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楽曲リリースの単位から見えてくるKPOPアイドルの事情

韓国は官民ともにデジタル化に力を入れていたため、2000年代前半にはすでにサブスクリプション型の音楽ストリーミングサービスが存在していました。インターネット時代の音楽ビジネスに早くから適応したKPOPはどのような形で楽曲をリリースをしているのでしょうか

ストリーミング型の音楽視聴において、楽曲はアルバムではなく曲単位で聴かれるものだといわれることがあります。そのような時代において、フィジカルをベースにした楽曲のまとまりに意味はあるのでしょうか。今回はリリース形態に注目して話していきます。

対談参加者

片瀬:文化社会学を勉強中のボカロP。音楽は好きだが、アイドルとは無縁の生活を送ってきた。

夕:片瀬がKPOPについてわからないことがある度に質問攻めにされているオタク。最愛のグループはDKB。

KPOPの楽曲リリースの単位は?

片瀬「日本の楽曲リリースはわりとまだ昔の形式に則っていて、一番売りたい曲を表題曲にして1,2曲タイアップをつけてシングルにするか、10曲くらいまとめてアルバムとして出すことが多いよね。最近は5曲前後のEPやミニアルバムっていう形も増えてきたかな。こういう曲のまとまりってKPOPではどうなってるの?」

夕「やっぱり名前にアルバムとかミニアルバム、EPみたいなのついてるよ。あんまり日本と変わらない」

片瀬「なるほど。アルバムの中の曲の配置とかになにか特徴はないのかな」

夕「それでいうと、音楽番組含めメディア露出する時のために作るタイトル曲っていう概念がある

片瀬「1回のカムバ(リリースに伴うティザーやMVの公開、メディア出演といった一連の活動)の主軸になる曲ってことか」

夕「そういうこと」

片瀬「何曲か収録される時、タイトル曲はどこに配置されるかは決まってるの?例えば絶対一曲目に来るみたいな」

夕「傾向はあるかもしれないけど、絶対どことは決まってないかな」

片瀬「じゃあ音楽聴いて曲目だけ見てもあんまりどれがタイトル曲って分からなかったりする?」

夕「すぐこれだって分かるときもあれば、後から言われて分かることもあるかな。個人的にだけどデビューアルバムはわかりやすいかも。明確に始まり感が出ているというか」

片瀬「そんなにタイトル曲と他の楽曲にものすごくクオリティの差があるってことではないんだね」

片瀬「日本だと、アルバムの中に埋もれてるちょっと尖ってるんだけどいい曲みたいな立ち位置って定番としてあるじゃない」

夕「その立ち位置は全然ありますね。」

片瀬「そうなんだ。この前のTWSのミニアルバムは全部タイトル曲にできるんじゃないかってぐらい力入ってる印象だったんだよね」

夕「最近NEW JEANSが1st EPのとき全曲MV出して音楽番組でもパフォーマンスしたんだけど、そういう発想なのかもしれないね」

片瀬「なるほど」

片瀬「他にはタイトル曲の特徴って何かある?」

夕「パフォーマンスに向いてるかが一番大きいんじゃないかな」

片瀬「そうか、音楽番組でのパフォーマンスもあるからね」

夕「あとはタイトル曲を出したすぐ後に、そのアルバムに収録されてる後続曲っていう立ち位置の曲で1週間ぐらいカムバすることがあって。その時は飛び道具を使いがちかな」

片瀬「飛び道具?」

夕「椅子を使ったり、ダンスだけじゃなくてマイクで歌うのが中心のパフォーマンスをしたり。例えばTWSならPlot Twist(タイトル曲)でカムバした後にBFF(後続曲)では机を使ったパフォーマンスをしてたかな」

片瀬「なるほどね。ステージの違いも関係あるのかな。音楽番組のまっさらなステージでできるのがタイトル曲で、自分のライブとかコンテンツで道具使ってやるのが後続曲みたいな」

夕「それでいうと、音楽番組のステージって各事務所が持ち込みなんですよ。後続曲はそんなに予算を出せない時に小道具で一工夫しようって意図はあるのかもね。まあ大手事務所ならどっちにもちゃんと予算用意できるんだろうけども」

片瀬「確かに音楽番組でもしっかりセットを作り込んでるステージの時ありますね」

同じ楽曲を別のパッケージで発売する「リパッケージ」

片瀬「日本では一旦アルバムの途中曲としてリリースしたけど、後から人気が出てシングルカットするみたいな手法があるよね。KPOPではそういうパターンはあるの?」

夕「ありますね。シングルで出したのをアルバムに収録することはもちろんあるし、リパッケージっていう既存のアルバム曲と新曲を2,3曲抱き合わせて新しいコンセプトで出し直してカムバすることもある。売上自体はリパッケージ+既存のアルバムをあわせて集計されるんだけどね」

片瀬「なるほど。でもコンセプトとか曲の並びが変わったら、既存曲も文脈的に違う意味を持つようになるよね」

夕「同じ曲が全然違う文脈に入れられることも全然ある。NCTなんかは(リパッケージアルバムとして出たものを)全部通して聴くとなるほどそういうことかって思うことはあるかな」

夕「ただ、リパッケージって売上を引き伸ばすためにやることだから、自作曲を出すアイドル達はそういうやり方を好まないのかもしれない。SEVENTEENとか(G)I-DLEはあんまり出してるの見たことないな。キャリアと人気の割にすごく少ないと思う」

夕「曲を売り物としてドライに捉えられるかっていうところで差があるのかもしれないね。僕も一応曲を作ったり出したりしてるんだけど、曲同士のつながりとかリリース形態も含めて表現だと思ってるから雑に扱いたくない気持ちは分かるかも。本人たちの意向なのかは分からないけどね。

夕「あとリパッケージがでるかどうかには事務所の大きさも関係してそう。中小の事務所は曲数が用意できなくて、(リパッケージアルバムにも)シングルで出した曲しか収録されないことも多いイメージ」

片瀬「同じ曲をそのまま違うパッケージで売りますよってことになるよね」

夕「中小事務所の中でも新人の女性グループは曲数増えないなって見てて思う。だからはじめのライブまでなかなか来日してくれなくて。韓国ではファンショーケース(*1)単位でやることもあるけど」

片瀬「確かにワンマンライブをやろうと思ったら結構な曲数が必要だからね」

夕「だからファンコンサート、ミニファンミーティングみたいな形で来日することが多いかな」



今回は、KPOPのリリース形態からストリーミング時代のアルバムの形について話してきました。多くのグループは、音楽的な側面だけでなく、テレビへの露出やパフォーマンスを意識するなど、1回のカムバでリリースするそれぞれの楽曲にもたせる役割を意識しながら制作を行っているようです。また、自作曲を出しているグループの中には表現としてリリース形態にこだわりをもっている側面がみられたり、中小事務所ではそもそも楽曲数を用意することが難しいことが伺えたりと、個別の様々な事情が反映されていることがわかります。

(*1)ショーケースとは、新曲の音源公開日にメディア向けに行われるお披露目のことを指す。音源公開直後に、ファンショーケースと呼ばれるパフォーマンスや楽曲についてのトークもあるコンサート形式のイベントを行うことが多い。

「#韓ドルオタクとボカロP」というシリーズで、KPOPの産業構造やファン文化に着目した全5回の対談を掲載していきますので、興味を持った方はぜひマガジンをチェックしてみてください。




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