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【読書】洞窟オジさん―荒野の43年 平成最強のホームレス驚愕の全サバイバルを語る

出版情報

  • タイトル:洞窟オジさん―荒野の43年 平成最強のホームレス驚愕の全サバイバルを語る

  • 著者:加村 一馬

  • 出版社 ‏ : ‎ 小学館 (2004/4/1)

  • 単行本 ‏ : ‎ 221ページ

自然の厳しさを誰よりも知っている

 本書を知ったのはYouTube番組『【実話】「洞窟オジさん」13歳で家出して43年間、たった一人で洞窟や野山で暮らした男の壮絶サバイバル生活…』を視聴したから、だった。この番組もとても良くできているので、よかったらご視聴ください。

平成、いや令和最強サバイバルおじさんの人生

 本書は昭和21年に生まれた著者が実父母に苛烈な虐待を受け続けた末に13歳で家出をし、43年間、家も住所も持たずに生活してきた記録である。著者は加村一馬となっている。だが十分に読み書きができないとのことなので、聞き書きを編集部がまとめたものだろう。著者を加村本人としているのは出版社の素晴らしい、そして公的な使命も担っている出版社としてある意味、当然の配慮だと思う。彼が生きてきた時代は、ちょうど日本が、いわゆる戦後の混乱期、それから高度経済成長期を迎え、バブル期、バブル崩壊後、平成の失われた30年へと推移していく時だ。彼はその外側から、並行して、(言葉は悪いが)まるで宇宙人のように、その時々で少しずつ接触しながら、体験していくことになる。概ね親切にされながら、時に理不尽なことにあえば、その理不尽さを徹底的に許さない。一本筋の通った人物なのである。
 そしてその時々で助けてくれる人が現れ、助けが欲しい時には「助けて」と伝えることのできる、感謝しながら人と関わることのできる人なのだ。
 魚を売る、山菜を売る。現金収入が入る時にはきっちり入る。もちろん物々交換もある。時には漁業権も労働を対価として得る。『お金』というものについても考えさせてくれる。
 以降、著者のことはその愛称のまま洞窟オジさんと呼ぼう。

 そんな洞窟オジさんがホームレスをやめて里での暮らしを始めたのには理由があるが、それは本書を読むか、動画を見るかなり、していただければ、と思う。その顛末は、ほんと、浦島太郎か、小野田寛郎か、宇宙人か、というエピソードが満載だ。(いや、本書全体を通して、そうなんですけど、ね)。

 本書の末尾には、可愛らしいイラストによるサバイバル術概要が掲載してある。…が、私などがいうまでもなく実際のサバイバルは、絶え間ない緊張感の連続であり、臭いや体液やあらゆる生々しさと無縁ではない。
 このようなイラストだからこそ、救われている、みなが手にとりやすくなるということなのだろう。さすが、小学館編集部!

洞窟オジさん―荒野の43年 平成最強のホームレス驚愕の全サバイバルを語る より

洞窟オジさんの現在

今は障害者施設で職員として働いているという。その施設で、彼はブルーベリーを育てている。50本程度だった苗木を330本ほどにまで増やしたそうだ!それだけで、本当にすごい!(この情報は[ムーブー]というサイトによるもので、本書ではありません。文庫本版なら、おそらく同様の情報が掲載されているかも)。観察眼がなければ、43年間もサバイバルはできない。その観察眼が、ブルーベリー栽培にも生かされている。

 自然と深く関わった人は、人里では生活できない。んー。どういえばいいんだろう? 人里の生活のみでは摩耗してしまう。映画 ランボー然り(ランボー1です)。山男の歌然り。私たちだってそうだよね。人間関係に疲れたら、自然の中でリフレッシュしたい、癒されたい。そう思う人は大勢いるし、実際そう行動する人もたくさんいる。
 だけど洞窟オジさんの場合は、それが強烈にくるんだと思う。ああああ〜、もう山に帰りたい!と。
 イライラしてどうしようもない時には、洞窟オジさんは山に行き穴を掘って、そこで気持ちを落ち着かせる、という。自然が気持ちを吸ってくれる。イライラした気持ちを落ち着かせ、癒してくれる。

 時々子どもたちにサバイバル術を教えたりもするそうだ。そういう洞窟オジさんの言葉は誇りに満ちている。(これも本書情報ではない。冒頭に記載したYouTube番組による)。弓を構える子どもの目も輝いている。

本書を読んで

 本書の冒頭の方にある、愛犬シロとの生活。今であれば通報案件なほどの激烈な虐待をした父と、その父の行動を見ていたからこそ、可能であったサバイバル。戦死した息子の面影を見出した新潟の老夫妻や、その時々で親切にしてくれた人々。そして彼もその親切に応えながらも、結局は『人の輪の中でだけ生きる息苦しさ』を感じる洞窟オジさん。樹海での強烈な死のエピソード。
 洞窟オジさんの人生は、何が大切なのか、を振り返らせてくれる。

 だからこそ、今、洞窟オジさんが洞窟オジさんなりのバランスの取れた幸せを生きていること。それが私たちにとっても救いであるように感じられる。

 そんなふうに人生を分かち合ってくださった加村さんに感謝します。
お幸せが末長く続きますように。ありがとうございます。


そうそう。noteからお祝いが届きました。#日本史がすき#読書 で特に好きを集めたそうです。【読書】樋口季一郎の遺訓 ーユダヤ難民と北海道を救った将軍 です。まだお読みでない方は、ぜひ。



おまけ:さらに見識を広げたり知識を深めたい方のために


ちょっと検索して気持ちに引っかかったものを載せてみます。
私もまだ読んでいない本もありますが、もしお役に立つようであればご参考までに。

サバイバルする厳しさも教えてくれる。

NHKのテレビドラマ

文庫本版。こちらは2015年発売なので、情報が新しいと思われます。

2021年1月現在の洞窟オジさん

ビデオとしてとてもよくできています。

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