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「夫」「妻」派が増加 配偶者呼び方問題の背景にジェンダーあり

 夫・妻、主人・家内…それとも? 配偶者の呼び方について中国新聞の読者に尋ねたアンケートでは、300人以上から回答がありました。多くの人がTPOによって呼称を使い分けると答えましたが、対等なイメージがある「夫・妻」派が増えているようです。呼び方の背景や回答の受け止めを、ジェンダーや言葉に詳しい専門家たちに聞きました。(栾暁雨)

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静岡大の熊谷滋子教授(社会言語学)

 ここ2、3年で「夫」「妻」と呼ぶ人が急増したと感じます。これは「#MeToo」や、共働き世代の「家事シェア」の動きと無関係ではありません。夫婦関係が対等になったことが意識に変化もたらしたのでしょう。SNSの普及で言葉に敏感になっている人も増えています。

 過去を振り返ってみると、文化庁の1999年の調査では女性の75%が配偶者を「主人」と呼んでいました。5年前にインテージリサーチ(東京)が1万人を対象に行った調査では、20~40代は旦那や嫁と呼ぶ人が多く、50、60代は主人と家内が多かった。一方で、女性が呼ばれたいのは「妻」という結果も出ています。今は夫・妻にシフトしている過渡期でしょう。

 「主人」はもともと、商家などで使用人があるじを呼ぶ言葉。夫を指す言葉として使われるようになったのは、家父長制をもとにした家制度が旧民法で明文化された明治以降とされています。専業主婦世帯が急増した高度経済成長期にはさらに普及しました。

 「主人」とセットで使われやすい「家内」という漢字は、当時の価値観を表していますね。周囲に合わせたり単なる「記号」のように使ったりしている人もいると思いますが、家庭の「主たる人」が誰かという上下関係を連想するニュアンスが含まれることは無視できません。

 ちなみに私は東北地方の農家出身ですが、「うちのかかあ」「うちの人」と呼ぶ夫婦が多い。男女一緒に農作業をするのでフラットな呼び方が合うのでしょう。逆にサラリーマンと専業主婦家庭が多い都会では養ってもらう意識が働き、呼び方にも反映されているのかもしれません。

 今後の呼び方の鍵を握るのは、若い世代でしょう。恋人を呼ぶ際に彼氏や彼女ではなく「パートナー」と言う人が多い。人の配偶者についても「夫さん」「妻さん」「ご伴侶さん」「お連れ合い」など、時代の空気感を捉えたフラットな表現を好みます。若い人が使うと言葉は一気に広がる傾向があり、注目しています。

日本語を研究する安田女子大(広島市安佐南区)の町博光教授

 TPOで配偶者の呼称を使い分ける人が多かったことは、相手や状況によって言葉遣いを変える日本語の特性をよく現しています。「世間」を意識し、周囲と足並みをそろえたい心理もあるのかもしれません。

安田女子大の町教授

 女性配偶者への呼称の多彩さも印象的でした。妻・嫁・家内が多いものの、女房、奥さん、かみさん、ワイフなど、男性配偶者の呼び方以上に多様です。

 一定の年代以上の男性にとっては家庭などの私的なことを話すのは照れを伴うため、呼び方のバリエーションが多くなるのではないかとみています。外と内を分けているのもおもしろい。「家内・妻」はフォーマルな場、「嫁・かみさん」は親しい相手と話す際に用いているのでしょう。

 呼称は時代によって意味合いが変わる。例えば、かつては相手を敬う言葉だった「貴様」「おまえ」は、今ではののしったり、目下の相手に使ったりする表現になっています。同じように、配偶者の呼び方も時代によって変わっていくのかもしれません。