日本のカラオケとイギリスのクラブに関する一考察
きっかけは「カラオケ行こ!」という映画がやっている、というのを耳にしたことです。
日本人、カラオケ行きまくる。
日本人の「二次会、三次会」といえばカラオケだし、中高生の遊び場もカラオケだし、社会人になってもカラオケ行く。
もちろん、ゲーセンやボーリングなど、午後〜夜の時間を潰すための遊び場は他にもあるのだが、結構な確率でカラオケに行く。
わたしはカラオケ行かない派の人間のため、人生でカラオケに付き合わされたことは2〜3回なのだが、多分これは都会住みとしては異例なのではないだろうか。
日本人はとりあえずカラオケ行く。
ところでわたしはイギリスに留学していた頃、ひたすら「クラブ」に行っていました。
いや、ひたすら、という訳ではないのですが、「夜遊びに出かける」というとクラビングしかなかったんですよ。
みんなクラブに行く。
クラブのイベントに行く。
夜の凍える寒さの中、ノースリーブショート丈のドレスでクラブまで遊びに行く。
イギリスの学生生活において、「クラビング」以外の夜の遊びはほぼ皆無だった。
なぜイギリス人はあんなにクラブに行くのだろう。
日本だと、「クラブに行く人」というのは「そういう人種」の人だけなのだが、イギリス人はとにかくみんな行く。
日本だったら絶対クラブに行かなそうな人もクラブに行く。
なぜなのか。
ながらく不思議だったこの現象に、わたしはある時、解を得た。
それは、わたしの大好きなジェイン・オースティン原作のドラマを見ていた時だった。
リージェンシーと呼ばれる18世紀の社交界は、とにかく「ボール」と呼ばれる舞踏会がメインだった。
舞踏会というと宮廷なような気がするがそんなことはなく、地主の家や、地域の集会場など、いろんな場所で舞踏会が催されていた。
そこでは、若者は踊ったりトランプに興じたり、中年から年配の人々は噂話と流行りの服についておしゃべりをしたり、とにかく全ての社交がそこに詰まっていた。
そしてジェイン・オースティンのドラマの見せ場のひとつは、「ダンス」の場面である。
小説が原作なのにダンスが見どころというのもおもしろいものだが、オースティンの作品においては、「思い合っている(あるいはこれから関係が深まる)男女が世間話をしながらダンスをする」というシーンが一番の盛り上がりを見せるのだ。
このふたつが脳内でつながったとき、
あ、そういうこと。
とすとんと腑に落ちた。
18世紀の人々も、21世紀の若者も、とにかく「踊りに」行くのだ。
そこで噂話をし、友達と楽しみ、気になる相手を見つけ、新しい出会いを期待する。
「踊りに行く」ことにはそれが全て詰まっているのだ。
そうか、昔も今も、イギリス人はとにかく踊らないことには恋が芽生えないのか。
さて、翻って日本のカラオケである。
カラオケの全てが出会いの場とは言わないが、合コンの流れだとか、やっぱり気になる人をちらちら見たりするのには、適した場として扱われている節がある。
今は基本的に個室で歌うものだが、その前はスナックとか居酒屋とか、そういうところにカラオケが設置されていて、人前で歌ったりしたものだ。
デュエットとか、いかにも昭和のそれっぽい感じがある。
歌う人を見ては、やれ選曲がいいだの声がいいだの、いろいろ査定が入る。
流行りに乗っているか、その場にいるメンツに相応しい選曲や気遣いができているか、そういった社交スキルを見られているのがカラオケの場である。
ところで、なんで日本人は西洋から「クラブ」文化が入ってきても、やっぱりカラオケ、となるのだろうか。
なんで踊ったりするより歌を歌うのだろうか。
その解も、意外なところからもたらされた。
この前まで大河ドラマは「光る君」をやっていた。
紫式部の物語である(わたしは見ていないが)。
で、ちょっとツイッターで、「平安の人たち、恋の歌ばっかり歌ってるイメージだったけど、あれは政治的駆け引きとかが含まれてたんだね。そりゃ句会ばっかりやってるわけだ。」的な指摘を見かけた。
そのときは、へぇ〜、そうなんだ。
歌を歌って失った恋を嘆いたり、まだ見ぬ御仁に思いを馳せたりしてるだけじゃなかったんだ、と。
お分かりだろうか。
日本人にとってのカラオケとは、実は「和歌を詠む会」なのではなかろうか!
あまりにもアハ体験すぎてちょっと衝撃だった。
(もちろんわたしの勝手な解釈なのだが。)
そうか、平安の人が和歌を詠み、連句をしたり本歌取りをしたり、歌を送り合ったりしていたように、現代の日本人はカラオケで歌を歌い選曲のセンスやら何やらで、相手のことを知ろうとしてるのか。
歌がなければ日本人の恋は成立しないのである。
まじか。
イギリス人のダンス。
日本人のうた。
ひょっとして他の地域にも、「昔からしていて今もしているコミュニケーションツール」っていうものがあるのだろうか。
あるんだろうなぁ。
血は争えないというか、文化ってすごいな、と思った出来事でした。
おそまつ。
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