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マルチ商法で50万円失った21歳、後悔深く SNSや街コン…身近に魔の手【連載㊤】

 会員が新たな会員を誘い込み、報酬を稼ぐ「マルチ商法」。もうけ話を持ちかけられて大金を失った若者の相談件数が、中国地方でも高止まりしています。目立つのは仮想通貨や副業といった「モノなしマルチ」。スマホアプリやSNS(交流サイト)を介して近づくのが特徴です。ごく身近に潜むワナに落ちた被害者の後悔は深いようです。(栾暁雨)

 「受け身じゃダメ。変わりたいなら今だ!」。「僕も普通のサラリーマンだったけど、今はいい家に住み、高級車に乗っている。人脈があれば稼げる」。広島市中心部の会場。壇上にはブランド物で身を包んだ「講師」が次々と登場し、成功体験を語る。

 広々としたホールに集まったのは、若い男女100人ほど。うんうんと頷いている人も多い。参加した広島県の女性(21)は「熱気がすごくて。流れに乗ってしまった」と振り返る。

 海外のオンラインカジノで稼ぎ、誰かに紹介すれば報酬が得られるという。もうかる仕組みはよく分からなかったが、1時間の「アポ取りタイム」になると、女性は知人に勧誘の電話をかけてしまった。

 セミナーの数日後、広島市内の事務所に呼び出され、東京から来た20代の男女3人から詳しい説明を受けた。オンラインカジノに参加するための登録料として50万円が必要という。金額に戸惑ったものの「日本は給料が上がらない国。少し投資してたくさん稼げる方がいいでしょ?」と説得され、言われるがまま、消費者金融でローンを組むことになった。

勧誘者から受けた説明をメモしたノート

 3週間たった頃、経緯を知った知人から「典型的なマルチ」と指摘された。事務所に行き「やめたい」と告げると、1時間以上もしつこく引き留められた。「自分への投資なのにあり得ない」「損していいんですか」…。何とかやめたが、クーリングオフの期間は過ぎており50万円は戻らなかった。

 「効率的に稼げる方法がある」。女性がチャットアプリで知り合った同年代の男性から勧誘されたのは昨秋。長時間労働が常態化しているのに給料が上がらない職場に不満があり「副業感覚の軽い気持ち」で興味を持った。「冷静に考えれば簡単に稼げることなんてないのに。後悔しています」。結局、仕事も辞めて実家に戻り、再出発の道を探っている。

女性が書かされた「夢リスト」。この後50万円を失った

 マルチ商法は、会員が増えるたびに勧誘者とその上部の会員に利益が行く仕組みで、ピラミッド型の組織をつくる。広島県警生活環境課によると、それ自体は違法ではないが、詐欺まがいや強引な勧誘が問題視されているという。ただ、1人当たりの被害額が50万円を超えることが少なく、被害届を出さずに諦めてしまう若者も多いとみる。

 国民生活センターに寄せられたマルチ商法絡みの相談は、2021年度は約8800件。中国地方は559件で、20代が4割以上を占める。「誰でも稼げる」「みんな、借金してから始めている」などと言われて、消費者金融でお金を借りさせられるケースが多い。投資した金額を回収できなくなったり、無理な勧誘で人間関係を壊してしまったりするケースも少なくない。

 誘う魔の手は、若者たちのごく身近に潜んでいる。その一つが、恋人を探すマッチングアプリや街コンだ。

 岡山市の男性(25)は、マッチングアプリで知り合った女性と食事に行った。当たり障りのない会話から突然、「お金を稼いで親孝行したい。一緒に夢をかなえよう」と海外事業への投資を持ちかけられた。断ると女性は激怒。罵倒された。「真剣に出会いを求めていたのにショックで」。友人からは、街コンで仮想通貨への投資に誘われ、30万円を預けてしまったと聞いた。男性は「人間不信になりそうです」とうなだれる。

 社会人サークルに罠を仕掛けてあるケースもある。
 運動が好きな広島市の会社員女性(23)は、SNSで見つけたフットサルチームで、1台10万円の浄水器を売りつけられそうになった。肩こりや腰痛に悩んでいることを話すと、「この浄水器から出る水を飲めば健康になれる。ペットボトルより安全で、他の人にも売れたらマージンが入る」と数人に囲まれた。怖くなって、サークルはやめた。

 それから気を付けてSNSを見るようになった。「バスケやバーベキューと称してマルチに誘う手法が多い」と話す。最近は文面で相手の目的が分かるようになってきたので、怪しい人には「マルチですか?」と聞くようにしている。すると二度と連絡が来なくなるという。「ネット上には悪意ある人も少なくない。見極める力が必要ですね」