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時を越えた瞬間の記録【パリ】

2019.10.25 France, Paris

すべての運命は既に決められていて、そこに書かれた内容をひとはなぞるだけ。アラブの世界に「Maktub(マクトゥーブ)=書かれている」という言葉があるように、つまりは覚悟を決める前から物語は始まっていた。2015年に初めて訪れたパリ、右も左もわからない複雑な街でたまたま予約したアパートは、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステラへと向かう経路、レヴィ通りのすぐそばだった。

その後もパリに訪れるたび、この通りを何度も歩いたはずなのに巡礼の行程であることを知ったのは巡礼後の2019年である。落ち着いた雰囲気のこの地区が好きだったから、滞在先はレヴィ通りにあるアパートに決めた。数日経って、雨上がりの後の街を歩きながらふと地面を見下ろすと黄色で書かれた矢印があった。誰もが見失わないようにと、ポールに、横断歩道の前に、壁の下に、あちらこちらに散らばりながらも明確に一方だけを示す。

「街のなかのサインは見落としやすいから、迷子にならないようにね」。2017年、スペインでこの無言の印を頼りにコンポステラを目指した自分。迷いながらも進むしかないと決めた強固な覚悟。今は顔も思い出せない親切な巡礼者の声が、時間を超えてはっきりとこの耳に聞こえてくる。

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