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美化、されど。


春になると思い出すことがある。


「あ!同じクラスやんな!?」


自転車置き場へ行く途中
既に自分のそれに乗って
これから帰る様子の1人の男の子が
私の目の前でブレーキをかけた。


まだ桜が残っていた。
背景は、白。


「また明日な!」





高校から違う地域に引っ越した。
知らない顔ばかりの同級生。
人見知り発動。でも。
その日から、彼のことが好きだった。
後にも先にも、あんなにも誰かに
夢中になったことはない。


私と颯太は、クラス替えのない学科に所属していて
3年間ずっと同じ空間で過ごした。
彼はよく笑うのに、それと同じくらい、
遠くを見ている時間も多かった。
なんとなく、自分と同じだ、と思っていた。


高校1年生の冬、念願叶って
颯太の彼女になった。
同じクラスだから、という理由で
私たちは誰にも言わずに両思いになった。


私の思っていた「自分と同じ」は
案外間違ってはいなかった。


同じ悩みがあった。
少しだけ似ていた。
同じところにほくろもあった。
そんなことだけで安心した。


私たちは結局半年しか持たなかった。
学生時代の恋愛なんてそんなもの
と、誰もが思うだろう。私自身もそう思う。
それでも、少なくとも、私から颯太への気持ちは
そんな簡単な言葉で片付けられるものではなかった。



一緒に何かをした記憶は数え切れる程しかない。
それでも私の頭の中の記憶は
その半年の些細なことでいっぱいで。


10年たった今でも忘れていない。







卒業式の日、颯太に連絡をした。

「素敵な思い出をありがとう、お幸せに。」


颯太も返事をくれた。

「こちらこそありがとう、泉もお幸せに。」



そのあと颯太は
「泉にもらったものでどうしても捨てられんものが1つだけあって。大事な試合前にくれたお守り。あれ、これからもずっと持っててもええ?」
と、思いがけない言葉を送ってきた。


私もあるよ。もらったアクセサリー。
いいよ、と二つ返事をして、
またね、と締めた。


ただの、そんな思い出。




桜の花びらが風に舞うのを見るたび
私はまた、あの自転車置き場を思い出す。


美化されど。背景は白。
くっきりと残るあなたの形は
私だけのもの。


🌸fin🌸



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