見出し画像

リリースできません!!!

8年ほど前の話である。当時、自社のサービスの開発にPMとして関わり、部下に引き継いだプロジェクトがあった。その引き継ぎ後の初回のリリースが、なかなかうまくいかなかった・・・そのときの気付きのお話し。

サービスリリースの日

自社WEBサービスを3ヶ月かけて開発しリリースした。

自社サービスということで開発環境も運用環境も自由にできたので、Jenkins&Seleniumで自動化してDebOps的な感じで進めよう!とトライしたプロジェクトだった。

だから、ステージング環境(本番前の最終チェックの環境)で確認ができれば、テストまで自動で行、本番環境へのリリース自体は失敗することがないように仕込みは万全のはずであった。

私は開発後、さらに3ヶ月程度の運用をみた後、別の新規事業に関わるため、部下のMさんにそのプロジェクトを引継いでいた。

小さな会社だから、Mさんも私も、同じ部屋で、デスクの位置が変わっただけ。ちょっと、見渡せば顔も見える状況であった。

そして、その日はサービスを引き継いだ、最初の修正バージョンのリリースの日であった。

私は新規事業の立ち上げのため忙しい状況で、自席で翌日のプレゼン用の資料をパワポで作っていたのであった。

ザワつく社内

もちろん、その日が引き継ぎ後の最初のリリースの日であることは私も知っていた。

ただ、次の日のプレゼンの準備で頭がいっぱいだったのと、リリースなんてボタン一つで完了するから、失敗なんてしないだろうということで、少しリリースに対しての意識が薄くなっていた。

プレゼン資料作成の合間に、意識を社内に向けると、雰囲気、なんだか、社内がザワついているようだった。

社長も私の机の前の通路を行ったり来たりしている。

トイレに行きつつ、少し離れていたところに座っていた部下に「なにかあったの?」と聞くと、リリースがうまく進んでいないようだ。とのこと。

「え?何にうまく進まないって何に???」と聞きながら、Mさんの方に目を向けると、少し焦っている様子であった。

目の前を通り過ぎようとする社長に「大丈夫ですか?見ましょうか?」と聞くと、Mさんが対応しているから大丈夫、と返事があった。

社長が、大丈夫であれば、余計な手を出すことはないだろうと、プレゼン資料に手を戻すことにした。

時刻がズレている

とはいえ、うまく進んでない、と聞くと気にはなる。

しばらくすると、「ログみたの?」「ステージんが環境は?」「時間がおかしい」「それ直せばいいんじゃないか?」「ズレているからチェックされているんじゃないか?」「Jenkins使えてるの?」みたいな声が聞こえてきた。

「なんだか、原因に辿り着いたのかどうかも、怪しいなぁ。」なんて、気になりつつ自分の作業を進めていた。

さらにその後、20時半を過ぎた頃に、社長が私のところへやってきて、Mさんが調査したら、本番機の時刻がズレているらしい。と。だから、時刻を直すためにコマンド打つんだけど、この手順で良いか?という確認の依頼がきた。

「本番機の時刻がズレている???」なんて、頭をよぎりつつも、社長がもってきた、これから実行しようとするコマンドが印刷された紙に目を落とした。

2012年 6月 5日 火曜日 11時35分12秒 UTC

「あれ?」

おかしい?いや、おかしくない。今は20時35分だ。

私:「Mさん。時刻がズレてるって、何がずれてるんだっけ?」

Mさん:「はい。9時間ずれてるんです。だから、Jenkinsで本番機にアクセスするときに時刻ずれでチェックが走って、リリースの処理が止まってるんじゃないか?と思って」

私:「いや・・・。Mさん。日本標準時は協定世界時からプラス9時間だからあってるでしょ?UTCで見てない?その時間?多分ずれてないと思うけど。」

Mさん:「あ、そうなんですね?」

私:「たぶん、先月のリリースから本番環境って何も触ってないはずだから、サーバの問題ってことは少ないと思うんだけど・・・」

Mさん:「たしかに、そうですね。」

と、時刻変更のコマンドは実行されることなく、Mさんは、調査を再会した。

システムエンジニア

この後、私も手伝い、リリースができない原因を調べたのだが、どうやら手順がおかしく、Jenkins上の実行順が間違っていたことが原因であった。再度、正しい手順で進めることで、正常にリリースすることができた。

手順書もあったのに、なんで間違えたのか?までは、ここでは書かないが、初歩的なミスであった。まぁ、リリースが無事完了して、その次以降で繰り返されることはなかったから、よしとしよう。

そして、このMさん。
この後、半年経たずして退職し、ある上場企業の子会社のSIerにシステムエンジニア&プロジェクトマネージャーとして、転職していく。

転職にはいろいろ理由があるから、次の会社で活躍してくれればとても嬉しいと思う。

システムのプロジェクトマネージャー、システムエンジニアとして、10年弱の経験があり、それなりの名前を聞けば誰でも知っている会社の子会社へ転職できるほど、力のあるエンジニアのMさん。

+9時間と見て、時刻のズレに気づくことができなかったのだろうか?と、私はとても大きな衝撃を受けていたのであった。

この会社にはMさんも私も転職してきた人間だった。だから、一緒に仕事をするまでは、相手の実力は分からない。から、それまでの経歴、経験、プラス所属してきた会社名など、わずかな情報からその人の実力を探る。

今のこのITが広まった世の中、おそらく、システムの開発者でなくても、パソコンを初めて使うときや、海外のサービスを使うとき、などに、+9時間という表記を見る機会もなくはない。

しかし、Mさんは、システム開発に携わるエンジニアである。
そして、システムのプロジェクトマネージャーとして、お客様にシステムを提案し、設計を統括し、開発を牽引する役割を任されるための転職をした。

そんな評価を得られている人が、協定世界時と日本標準時の9時間の差に気づかず、サーバーの時刻変更をしようとしていたのだ。

Excel使えません

幸い、私が確認したことで、時刻の変更がされることはなかった。

しかし、私がいなかったら、どうだっただろう?

チェックする人はおらず、サーバーの時刻変更がなされていただろう。

いや、レンタルサーバーだったから、時刻変更はできなかったかもしれないけど。。。(それはいいか。)

その後、時刻のズレを確認する、なんて、改善案でも出てきて、チェックリストでも作るのではないだろうか?

それは、さておき・・・
あなたは、+9時間という差を見て、時刻がおかしいというエンジニア、プロジェクトマネージャーに自社のシステムの開発をお願いしたいですか?

あるコンサルが、社内のデータのやりとりで話していた言葉。

「うち、家のパソコン(テレワークなので)にExcelないんで、会社の申請フォーマットの書類が開けないんです。スプレットシートで試したんですけど、ファイルが壊れているって言われて・・・」

もちろん、私のMacのExcelでは開くから壊れているのではない。おそらく、Googleのスプレットシートでは認識ができない関数でも埋め込まれているのであろう。

あなたは、渡したExcelファイルを開くことができない、というITコンサルタントに、自分の会社のITを見てもらいたい、と思いますか?

プロフェッショナル

個人的な意見ではあるが、このやりとり自体どうなんだろう?と、強い疑問を感じたのであった。

そして、そのこと自体以上に、エンジニアとして、プロジェクトマネージャーとして、ITコンサルタントとして、その役割を果たす上で、準備が大きく足らないのではないか?と思ったのだ。

もちろん、人だから、それぞれ得て不得手はある。

だからと言って、プロフェッショナルとして、最低限知っていて欲しいこともある。

それを判断するのは、発注者である、お客様だ。

私が、これらのやりとりをしていることを知っていたら、彼らに仕事をお願いすることはないだろう。

しかし、お客様がそれを知ることができるのは、発注してから、仕事を一緒にやり始めて、お金を払わなくてはいけない状況で、もしくは、トラブルになって初めて理解するのだ。

気付くための機会がないから、一番不幸なのはお客様なのだ。

私はお客様が不幸にならないように、お客様に迷惑をかけないように、プロフェッショナルとして、絶えず自身のスキルの向上に努めたいと思う。

エンジニアが高くないスキルでお客様にサービスを提供することは、お客様のスキルが向上する機会すら奪ってしまうから、結局のところ、業界としてスキルがあがらないこととなる=不幸せなことが増える、のだ。

最近、2、3ヶ月、コンピューター教室でプログラムを勉強して、まずは仕事もらって、副業で稼ぎながら、自分も学べばいい。という話を多く目にする。スキルを上げるために実務をこなすのは、とても良いことだし、必要なことではある。

早道で自分のスキルアップだけを考えたら、まずは実務という考えもあるのかもしれない。

ただ、プロフェッショナルとしてお客様にサービスを提供すると考えたときにどうであろうか?

身の丈に合った仕事、報酬というのはなんだろうか?

みなさん、どう思いますか?

最後までお読みいただきありがとうございました!
スキ・コメント・フォローなど頂けると嬉しいです!

↓こういうのも書いてます。ご興味があればどうぞご覧ください。

こちらに「世間知らずの転職活動」の全てがあります。


この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?