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「リケジョ」と呼ばれたくない。東京大大学院で星を研究する大小田結貴さん(27)=呉市出身=のメッセージ

 理系女子を意味する「リケジョ」。増やす方針を政府は掲げますが、進学・就職する人は多くありません。そんな中、東京大大学院で宇宙物理学を研究する呉市出身の大小田結貴さん(27)が昨秋、「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」を受賞しました。理系を目指す後輩たちに「性別は関係ない」とメッセージを送ります。(文・栾暁雨、写真・浜岡学)

「女子は文系」のジェンダーバイアス

 東京大博士課程3年の大小田さんは、チリにある世界最大級の電波望遠鏡のデータを使い、星の誕生と成長を観測している。今回の受賞は、研究が太陽系の起源の理解に貢献していると評価された。

 宇宙物理学が専門と話すと「リケジョだね」と返ってくることが多いんですが、リケジョという言葉自体はあまり好きではありません。「女医」という呼び方もそうですが、女性が少ないから成り立っている言葉ですよね。珍しい存在として扱われていることの裏返しでもある。ことさら容姿にフォーカスするような使われ方にも違和感があります。

 研究それ自体に性別は関係ないし、能力差を感じたこともありません。なのに女子が少ないのはやっぱり「女子は文系、男子は理系」というジェンダーバイアスが影響しているのでしょう。今も「女の子はバリバリ勉強しなくても…」みたいに言う人はいますよね。教育や周りの環境が、女性が科学に触れる機会を狭め、進路選択に影響しているなら残念です。

広島女学院中高の自由な校風

 広島女学院中高から九州大へ。学部時代を過ごした物理専攻の女子は65人中わずか5人だった。

 教室に入ってすごく驚きました。急に男子校みたいな状態になって、自分がマイノリティーだとあらためて感じて。最初は男の子たちの態度もよそよそしくて、ちょっと浮いていたと思います。星の観測がしたくて東京大大学院に進んだ後も少数派。東大ってもともと男女比が8対2くらいで、理系女子となるとさらに少ないんです。

 でも幸いなことに、女性であることを不利と感じたことはありません。それは中高で通った広島女学院の校風もある。異性の目がない女子校生活では「女らしさ」や「性別役割分担」みたいなものを意識せずに済みました。友人たちもやりたいことをやって、伸び伸びと思春期を過ごして。数学や化学も女性の先生が多いので、理系を選ぶのは特別なことではありませんでした。

 宇宙に興味を持ったのも高2の時に出会った女性の先生のおかげです。物理は苦手だったのに、その若い先生は熱意があって教え方も上手。星の話を聞いているうちに関心が高まりました。太陽系の外には、地球のように水があって人間が住めるかもしれない惑星が2千個もある。これってすごいことだなーと。物理を使って未知の宇宙を知ることができる驚きに胸が高鳴りました。

身近にロールモデルがいる大切さ

 天文の分野は理系の中では比較的女性が多いという。在籍する研究室でも4人中3人が女性だ。

 身近に研究と家庭を両立する「ロールモデル」がいる今の環境は恵まれています。教授は男性ですが、これまでも出産・育児をする先輩たちをサポートし、気持ちよく研究を続けられる環境を整えてくれています。データの解析はパソコンがあればできるので、重い実験器具を運ぶことも、研究室での寝泊まりもありません。私の場合はいい先生に巡り合う運の良さもありました。

 とはいえ、高学歴で理系の女性は「モテない」「結婚できない」みたいな風潮はまだ消えていません。そう言わせないためにも、女子の比率を少しずつでも増やしていくことが必要だと思います。

多様性がイノベーションを生む

 2018年には英BBC放送が選ぶ「世界の人々に影響を与えた女性100人」にもなった。

 科学の発展を考えると、同質性が高い人だけではイノベーションが起きにくい。多様なアイデアは、性別や人種などを含めて、さまざまな背景を持つ人がいるからこそ生まれます

 ただ、まだ今は、本当は理系に興味があるのに「女子は文系」という同調圧力があったり、友人と授業が離れるのが嫌という理由で文系を選択したりする子も少なくない。でも、もしも理系に進むことに足がすくんでいるなら、まずは飛び込んでみてほしい。研究って本当に楽しいんです。新しいことに出合えるワクワクが日々を支えてくれるばずです。

 春からは、埼玉県内の理化学研究所に勤務します。理系の研究者は任期付きポストを転々とすることが一般的ですが、いずれは結婚や出産とも両立したい。配偶者と別居する人も多いですが、何とかなると前向きに考えています。私も誰かのロールモデルになることで、理系を目指す後輩の背中を押したい。リケジョという言葉がいつかなくなる日を願っています

理系は女子の割合が少ない

 国内の理工学分野は圧倒的な男性社会だ。文部科学省の2020年度の調査では、大学・大学院で学ぶ女子は、理学で23.9%、工学では16.2%とまだ少ない。

 「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」を創設し、女性を支援してきた日本ロレアルの担当者は「多様性を高める努力をしてきた海外と比べて日本は遅れています」と危機感を募らせる。実際、2020年の内閣府のデータでは、日本の女性研究者の割合は、OECD(経済協力開発機構)加盟国の29カ国中、16・9%と最下位だった。

 女性の進出を阻む壁としてよく指摘されるのは働く環境だ。個人プレーができる文系と比べて共同研究に加わらないと成果が出しにくい理系では、ハラスメント被害にも遭いやすい。研究のプレッシャーに加えて家事・育児の負担もある。日本ロレアルの担当者は、「厳しい現実はありますが、性別を理由に進路を諦めることがないよう、大小田さんには次世代の希望になってほしい」と期待する。