F1世界選手権パーソナル・セレクション【アイルトン・セナの名レース】


文字通り記憶に残る存在

1994年5月1日、アイルトン・セナ・ダ・シルバは34歳の生涯を閉じた。ポールポジション獲得65回に象徴される速さの閃光に加え、どこか物憂げな雰囲気の漂う姿が世界中で愛された。
とりわけバブル期のF1ブーム真っただ中の日本では、「音速の貴公子」の枕詞がついて高い人気を集めた。没後30年近く経った現在も、命日が近づけばアーカイブを含めてたくさんの記事がネット上に並ぶ。

筆者は「F1世界選手権パーソナル・セレクション」と題して個人的お気に入りレースを紹介してきた。
当然セナの優勝レースも複数取り上げている。

今回は「速さ」「スロットルワーク」「スーパーラップ」で語られること多いセナのレース巧者ぶりが光るレースをセレクトした。

1987年第5戦デトロイトグランプリ

序盤はウィリアムズ・ホンダのマンセルに次ぐ2番手につけ、マンセルのタイヤ交換の間に首位浮上。
ライヴァルがタイヤ交換するなか、セナはそのままタイヤ無交換で走り続けて優勝。
1発の速さのみならず、タイヤやブレーキのマネジメント能力の高さも見せた。しかも、ターボ車の燃料タンク容量の上限が195リッターだった当時のレギュレーションの中で、わずか140リッターでまかなった。
翌年ターボ車の燃料タンク容量の規制は150リッターに強化されたが、マクラーレン・ホンダに移ったセナは同じくデトロイトグランプリでやはり燃料を140リッターだけ積んで優勝している。
なお、この優勝が名門ロータスの通算79勝目、最後の優勝となった。

1990年第9戦西ドイツグランプリ

セナは1988年、1990年、1991年の3回ワールドチャンピオンに輝いたがシーズン通しての最強マシンを駆れたのは1988年だけで1990年と1991年は途中で他チームの追い上げを受けた。
1990年の場合、プロストが加入したフェラーリがシャシーやギアボックスを進化させてシーズン中盤に3連勝、前半終了時点でプロストはドライバーズポイントランキング首位に立った。
追い込まれたマクラーレン・ホンダは第9戦を迎えるにあたり、エンジンのバージョンアップ、ディフューザーの変更などを行った。そして予選でフロントロウを独占すると猛暑の決勝はセナが着実にリードを築き、タイヤ交換も成功。
この間にタイヤ無交換作戦を採るベネトンのナニーニがトップに出たが、セナはタイヤをセーブしながら気をうかがい、終盤にナニーニをパスして優勝。
ホッケンハイム3連覇を果たし、ポイントランキング首位を奪回した。
一方、プロストはギア比やウィングのセッティングミスから4位に沈み、このレースはチャンピオン争いのターニングポイントとなった。

1990年第12戦イタリアグランプリ

セナのモンツァ初制覇。しかも優勝、ポールポジション、ファステストラップ、全周回1位の完全勝利。余談だが6位入賞の中嶋悟のレース運びも光る。

1991年第10戦ハンガリーグランプリ

開幕4連勝を飾った1991年のセナだが、シーズン中盤からウィリアムズ・ルノーが前年のフェラーリ以上の攻勢をかける。
マンセルとパトレーゼのコンビネーションが充実、2022年現在もデザインの第一線にいるエイドリアン・ニューウェイが手がけ、パトリック・ヘッドがまとめた空力特性の優れたシャシー、低重心高燃費でバランスの良いルノーエンジンの総合力によりマクラーレン・ホンダを凌駕していく。
苦境に陥ったマクラーレンは完敗したドイツグランプリ後にシャシーを大幅に軽量化。ホンダもドライバビリティを改良したエンジンを投入した。
迎えたハンガリーグランプリ。
セナはポールポジションを獲得すると、決勝ではタイヤの選択が成功してウィリアムズ勢を巧みに抑え込む。結局マンセルは抜きどころの殆どないコースレイアウト、ウィリアムズのブレーキの不安によりセナをとらえきれずに終わった。
踏みとどまったセナは、ここから着実にポイントを積み増してチャンピオンに前進する。レースウィーク前に逝去したホンダ創業者の本田宗一郎への弔い星となった。

1993年第15戦日本グランプリ

F1キャリア終盤の1992年、1993年のセナはチャンピオン争いに絡めないマシンパッケージでの戦いだったが、いわば「匠の技」によりチャンスをこじあげ、2シーズンで8勝をあげる。
特に1993年はプロストのウィリアムズ・ルノーが優位に立つなか、雨絡みや天候が変化する状況のレースで強さを発揮した。
この日本グランプリでは2ストップ作戦を選択して、途中雨が降り始めるとドタバタするウィリアムズ勢を尻目に首位に上がり、そのまま完勝。通算40勝を達成した。
セナは次戦のオーストラリアグランプリも制して「最後のセナ プロ対決」を2連勝。通算勝利数を41に伸ばすが、これが最後の優勝となった。

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