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カルビーで商品開発をする34歳@広島【前編】ユニークな新商品は、掘りごたつがあるオフィスから生まれる

 広島発祥の大手菓子メーカー、カルビー(東京)。創業地の広島市に構える開発拠点「カルビーフューチャーラボ」で働く樋口謹行のりゆきさん(34)に、ユニークな新商品を生み出すためのマイルールを聞きました。(聞き手・栾暁雨、写真・山田太一)

樋口さんってこんな人
 大阪府生まれ。北海道大大学院農学研究院で食品栄養学を研究し、2013年カルビー入社。翌年、広島工場(廿日市市)内にある研究開発本部に異動。16年から現職。振って味付けしながら広島東洋カープを応援する菓子「ふるシャカ」や、食パンに塗る具入りソース「のせるん」などの開発に携わる。

―たくさんのお菓子がある中で、ユニークな新商品を生み出すのって大変そうですね。

 プレッシャーはあります。消費者のニーズがどこにあるのか、どんな商品が売れるのか、納期は…。気付けば仕事のことばかり考えちゃいます。僕が働いている「カルビーフューチャーラボ」のミッションは、これまでのスナック菓子とは違う新分野のヒット商品を開発することポテンシャルを見込まれている分、求められるレベルも高い。登ろうとすると筋肉痛どころか、アキレス腱(けん)が切れそうになるくらいしんどいです。

 商品開発って、突然ひらめいてゴール直前までワープすることもあれば、途中までやったことが振り出しに戻ることもある。ニーズがあると思っていたのに実は違っていたり、ニーズはあるけど具現化できなかったり。ゴールまでたどり着けるか分からない中で突き進んでいることも多くて、失敗は数え切れません。

 おかげで、枕に頭を付けて、さあ寝るぞと思うと「あれどうなったっけ」「この作業してない」と考え始めちゃう。頭が覚醒して眠れなくなったり、朝5時半に目が覚めたり。生真面目な性格だから、本当は、遊び心を必要とする今の仕事には向いてないんじゃないか…とさえ思えちゃって。

 なかなかリラックスできない僕の脳内をほぐすためにも、せめてオフィスは「誰かの家に来たような、くつろげる場所」であってほしい。ラボは「ものづくり」のひらめきを生む拠点なので、自由な発想が生まれやすい空間が必要なんです。

―くつろげるオフィスって斬新ですね。BGMが流れていて掘りごたつまであるのに驚きました。

 確かに、オフィスって集中する場所で、緊張感があったり無機質だったりするイメージですよね。でも、そうした先入観を捨てなきゃいけないのが今の仕事なんです。

 ラボに来て最初にしたのが、どんなオフィスにするかを考えることでした。場所はJR広島駅前の高層ビル「ビッグ・フロントひろしま」の7階。200平方メートル以上の広々とした空間に仕切りはなく、常に誰かの気配を感じられます。

 ちなみに掘りごたつは、居酒屋を意識してるんです。飲み会でテーブルを囲むと相手と距離がぐっと縮んで話が弾みますよね。同じ感覚で、わいわい雑談したり本音で話し合ったりできたらいいなって。

 実際、居心地がよすぎて長居しちゃうんですよ。先輩から「もっと外に出ろー」と言われるくらい。でも、ふとした瞬間に「そういえばあれってさ」「全然関係ないんですけど」の一言からアイデアが生まれることもある。仕事の質は高まってるんじゃないかな。

畳スペースの掘りごたつでは飲み会も行われる

―ラボの立ち上げメンバーのうち、社内からの参画は入社3年目の樋口さんだけだったそうですね。どうして選ばれたのでしょう。

 新入社員の頃、副社長に言われた「若い君たちが組織に感じている違和感は正しい」という言葉が関係しているのかな、って思う。会社は「カルビーに染まってない人間」を求めていたのかもしれません。

 どこの組織でも長いこといると、いつの間にか「仕事ってこういうもの」と思考停止してしまう時があるんじゃないかと思います。硬直化しないためにも、「当たり前」に疑問を持ち「そもそもどういうことなんだっけ?」と本質に向き合うことを期待されていた気がします。経験もスキルもなかったことが逆によかったのかな。

 今もラボのメンバー7人中3人は社外からの参画。社内だけでは出てこないアイデアを掘り起こすため、「外の人」の力は欠かせません。内部にいると気付かないことに疑問や指摘を投げかけてくれるから、「染まらない」でいられるのかもしれません。

ラボは土足禁止

―ラボでは顧客を巻き込んで一緒に商品をつくっていますね。

 ここでも外の人の力を借りています。「サポーター」と呼んでいて、僕らの心強い仲間であり応援団です。ラボができた当時は本当に右も左も分からなくて不安だらけだったけど、とにかく動いてみようと。自前で新商品を生み出すのは無理があるので、まずは顧客を知って顧客の声に頼ろうと思ったんです。

 ニーズを探るため、2千人に話を聞くことを目標にしました。でも最初は全然うまくいかなくて。「食」に特化して聞いていたんですが、一問一答になりがちで深く踏み込めない。「なるほど」という気付きが得られず、本当に新商品を作れるのだろうかと、早くも心が折れかけました。

 その後、質問を日々の生活習慣にまで広げたことで多彩な角度から食を見つめられるようになったんです。1週間の生活の様子をシートに記入してもらい、それを基に1対1で「なぜ、この時間にご飯を食べたのか」「この行動をしたのか」と深掘りします。

 人って行動と感情が一貫していなくて、本人さえ無意識にしていることが生活の中に多いんですよ。例えば「痩せたいと言ってるのにお菓子を食べてる」といった矛盾です。そうした「言われてみれば…」から生まれるニーズが開発のヒントになりました。

 インタビューで得た気付きと課題を書いた付箋は、3千枚を超えました。僕らはこれを「アイデアの卵」と呼び、壁一面に貼り付けています。企画のエンジンであり「ネタ帳」です。

 おかげで「ふるシャカ」や「のせるん」など4つの新商品を生み出すことができた。まだ荒削りでヒット作とはいえないけど、思い描いたプロセスを実現しながら前に進んでいる手応えはあります。

ラボで企画した第1弾の商品「ふるシャカ」 

―精力的な樋口さんですが、昼食が「腹七分目」なのはなぜですか。

 一つは、さえた頭で思考するためです。少し空腹感がある方が、脳に神経や血液を集中できて集中力が増すので。満腹だと眠くなっちゃうんですよ。前日の夕食の残りを詰めた簡単な弁当を持参することが多いのですが、あえて少なめに入れています。

 二つ目は、コミュニケーションのためです。ラボ中央にあるキッチンには菓子コーナーがあって、メンバーが持ち寄った他社の商品を置いています。新発売のチョコレートだったり、旅先のご当地スナックだったり。常時20種類くらいは並んでますかね。

 小腹がすくと、味見がてら食べに行くんですが、だいたい誰かがやってきて雑談が始まる。「こういう食感があるんだ」という気付きや、売れるポイントを考えながら自然と会話が生まれます。満腹だと、こうは行きません。

ラボ中央にあるキッチンには他社の菓子も並ぶ

後編に続く⇩⇩⇩


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