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たいしたことない日々のこと0603

精神的なものが影響しているのか身体的なものに原因があるのか、どちらが理由なのかは把握できていないのだけれど、6月に入ってから、すこぶる調子がわるい。特に今日は打ち合わせ中に言葉が上手く見つからなくて適切な発言をするのに苦労し、夕方には照合しなければならない数字がまったく頭にはいってこなかった。自律神経が、「どうもこの身体をコントロールするの、嫌になっちゃったんだよなあ」と機嫌をそこねている。

それでもいまこうやって文章は書けているから、まだ、ましかな。

世の中の出来事もきっと多分に、精神のほうに影響を与えていたのだろう。日々ツイッターやニュースでみる報道、唖然として開いた口が塞がらずに、悲しみに打ちひしがれる回数もやはり増えていた。自分がその現場にいたらこんな行動をしただろうな、この立場だったらどんな思いを抱いただろうな。現場と物理的に距離を置いて、遠巻きに眺められていたとしても。いまは、誰かが発する「こうであるべき論」を耳(目)にする機会が多くある。さらにいえば自分もその言動や思考の並びに加担している可能性も否定できなくて、そうするとそこは果てしなく絶望した気持ちにおちいって、何もかもが嫌になる。大好きな作家の本も読めないし、積極的に情報をインプットすることもできなくて、大抵はリビングに移動してただソファでぼんやり座って、テレビも電気もつけずに耳をすまして目を閉じる。

時折、窓の外から、歩いて家に帰る母親と子供の会話が聞こえたり、車やバイクの音がぶおんと主張をするように通り過ぎたりする。

気づいたら窓から差し込む光は暗くなって、静寂さだけが部屋にあふれて、夜が始まる。1日がまた終わる。

ほんとうは5月29日に渡仏するはずで、今日はもしかしたら試験を受けるはずで、会えたかもしれない友人がいて、やるべきことだったはずのことがあって、それらがすべて幻想、夢のうちに終わってしまったのかと考えたら、とてつもなく無性に悔しくなった。「秋には絶対行く」「諦めていない」と周りに威勢よく笑顔で返答しているわりに、自分のこころの奥底をこうやって文章を書いてのぞいてみると、整理ができていない。くすぶり、焼け焦げた黒いちり紙みたいな残骸が、そこら中に積もっていて、それはつまり煌々とした炎が燃え続けていたから一時的に見えなかったのかもしれないし、熱でごまかしていたものもたくさんあったのかもしれない。

なぜそこまでして、まだ、フランスに行こうとするのだろうとも思う。理想とする対象がたくさんあって、当たり前に議論できる環境で、ひとりでも誰といても居心地が良くて、個を尊重していられる場所だからか。前向きになれて向上心を刺激される。だから最大限自分の力を発揮できるような仕事と向き合い働いて納税して、その社会の一員として生きてみたい、からか。

でも、その一方で。ほんとうは行かなくてもいい理由が日本にあればよかったのにとも思う。日本にいたくないのではなく、どこからともなく日本にいなくていいよ、と言われているような気がするからか。ここにいる意味はないよ、と存在の価値を否定されているような気がするからか。異邦人である心地よさ、特別感を享受したいからか。焦燥感や不安を、どこかに旅立つことでなかったことにしようとしているのか。

考えれば考えるほどに「ほんとう」が一体なにかわからなくなる。こういうときは、正体を知りたいと混沌のなかに素手を、両腕を勢いよくつっこんで粗雑にかき混ぜてしまうほど負の力が強くなってしまうから、考えるのをやめる。文章を書くのもおしまい、やめやめ。全部中断。ここまでの思考は、ただの仮説でただのたわごとで、どれもほんとうかもしれないしどれも嘘かもしれない。本心などこんなふうにつかみ取れるほど、単純ではない。

昨日NHK BSプレミアムで「聖なる巡礼路を行く」の第二回が放送され、カミーノは「贈り物だ」と、寄付制の宿で働く元ツアーガイドの女性が語った。そうか、あの旅は人生の大きなギフトだったのか。大好きなひとたちとの出会い、それこそがわたしの求めていたギフトだと考えれば、いろんなことに合点がいく。

道のことが懐かしいのか寂しいのか、またすぐにでも歩くつもりだったのに渡仏できず入国できずで歩けなくて悔しいのか、泣きそうな気持ちで、祈るような心持ちで番組を見た。いまこのタイミングで放送してくれていることもそういう意味でわたしにとっての贈り物なのだろう。次の放送で最終回、サンティアゴにたどり着く。こころの片隅にはほんのちょっと無遠慮があって、それはもちろん不可能だとはわかっているけれど、永遠に目的地に到着しなくていい、そんな気がしている。そのまま歩き続けて、探し続けるままでも十分かもしれない。人生だって同様に。

「聖なる巡礼路を行く 〜カミーノ・デ・サンティアゴ 1500km〜」第三回の放送日は6月9日(火)午後8時から。


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