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うどん、焼き鳥、高級オードブル‥広島の変わり種自販機 はまる理由は?

 お好み焼き、焼き鳥、高級オードブル。広島でユニークな食品自販機が話題だ。新型コロナウイルス禍で休業の続いた飲食店が、売り上げ確保のため始めたケースが多い。しかし、中にはかなり前から続く「レトロ系」もある。ユーザーの中には「自販機だからこそ買いたい、食べたい」とはまる人も。実際に巡って魅力に迫った。(服部良祐)

レトロ系の「聖地」 三次のうどん

 広島県北部の三次市の国道沿いにある福原酒店を訪れた。本店横の自販機コーナーには「うどん そば」と書かれた昭和レトロな機体がある。県内では他に1店のみ、全国でも珍しくなった温かい麺を出す自販機だ。

 この店、本やブログでよく紹介される自販機ファンの「聖地」。市街地から離れた山あいにもかかわらず昼時には車やバイクの客が絶え間なく訪れ、イートイン用の机ですすっていた。

 夫と2回目の訪問という府中町のパート、田村祐子さん(34)は「このうどんのため三次に来た」と笑顔。根っからのうどん自販機ファンで、以前住んでいた鹿児島、兵庫県でも見つけては「巡礼」した。「店と違って青空の下で食べられるのが幸せ。つゆでふにゃふにゃの天ぷらも魅力。ここはとろろ昆布入りなのがポイント」と力説する。

 記者も自販機うどんを実食してみた。「天ぷらうどん¥350」のボタンを押すと、待ち時間を表示するのは液晶ではなくガラスの中が赤くともる「ニキシー管」という古い装置だ。

 「ガコン」と出てきたプラスチック容器入りうどんは一見麺だけだが、底にはネギや海老のてんぷらがたっぷり。肌寒い屋外で熱々をすすると、麺にコシは無いながらも少し甘めのダシがたまらない。

 店主の福原啓文さん(36)によると祖父母の代に国道を走るドライバー向けに始め40年以上稼働してきた。うどんとそばを合わせて1日60~100杯売れ、コロナ禍でも客足は衰えない。古い機械のため維持費や電気代がかさみ採算はギリギリ。それでも福原さんは「最近は三次の観光スポットと呼ばれるようになった。酒店の集客になるし地域のためにも続けたい」と話す。

広島市中心部には、高級オードブル登場

 次は、変わり種自販機のニューフェースを探ることに。寺の境内に置かれたおみくじ付きの「寺バーガー」、冷凍ピザにお好み焼き、ギョーザなど、広島市内に次々登場している。気になったのが、高級オードブルの自販機だ。

 広島市中区の金座街商店街。冷凍、冷蔵食品の自販機が並ぶ店「ドクターごはん」だ。料理人の調理したフレンチやイタリアンなど約80品を扱う。数百~千円台のオードブルやスイーツに、キャビアや和牛を使った3千円以上の高級料理もある。レストラン運営のビー(中区)が2021年10月に始めた。

 仕事帰りに立ち寄った中区の会社員女性(50)はこの日、カップ入りのサラダと冷凍のギョーザを購入。以前は1500円のテリーヌを買ったことも。「24時間営業で便利だし、レストランの味がこの価格なら高くない。コロナで外食しづらくなった高齢の両親にも食べさせられる」と喜ぶ。

 常連客以外にも、商店街を歩く家族連れやカップルが「もの珍しさ」から立ち寄る様はちょっとした人気スポット。ビーによると既に市内で2店目を計画中という。

カープ鳥にむさし‥老舗の味も自販機化

 広島おなじみの老舗も、コロナ禍を機に続々と自販機デビューしている。

 居酒屋チェーンのカープ鳥は3月、毘沙門スタジアム(安佐南区)に冷凍した焼き鳥などの自販機を設置した。店内で調理した「串焼きセット」は4本で600円。刺し身やカキの蒸し焼きなども扱う。開発に約2年かけた焼き鳥が特に人気で、1日30~40セットが売れるという。

 営業時間中は持ち帰り販売も行う。ただ運営する野球鳥(中区)の牟田亮介社長によると、自販機が売り切れた際に「焼きたてより家でいつでも食べられる冷凍がいい」と頼む客が続出。「対面だと数本のみの注文をためらっていた客も機械からは買ってくれる。自販機には意外なニーズがある」と驚く。

 飲食業のむさし(中区)も2月、4種類の冷凍うどんを扱う自販機を本通り店に設置した。担当者によるとよく売れるのは日中より深夜。「飲食店で飲んだ客や働いていた従業員が、帰りに夜食として買っているのかも」とみる。

すぐそばにあるエンタメ!店員にない強みがある

 消費者行動に詳しい広島経済大(安佐南区)の細井謙一教授によると、コロナ禍に入った2020年以降、お好み焼きなどの変わり種自販機が増えた。飲食店の営業時間の制限がなくなっても多くの人を引きつけるのは「意外な食品が並ぶ面白さや非日常感があるからではないでしょうか。ユーザーは、買う体験ごと『消費』しているんです」と話す。

 いわば自販機は、街中で味わえるささやかな「非日常体験機」「すぐそばにあるエンタメ」なのだろうか。機械から食べ物を買うワクワク感。対面の煩わしさがなく24時間使える便利さ。周囲には出来合いのものをひっそりと罪悪感なく買えるのがいい、という声もある。単なる店員の代わりにとどまらない強みを持っている。コロナ禍が収束した後も広島で定着する、かもしれない。