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『僕の人生には事件が起きない』を読むと自身の視点を増やすことができる

おすすめ本『僕の人生には事件が起きない』

「事件」とは何を指すのだろうか。私の持つ国語辞典には次のように書かれている。

「(日常生活から見て)変わった出来事」

著者はお笑いコンビ「ハライチ」の岩井である。芸人における「変わった出来事」とは誰かに面白おかしく話せる出来事を指し示す。そのため、本の内容を踏まえるならば、

『僕の人生には(誰かに面白おかしく話せるようないわゆる芸人らしい)事件が起きない(が、日常生活を変わった出来事にしてしまう視点は持っている)』

というタイトルが正解になる。ではなぜそう思ったのか。続きを読んでいただきたい。

さて、早速この本の面白い部分を紹介しよう。それは、視点だ。お前何回「視点」って言うんだよと聞こえてきそうではあるが、スルーすることにする。

例えば次の引用を見て欲しい。

「天気の良い昼間の公園は、子供とその母親達で賑わっていて幸せな空気が流れていた。僕は空いているベンチに腰をかけ、流れる雲を見ながらじっと座っていた。(中略)ゆっくりとバックから水筒を取り出し、あんかけラーメンの汁を飲んだのだ。子供達は広場で遊び、母親達はそれを微笑ましく見ながら談笑している。そしてベンチに座っている男は水筒の中のあんかけラーメンの汁を飲んでいる…。」
(P.79「あんかけラーメンの汁を持ち歩くと」)

これは、ホームセンターに出かけた著者が、次の仕事場に向かう道中で公園に立ち寄り、ベンチに座っていた場面の描写だ。

次の仕事の入り時間を気にしながら行動する日は憂鬱になりがちである。ああ休みにならないかな、とか、ああめんどくさいな、とか。こういったマイナスな感情ばかり浮かび上がってきてしまうことが多い。

だが著者はそのマイナス思考に待ったをかける。あんかけラーメンの汁を持ち歩くことで、見慣れている風景を、犯罪行為に手を染める薬物中毒者の見る異常な風景に様変わりさせてしまっているのだ。文章は次のように続く。

「日常の平和な風景に潜む狂気の沙汰に僕は震えた。たまに子供達を凝視しながら飲んだ。この行為が何なのかと聞かれたらわからないが、確実に背徳感に似た感覚を覚えていた」
(P.80「あんかけラーメンの汁を持ち歩くと」)

事件の起きない日常を、視点を変えて捉え直す。あんかけラーメンを持ち運んだり、自分の事をVIPと思い込んでみたり、組み立て式の棚を家庭崩壊のきっかけと考えてみたり。著者の視点から見る日常は、変化や起伏で満ちあふれている。そんな文章たちを読んでいると、「楽しそうだな」「うらやましいな」「ひょっとして自分も同じくらい楽しめるのではないか?」と、自分自身ののっぺりとした日常を見直すきっかけになる。つまり、人生を今よりもっと楽しく過ごすことができるのだ。

読む前と読んだ後で世界の見え方が変わってしまう。そんな読書の醍醐味が全て詰まったと言える本、『僕の人生には事件が起きない』、是非手に取って読んでみて欲しい。(読んだ人はぜひ感想を教えてね♡)


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