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赤字の路線バス・JRのローカル線を救うための「上下分離」って

 コロナ禍で経営が悪化した路線バスやJRローカル線を支える仕組みとして「上下分離」方式が注目されています。広島市は、バスの上下分離の検討を始めています。いったいどういうものなのか、仕組みを紹介します。(馬場洋太)

Q そもそも上と下って何を指しているの?

 A 「上」が運行で、「下」が車両や線路などのインフラ。バスや鉄道の会社は「上」に専念し、「下」を自治体などが税金で支えるケースが多い。上下で担当を分けるから「上下分離」と呼ぶんだ。「公有民営」と言う場合もあるよ。バスでいえば、広島市が税金でバスを買い、バス会社に安価でリースをするイメージだよ。

Q なぜ上下分離が検討されているの? 

 A 赤字にあえぐバス会社や鉄道会社を、行政がサポートするためなんだ。「上」はそれぞれの民間会社に任せるけれど、「下」は私たちの税金で後押しするという試みだよ。少子化が進んでこれからますます人口が減れば、バスや鉄道の利用客も減るよね。収入が減って、今の仕組みのままでは減便や路線の廃止といったサービス低下が避けられそうにない。さらにコロナ禍でみんなが外出を控えたために、公共交通機関の乗客が3割近く減って、バス会社も鉄道会社も収入が減って困っているんだよ。
 広島市では広島電鉄や広島バス、広島交通など広島都市圏のバス会社7社が4月下旬に「上下分離を含めた経営支援をお願いしたい」と市に申し入れたんだ。市は最短で2024年度の導入を目指すと言っている。


Q 鉄道の上下分離はどうなの?

 A 広島市は「まだ研究段階だ」と言っている。でも、芸備線を残すための一つの選択肢として上下分離を視野に入れているようだよ。ただ、実現するには、広島県や沿線の三次市、安芸高田市などの協力も不可欠だ。線路の所有やメンテナンスには多額の費用が必要になるから、国の財政支援を得られるかどうかも鍵になりそうだね。広電は「現段階で、路面電車の上下分離は想定していない」と言っているよ。

 Q 上下分離は、国内では例があるの?

 A 鉄道ではたくさんあるよ。例えば貨物列車は、JR西日本など旅客会社の線路を走るけど、運行を担うのはJR貨物だ。九州新幹線や北陸新幹線の線路は国の特殊法人の所有だし、ローカル線でも自治体が線路や車両を所有するケースが増えているよ。鳥取県の若桜鉄道は、沿線2町が線路や車両を維持管理している。災害で不通になったJR東日本の只見線は、福島県が線路を保有する条件で復旧するよ。
 バスも、市が車両を用意し、タクシー会社に無料で貸して運行してもらうやり方が全国にある。これも一種の上下分離と言えるね。広島県内では、廿日市市の「さくらバス」や呉市の生活バスがそうだ。とはいえ、もし広島市内を走る8社の千台近いバスがすべて上下分離の対象になるという大規模な試みが実現すれば、全国で初めてのケースになるよ。

 Q 営利企業のバス会社に車両に用意してあげる必要があるのかな。

 A そういう考え方も確かにあるね。ただ、バス会社は商品の値段、つまり運賃を自由に決められないんだ。国がバスの運賃を認可するときに、想定する利益率はたかだか数パーセント。だから、2割も3割もお客が減るとすぐに赤字になるんだ。それに、公共性が高いので、儲からないからといってすぐに路線をやめられない。そうした制約を考えると、一般企業とは少し事情が違うと思う。また、社会の求めに応じて高価な低床バスや二酸化炭素の排出の少ないバスを買い続けるのは、私企業には難しくなっているという事情もあるよ。

Q なるほど。ただ、バスに乗らない市民にも税金で負担してもらう理屈は成り立つのかな。

 A バスに乗らない人も、知らず知らずのうちに恩恵を受けているんだ。もしバスがなくなって多くの人がマイカーを使えば、道路が今より渋滞するよね。道路を広げるにも、巨額の税金がかかる。バスが走っているおかげで今ぐらいの渋滞で済んでいる、と考えれば、バスに乗らない人も含めて税金で負担する意味もある、というわけだ。排ガスが減れば、脱炭素社会にもマッチするね。

Q 税金を使うなら、無駄を省くことも大事だね。今は広島市中心部の八丁堀から紙屋町にかけてバスが多すぎて、バスが渋滞の一因になっている気がするよ。

 A 上下分離が無駄を省くことにつながる可能性もあるよ市が「お金を出す」ことで、バス事業に「口も出せる」ようになるからだ。これまで、都心部でバスが過密なのは事業者も分かっていたけれど、「うちが便数を減らしても、よそにお客を取られるだけ」との各社がけん制しあって、なかなか抜本的な改善ができなかったんだ。広島市は上下分離を機に、市とバス会社が一緒になって路線のルートやダイヤを決める仕組みをつくろうとしているんだ。効率的な路線やダイヤになれば、バスの台数を減らせるとの見方もあるよ。

Q バスが便利になって渋滞も緩和されたらいいね。

 A 単なる赤字補てんではなく、公共交通を便利にするための投資だという発想に立てればいいね。国土交通省も、地方の路線バスを便利にするための新たな支援制度を検討しているようだから、追い風は吹いているよ。もし、広島市でバスの上下分離が実現すれば、例のない規模になるだろうから、全国のモデルケースになりそうだね。