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時を越えた瞬間の記録【ヴァランス】

2019.10.17 France, Valence

向かいのホームには誰一人ひとがいなかった。

直線と曲線が入り混じった建築、ヴァランス駅。近代的なこの駅を大きく見守る空は、秋のやわらかな水色をまとい、白い雲はまたふんわり、うっすらと青に溶け込むようになびいている。時折見せる日差しは黄金色に輝いて、20キロの荷物を詰め込んだスーツケースとともに駅に立ち尽くすわたしをじんわりと励ます。いま何かが動いた。ホームの先のロータリーにバスが滑らかに立ち入って、数人の乗客を吐き出してどこかへ行ったようだ。

ここは10時17分。日本時間で17時17分。

この駅でたたずむ時間の流れは特別なものか、それとも日常か。少なくとも満員電車が当たり前の、ホームから人がこぼれ落ちるほどに溢れかえる世界からこの場所にやってきたわたしにとって、眼前の静けさと平穏は異常とも言えるほどに美しく非現実的だ。このまま電車はこなくていい。どこにも行かないし、どこにも行けない、そうわかっている。駅が自分の身体を捉えて離さなかった。一歩も動かないようにと見えない強力な磁石で地面と両足が引っ付いてしまった。だから願うことはただひとつ。

昼がすぎて夜になって、また誰かが訪れて通り過ぎてもどんな感想も持たない。繰り返しこの情景を眺め続けるだけの傍観者になりたい、と。

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