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その整体師

一月某日。

「かなり歪みがひどいので」

その整体師は学生のころはギャルだったんじゃないかなという目をしていたが、
小一時間も狭い空間で私の腰の状態とその来歴についての話を交わせば、
本当は正月も出かけないで家で餅を食べているタイプの麗らかな女性に見えてきた。

過去最高の新規感染者数だとメディアが騒ぎ立てる中、私もできれば見ず知らずの人に腰を触られたくなかったが、その整体師さえ感染者でなければ、
今から3時間かかっても、5時間かかってもいいから、
二人きりここで、この腰をなんとか正常に戻していこうという気概を見せてほしかった。

しかし彼女は続けた。「1週間に2回は通ってほしい」と。

私は驚いた。彼女は私の腰の状態がわかっても、私の事はわかっちゃいない。

コートを一着買うだけで店内を2時間も歩き回らないとならない私が、
今日この整体師の前にやってくるまでに、どれほどの決断力を要したかが。

整体師はびっくりするくらい優しい手つきで
私のケツを痴漢のように触ったが、それは確かに骨の位置を動かしていた。

痛いですか?と聞くので、痛くないと答えると、別のことをして、

また痛いですか?と聞くので今度は痛いと答えると、

それは週に2回通わないとならないことの裏付けを自分でとって差し出したのと同じだった。

「今日の調整も数日後には元通りになってしまいますからね」と
整体師は言う。

考えてみれば、整体なんてものはもともと、
綺麗な姿勢をお金で買える人が行くべきところだったのだ。

「次はいついつまでに来てください」と
女神のようにその女性は言うと、

私は「まだ、通うかどうかわからないので」と
足し算を覚えたての小学生のような声で小さく返した。


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