レイ・モモ』は未聴でした。

『レイ・モモ』は当時の論調に於けるワールドミュージックと総称される先駆けとして、所謂欧米のロック・ポップのカルチャーから大胆な南米文化へアプローチした異質なサウンド、その解説は現在の視点で捉えると偏見がありました。
ある音楽雑誌のレヴューで『レイ・モモ』発売時に目にした記事には、‘音楽による植民地主義ではないか。白人西洋文化はこれまで黒人音楽を吸収し、次代はバーンを先駆けに南米音楽への侵食を始めた’
そんな類の内容だった記憶があります。
このレヴューの影響で当時の私は『レイ・モモ』を聴くのを躊躇してしまいました。
発売年は1989年なので、私は大学入学年になります。大学のあった向ヶ丘遊園や登戸界隈にはレコードショップやレンタルショップもそれなりに存在し、習慣的にほぼ毎日のように通っては情報収集していた頃です。
なので『レイ・モモ』のアルバムジャケットは印象的なヴィジュアルレイアウトなので、聴いてみたくなるにも関わらず、例の記事の所為で手に取ることに躊躇いがありました。
実際デヴィッド・バーンの初のソロアルバムであり、これからの方向性を示す指標のようなポイントに位置付けられるのが『レイ・モモ』です。
デヴィッド・バーンが在籍して世界的なニューウェーブバンドであるトーキングヘッズにそれまでそんなに入れ込めなかったのがスルーした要因でもあります。バーンの特徴的な声質にあまり馴染めなかったのです。

その概念を一変し、一挙にファンになったきっかけの曲が「Like Humans Do」を聴いてのヴィヴィッドな音楽琴線への刺激でした。
この曲タイトルに何らか見覚えはないでしょうか。
マイクロソフトのWindowsXPに予め音楽サンプルとして1分位のこの曲のエディット版が聴ける仕組みがありました。
ワールドミュージックの範疇ではなく、デヴィッド・バーンの独特の節回しと様々な音楽を踏まえてのグルーブするビート感が殊更に気持ち良く、当時は2001年頃です。最近のリリースを中心に過去に遡りながらデヴィッド・バーンを聴くようになったのです。

音楽リスニング素養が高まると面白く聴けるものが増えていくのは間違いのないことでしょう。素養の高まりからの楽しみ方は様々な媒体にも言えることで、入口に当たる作品が何かで個々人の感性に触れるか否か、異なる巡り合わせがあるのはもはや運命レベルのような気もします。

長い枕のくだりから、スティーブ・リリーホワイトのプロデュースワークの興味も手伝い先頃『レイ・モモ』を購入、既に愛聴盤になりました。
南米音楽の豊饒さと、恐らくバーン自身もダイレクトに音楽感動の渦の中で、クリエイティブ発揮をしたのではないかと、ライ・クーダーの『ブエナ・ヴィスタ・ソシアル・クラブ』も接近の仕方は異なるかもしれませんが、音楽感動の渦の中にライ・クーダーがいた事は確かではないかと思います。

先頃亡くなったジャズ・サックスプレイヤーの第一人者のウェイン・ショーターが1975年にブラジル音楽のスターアーティストであるミルトン・ナシメントを起用して名盤『Native Dancer』を制作した時にメディア的には偏見的なレヴューはそんなになかったかもしれないのは、ジャズという広義的解釈とポップチャートとは異なるカウンターカルチャーの位置付け、もしくは白人ではない方面からのアプローチは植民地主義には当たらないとの側面だったのでしょうか。

些末な思い込みや先入観が素敵な芸術との出逢いを妨げるケースもあるのです。
そして殆どの映画や音楽好きの人たちに共通するのは後追いの楽しみを理解しています。リアルタイムに拘らず、自分の醸成時間に過去を選択する温故知新のセンスが優れている点が挙げられます。
そうして考えると、この世では時間が如何に足りないか沁み沁みと思うのです。

追伸:
写真は門司港にある馴染みのお店「和楽」久しぶりに訪れたのですが、以前と変わらずの気さくなやりとりにいろいろ癒やされました。
お近くの方はぜひ一度美味しい食事とお酒に舌鼓を打ってください。


【インフォメーション】
お手伝いしております“下関名画座”
次回上映作品のご案内です。
■2023年5月27日(土)
■シーモール下関2階シーモールシアター
■作品 「‟樹木希林”を生きる」(2019/日本/108分)
■監督 木寺一孝       
■出演 樹木希林      
■内容 
2018年9月15日。75歳で亡くなった女優・樹木希林の晩年の一年間をNHKが密着したドキュメンタリー番組に、未公開映像を加えて再編集した劇場版。全身にガンに侵されながらも淡々と生きる樹木を取材し、家族との複雑な関係や女優としての臨む姿、日々の暮らしなどを捉える。
■上映時間
①10:00  ②13:00  ③16:00  ④19:30 
■チケット 前売り1,100円 当日1,300円
■問合せ 山中プロダクション(090-8247-4407)


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