【ディスクレビュー】ムーティ指揮、ウィーン・フィル/ニューイヤー・コンサート2021

時勢により無観客で行われた2021年のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ニューイヤー・コンサートについては生中継を視聴した感想を既に記した。

そして例年通りCD、DVD・Blu-ray、さらに昨今復活傾向のLPでソフトがリリースされた。

無観客で挙行した、できた大きな理由は上記リンクでも記したようにチケットの売上がなくてもソニーとの契約に基づき、本稿で取り上げるソフトが販売され、確実に一定数が売れて収益が見込めるから。いま配信やリモートで色々やるアーティストは多い一方、それをどう収益に結び付けるかという点はまだまだ未開拓といえる。もちろんウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は長年継続してきた高い演奏水準としたたかな営業努力によりクラシック音楽界のトップブランドを築き上げた団体。従って他のアーティストは簡単に真似できないが、プロの演奏家や団体が活動する場合には収益に繋げることが重要だと改めて感じた。
さて演奏内容に話を移すと序盤は楽団員の表情や音楽の進みに硬さが拭えず、映像だと空っぽの楽友協会大ホールに少々戸惑うのも事実。だがいわゆる第2部からオーケストラがほぐれ、適度な緊張のもとで優美に躍動するこの顔合わせらしい響きが展開していく。またCDの場合、拍手がないため逆に集中できて聴きやすいのは思わぬ副産物だった。
先頃来日したムーティ(7月28日が80歳の誕生日)は本コンサート6回目の登場。堂々たる指揮ぶりは言うまでもないが曲ごとにうまく間をとり、好演した楽団員を起立させるなど極力例年通りの動きでコンサートの雰囲気を保った。彼が必ず取り上げるスッペの作品は今回ファティニッツァ行進曲(コンサート初登場曲)と「詩人と農夫」序曲が選ばれ、やはり好んでプログラムに載せるイタリア・オペラなどの旋律を盛り込んだカドリーユでは新メロディ・カドリーユが登場した。アンコールの「狂乱のポルカ」もムーティお気に入りのナンバー。また日本ではクナッパーツブッシュのデッカ録音が名高いコムツァークのワルツ「バーデン娘」(意外にもコンサート初登場曲)が現代のウィーン・フィルで聴けたのは嬉しかった。

コンサート終盤、「新年の挨拶」の前にムーティが現下の状況で音楽の果たす役割を真摯に語ったスピーチは感銘を呼ぶものだった。とはいえ聴衆の手拍子のない「ラデツキー行進曲」はいささか妙なもの。2022年、ダニエル・バレンボイム(3回目、同年11月15日に80歳)が指揮するコンサートはホールが聴衆の温かい拍手に包まれることを祈るばかりだ。

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