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学習性無力感と市場攻略について

#アセンド真夏のアドカレ、本日はMKT/BizOps/CS/採用を兼任している下吹越(しもひごし)がお送りいたします。
先日「Vertical SaaSのCSはいいぞ」と題してカスタマーサクセスの記事を書きました。

今回ですが「Vertical SaaSのマーケはいいぞ」シリーズの先駆けとして、その前提となる業界…と、そこで仕事をしている運送業の方々の体験について書いていこうと思います。
当初はマーケティングコミュニケーションについて書こうと思っていたのですが、紙幅の問題で割愛いたします。

こんな感じの内容にする予定だった

何に怒られたか興味がある方は、ぜひ8月30日20:00~からのアセンドオープンオフィスにてお話ししましょう。(採用!!!イベントではなく、他社の方も含めて楽しく交流しようというイベントです!)


わたしたちは合理的ではなく、楽に生きたい生き物で、文化的制約に取り囲まれてもいる

私個人の思想としては、どのfunctionの、どのような施策を進めるにあたっても根本には人間への好奇心、あるいは愛情(≒投げ出さない気持ち)を持つことが最も重要だと思っています。

人間は不合理で、楽をしたい生き物です。
健康を害するものを食べない限り、人間はカロリー収支の結果でしか痩せません。しかし、私たちは気休めに健康食品を買い続けます。
合理的に考えて「やったほうがいい」ことは無限にあるわけですが、私たちは経済活動を行う際に、不合理な意思決定をします。
(※行動経済学への反証は多いですが、一般論として)

また、私たちの行動の多くは学習の結果です。例えば信号は青になってから渡るように、自身を取り巻く環境から学習して(刷り込まれてしまって)、常にそういう行動を取るケースも多いです。

今となってはモバイルオーダーは広まっていますが、たとえばダイニーさまの創業初期は(接客が提供価値という前提に立つと)「店員がオーダーを取らないことはあり得ない」という価値観から、業界からの断りも多かったようです。

ただし、そうした不合理さには歴史と構造があり、独特の文化として根付いています
司馬遼太郎が言うように「文化は不合理」なものであり、BtoBビジネスにおいては商慣習や、「システムができるのは、所詮こんなもん」といった諦観等により、傍から見ると取るべき行動を取らないことも起きえます。

こうした文化上の制約により行動を行わない顧客を目の前にして、IT業界という"快適さ"に囲まれている環境から驚きこそすれ、それを馬鹿にしたり、諦めたりしない。そうした心で向き合うことが、最終的な価値提供につながると確信しています。

ビジネスも人間の営みだと考えると、文化・慣習の壁がある中での事業活動では、外部から見た不合理ではない行動を勧めていく必要があります。この場合、「何が顧客にとって当たり前で、何が当たり前ではないのか」を理解することが重要です。

このことを前提としたうえで、本noteではまず、トラック運送業界と業界でのシステム活用状況について述べていきます。


トラック運送業界と、業界でのシステム活用状況について

アセンド株式会社は、全国に6万社ほどあるトラック運送事業者に対して運送管理システム「ロジックス」を提供しています。
トラック運送事業者全体のうち、車両台数が50台未満(≒年商5億円未満)の会社は約5万6千社(93.5%程度)で、圧倒的に中小企業が多いです。

また、業界全体で見たときの営業損益率は-0.9%(車両台数50台未満で-0.7~-3.9%)、経常損益率は0.6%と、利益率は極めて低いです。
システム投資の原資が通常は利益から出るため、IT環境を含むシステム投資は限定的にならざるを得ません。

総務省「情報通信白書令和3年度版」

私も含め弊社CSは現場に訪問させていただく機会も多いのですが、お客様のPCの多くはデスクトップ(推定2010年代前後)で、使われているExcelは2007年版、連絡ツールはメール or 無料のためLINEという環境を多く目にしてきました。

なお、上掲のクラウドの利用率にはメール等の連絡手段も包含されており「業務用のシステム」に限ってみると、更に利用率が下がります。(※決まったPCのみで動くアプリの構築の場合が多いです)

国土交通省の調査によると2019年時点で「請求管理システム」がある事業者は43%、配車(運送業の基幹営業)に関わるシステムを利用している事業者は10.8%と、クラウドの利用率に反し、基幹業務のデジタル化率は高くはないことが分かります。

端的に言えば利益率の低さからシステム投資は限定的であり、業務上の負も非常に感じやすいが、反面その投資はレガシーシステムの保守費用に充てられており少なく、また業務の複雑さもあり、SaaSへのリプレース/導入は中々進みにくい状況といえます。

問い:なぜ運送業において「よいシステム」はなく、また広まらないのか?

0. 運送業でいう「よいシステム」とは

前述の通り、運送業ではシステム投資にかけられるコストは決して高くはありません。そのため、システム導入の前提として「オールインワンである」ことが求められています。

加えて、業界特有の複雑性による業務棚卸の難しさから、システム自体の要件定義が障害になりやすい(≒ベンダーの理解能力・提案能力、ならびに事業者の言語化能力の不足)こともあり、自社にとって「よいシステム」がどこまでできるのか、不透明である状態もあります。

つまるところ、1. 機能としてはオールインワンであること、2. 「できる・できない」が明瞭であり、不足分を外部(Excel/既存システム)で吸収できる、の2つが要件だといえます。


1. 業界特性上、そもそも広く売れるシステムが開発されていない

前掲の「Vertical SaaSのCSは、いいぞ」の抜粋ですが、物流業界とシステムとの相性は、必ずしも良くはありません。

業界独自の法規制、給与制度の違い、営業管理の困難さ、管理者-ドライバーへの業務属人化などなど…システムが得意な「同じことを繰り返す」「集計・計算する」などが行いにくい業界/業務特性があります。
そのため、これらすべてに対応する、各担当が通常の業務を行うだけで出したいアウトプットを出すシステムを作ること自体の難易度が高いです。

・業界独自の労働規制があり、それに対応したサービスがほぼ存在しない。
・業界特徴として、給与制度上に歩合給が採用されており、給与計算用の費目が多い。結果として、給与明細を出す以上に活用できる給与計算サービスが存在しない。
・荷主から支払いを受け取る各「案件」と、「案件」を実行する(モノを運ぶ「運行」)が一致せず、「営業管理」が困難
 ※例:翌日配達対応のため、1つの仕事に対して夜-昼でドライバーが2名で対応するが、支払いは1件分のみ等
・ドライバーの「道や、作業への慣れ」は記録しにくく、管理者-ドライバー間に情報が閉じてしまう

その結果、TAMが大きくはないこともあり「うちに合う、全部できるシステムがない」状況が起きます。

2. 業界内のシステム活用体験が、極めて悪い(悪かった)

オールインワンが期待されている一方、全部署で紙やExcelの書き写し作業が発生する負はあるため、システム導入を進める事業者もいます。
導入方針は次の2つに大別されており、スクラッチでの基幹システム構築か、b. Horizontal SaaSやアクセスの部署最適な効率化、となります。

両者に共通する一番大きな課題は紙・Excelが残ること、次いで大きな課題はUI/UXが良くはない、ということです。

紙・Excelが残るのは、第一に業務上最初のインプットとなる配車(≒営業)を対応できるシステムがほとんどないためで、多くのシステムは「配車結果を入力すると、帳票が出てくる」という作りになっています。
(※データ構造の難易度、業務のリアルタイム性、画面/機能要件の複雑性なども背景にはあります)

そして第二に、対応している帳票の幅(フォーマットや内容)の課題があります。荷主からのフォーマット指定があること、また配車時に記載/出力したい項目の柔軟性が非常に高いことから、結局システムだけでカバーしきれず、紙・Excelで業務対応をしてしまう、といった状況が発生してしまいます。

UI/UXについてですが、現場を見る限り、実務上使われているシステムの多くは象牙/グレーカラーが基調の「内容を入力すると、並べ替えをしてくれて帳票が出力できる」システムが主です。

ChatGPTによる生成。PCの躯体は画像のものより新しく、現場では2010年代ごろのものが利用されているが、画面はまさにこのままのイメージ。

このようなシステムの体験は、普段業務外ではスマートフォンを使いこなしている方からすると良くはありません。

なおかつ、1日の案件を一覧化するのに毎回30秒かかる、帳票出力のたびに5分待っているなど「仕事で使わないといけないが、正直使い物にならない」システム体験も多いと耳にします。


3. なぜ、良いシステムが広まらないのか

あまり開発されていないということは前提でありつつ、現在ロジックスを含め、クラウドで安価な運送業向けのシステムは複数存在しています。
(安ければ、月額数千円程度から利用可能)

しかし、安価であればあるほど事業としての成立は難しく、
・良くない業務体験をしてきており(≒システムへの信頼が高くはなく)
・システム要件が複雑かつ、業務の棚卸~再構築の経験が多くはない
環境におかれてきた顧客を前提として、

・複雑な業務に対応するプロダクトを作り切り、
・なるべく提案~導入~運用支援コストを掛けないで導入支援をする
状況を、事業がdefault deadにならない状態で提供していく必要があります。
今のところ、まだこれを実現しきった企業はいません。

アセンドはこうした事業を成立させることに、大絶賛チャレンジ中です。

こういう表情で仕事に取り組んでいるそうです。かわいいね。


「とりあえずビール」な世界観を作りたい。(雑な結論と所信表明)

上記のチャレンジに対して、どう向き合いたいのか。
一般論からすると、スケールするにつれ、またキャズムを超えた以降は、CPAやCACは高まっていきます。

同記事内ではネットワーク効果や、規模の経済が働かせることがCAC低下の例として挙げられていますが、運送業の業務システムは市場の狭さもあり、PLGもCLGも、適用しがたい。

Vertical SaaSにおける答えは「とりあえずビール」のように「配車や請求には、運送管理システムを、自動配車システムを使うのが当たり前」という世界観、市場を作ることだと思っています。

そもそも運送管理システムを使うのが「当たり前」な文化を業界と一緒に作り、根付かせていくことが、システム導入の機運を最終的には高めきるな、と。

この実現には、ロジックスの提供を通じて良くないシステム体験を打ち消し切ること(= CSのやりきり)と、運送業界に関わる方々と一緒に業界をよくしていくための協力を(時にはバッティングを恐れず)進めていくことの2つが大事で、それはこれからまだまだチャレンジしていきたいポイントと感じています。


今後の記事予定について

結構ざっくりした記載が多くなってしまったので、今後は「Vertical SaaSのマーケはいいぞ」と題して、前後編くらいで文化人類学とマーケの話を書いていきたいと思っています。

構想から壁打ち・議論に付き合ってくださる方を大募集しています。Biz職の方、どなたでもお話ししましょう。「ビジネス」ではなく「人間中心主義」の話を、ぜひ。

しもひごしのXはこちら


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