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コロナ対策 「専門家」とどう付き合うか

〇新型コロナウイルスの感染拡大に脅かされている今ほど、「専門家」が注目されている時代はありません。新型コロナウイルスの感染拡大とはいかなるもので、いかに対応したらよいのか、我々素人にはさっぱり分からないからです。それを分かるために、専門家の知恵を借りたいと思うのは、無理からぬところでしょう。

○この専門家をめぐって最近、示唆に富む2つの記事がありました。1つは2020年8月5日から6日にかけて各紙一斉に報じたものですが、大阪府の知事による“うがい薬”騒動です。話は簡単、大阪府立病院機構の研究で、うがい薬を使った患者がPCR検査で陽性になる割合が、使わなかった患者より低かったと、吉村大阪府知事が記者会見でわざわざ発表したのです。

○コロナ対策で人気の高い(なぜ人気が高いのか、よくわからないのですが)吉村知事の発表とあって「コロナ対策で薬効があるのか!」と、うがい薬が各地の薬局でたちまち売り切れになりました。その一方で、この発表のもとになる調査の対象がわずか41人だったことから、軽々に結論が言えないようなことをなぜ発表したのかと、専門家から厳しい批判が相次ぎました。医療の研究結果は1000件から2000件の事例を集めて分析し、発表するものだということです。吉村知事は翌日また記者会見で、「誤解がある」(自分で誤解させといて、よく言うよ)と、前日の発言を取り消すのに大わらわ。

○医療研究の結果発表を、全くの素人のである政治家の吉村知事が行うこと自体が誤りです。吉村知事はコロナウイルス感染の医学について、いわば偽の専門家。「こういう時は、偽の専門家が現れるということで、気を付けなければなりません!」という教訓になってしまいました。

○もう1つは、2020年8月7日の朝日新聞朝刊の記事。厳しい行動制限を避け続け、大きな被害を出したイギリスのコロナ対策の詳報です。イギリスが原則外出禁止とする「ロックダウン」などに中々踏み切らず、コロナ対策に失敗したことは今や有名です。
イギリスの専門家会議「非常時科学諮問専門委員会」(SAGE)の議事録によると、イギリスのジョンソン政権は厳しい措置に慎重な科学者の助言に従っていたということです。つまり専門家の言うとおりにして失敗したということで、私はショックを受けました。
専門家に頼ろうと思っていたのに、専門家に頼ってもダメな時があると言われたのでは、どうしたらいいのでしょうか。イギリスの場合、他の専門家からこのままでは大変な死者が出ると指摘され、ようやく軌道修正をしたのですが……。 

○さすがに、専門家の多岐にわたる意見の扱い方についても、また様々な専門家から多数の意見が出ています。その中でも2020年7月29日朝日新聞朝刊のインタビュー、東大名誉教授(都市計画)の大西隆さんの議論は、前の日本学術会議会長だけあって、穏健妥当なものです。まず政府の新型コロナ対策は緻密な分析に欠け、雑な感があるとしたうえで、専門家会議に変えて発足した分科会は議事録も当面非公開で、「政府の政策にお墨付きを与えるだけになるのでは」と心配しています。

○専門家会議の座長らは対策の呼びかけなどで「前のめりになった」と述べましたが、大西さんの評価は逆で、もっと詳しく説明してもらってもよかったとしています。「どんな議論がなされ、何が議論されていないか、詳しく分かる議事録が直ちに公開されるべきだった」「他の専門家も含め、会議の外側に居る人たちの意見にも学び、咀嚼して議論に活かしていくべきだ」。うーん、専門家といえども限られた範囲だけでなく、広く知恵を結集して論議すべきなのか。そして我々も、専門家に頼り切ってはいけないのですね。

○名古屋大学教授の法哲学者・松尾陽さんも同様の意見です。(2020年4月9日、朝日新聞朝刊)。「専門家を適切に尊重するということは 専門家の領分を適切に認識し、その専門家にも答えられない領域があることをわきまえることだ。自分が考えなければならない領域に向き合うことは不安を伴なうが、それが自律や民主制への第一歩である」。

○東大教授(科学技術社会論)の藤垣裕子さんは、専門家の役割についてこう語っています(2020年7月29日朝日新聞朝刊インタビュー)。「科学的助言をする専門家は、複数の選択肢を準備し、メリットとデメリットを提示する。それをもとに政治家が対策を決定するのが本来の姿だ」。しかしGo Toトラベルについての、安倍政権の訳の解らん決定などを見ると、とても後は政治家にお任せするという気になれません。

○2020年4月11日の日経新聞朝刊のインタビューでは、科学史家の村上陽一郎氏が「何が合理的なのかを最終的に判断するのは市民だ。個人の良識や常識、健全な思考に私たちの未来はかかっていると再認識すべきだ」と言っています。我々に対する、叱咤激励ですね。

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