性的少数者「ソジハラ」に苦悩 差別や嫌がらせ、勝手に暴露…
LGBTなど性的少数者への差別的な言動や嫌がらせを指す「SOGI(ソジ)ハラスメント(ソジハラ)」をご存じですか。ハラスメント対策を大企業に義務付ける「パワハラ防止法」が2021年6月から施行され、新たに注目されています。当事者たちは職場で、どんな悩みを抱えているのでしょう。(栾暁雨)
「ゲイなんでしょ?」と同僚たちからしつこく聞かれたことが忘れられない。広島市の30代派遣社員男性は、以前勤めたアパレル店の飲み会で質問攻めに遭った。嘲笑するような言い方が嫌で受け流すと「はっきりしろよ!」と迫られた。デリケートな問題をネタにされ「ただただ恥ずかしくて。仕事に関係ない話で不快だった」と振り返る。
転職先でも、中性的な外見やしぐさをからかわれるなどソジハラ被害に遭った。金融系企業では先輩の女性社員から「オネエぽい」「おかまバーで働いてるとしか思えない」と言われ、恋人の有無や性行為についても聞かれた。
今の職場でも「あいつゲイらしいよ」とうわさされる。勇気を出して、ゲイだとカミングアウトした同僚にも偏見の目で見られていると感じる。「同性の恋人と食事するだけで奇異の目で見られる。自分を偽るのはつらいけど、地方は保守的で生きづらい」。正社員を目指す意欲も失っている。
性的指向・性自認を本人の許可なく他人に知らせる「アウティング」もパワハラにあたる。広島県東部の30代会社員は、戸籍上は男性でも自認は女性のトランスジェンダーであることを勤務先の社長に暴露された。「知らないところで個人情報を言いふらされて戸惑いました」
社長にカミングアウトした次の日には他部署にも伝わっていて驚いた。同時に「間違った伝え方をされていないだろうか」と不安になった。心と体の性が一致しない「性同一性障害」なのに、個人的な嗜好と勘違いされやすい。実際、ある管理職からは「そういう趣味だったんか」と言われた。生まれ持った特性ということを理解してもらえない。
勤め先は9割が男性で「男は男らしく」という意識が根強い。「性別適合手術したら解雇だ」「髪を切れ」といった高圧的な言葉にも傷つく。職場のテレビでLGBTのニュースが流れるたび「何を言われるか」と体がこわばってしまう。
連合が2016年に20~59歳の労働者を対象に聞いた調査では、LGBTの人は8%。12、13人に1人の計算になる。ソジハラを受けたり、見聞きしたりした人は2割で、身近に当事者がいる人では6割に上る。
一方で当事者の働きやすさに配慮する企業も増え始めている。日本たばこ産業(JT)やNTTは同性パートナーも婚姻関係と同等の福利厚生を利用できる。武田薬品工業やソニーは利用者の性別を問わないトイレを設置。オムロンは生産拠点の制服を男女同じデザインにした。
採用選考でもエントリーシートの性別欄をなくしたり、無理解ゆえの失言がないよう面接官らにマニュアルを配ったりする企業がある。ただ、こうした動きは大手に限られているのが現状だ。当事者からは「中小企業でも環境を整えてほしい」と切実な声が上がる。
予防策 企業が率先を
ソジハラの背景には、上司の意識の問題がある。とりわけ中高年の男性管理職は、性的少数者への寛容度が低い人が少なくない。当事者を「笑いのネタ」にするテレビ番組などを見て育った人もいる。そんな上司がいる職場では、ハラスメントが温存される。当事者は声を上げにくく、周囲も問題提起がしにくい。
もともとデリケートで表面化しにくい事柄なので、ソジハラが起きる前に企業が率先して動くことが大切だ。社員研修や相談窓口の設置はもちろん、少しの工夫で当事者のストレス軽減につながる。男女別に行う健康診断の日程を社内掲示ではなく個人メール宛ての告知にする、書類の性別欄を極力減らす―などだ。誰もが働きやすい職場は生産性も上がり、労使両方にメリットがある。
アウティングに関しては、カミングアウトされた人が「理解者を増やしたい」という気持ちから第三者に話してしまうことも多い。悪意がなくても個人情報を勝手に知らせるのは暴露。何げない言動が当事者を傷つける可能性があることを職場で共有してほしい。