鳥獣戯画を今に伝える、高山寺と明恵上人のお話
国宝「鳥獣戯画」を守り伝えた京都の古寺「高山寺」。
創建は奈良時代と言われていますが、このお寺を再興したのは鎌倉時代の高僧、明恵(みょうえ)上人です。明恵上人について田村裕行 栂尾山高山寺執事長にお話を聞きました。(文=編集者・ライター/草野恵子)
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JR京都駅からバスで約1時間。
高山寺は、京都市右京区梅ケ畑栂尾町の山中に位置しています。
この静かなお寺は、実は「日本最古の茶園」として知られているのをご存知ですか?『喫茶養生記』も著した栄西が宋から持ち帰った茶の種を明恵上人に贈り、それを栽培したところ、良い茶が採れたという逸話が残っています。
今でも毎年5月中旬には茶摘みが行われ、11月8日には明恵上人に新茶を献上する法会が行われているのだそう。
建永元年(1206)11月、後鳥羽院の院宣により、華厳興隆の地として明恵上人が栂尾の地を賜ったのが高山寺の起りです。
その後、学僧として知られていた明恵上人により、仏の教えを研究・実践する「学問寺」として発展していきました。
国宝 石水院(鎌倉時代) 廂(ひさし)の間
明恵上人について、田村裕行 栂尾山高山寺執事長は次のように語ってくれました。
明恵さんは、その生涯で自身の夢を記録した『夢記』でよく知られています。それを読むとたいへん赤裸々に書かれていて、人間味あふれる、思いやりのある方だったと感じますね。
鎌倉時代、法然、栄西、親鸞、日蓮といった高僧たちはそれぞれ宗派をつくって今に至っていますが、同じ時代にあって明恵さんは宗派をおつくりにならなかった。
そんなところにも惹かれる方が多くいらっしゃいます。
川端康成はノーベル文学賞受賞時の記念講演『美しい日本の私』で明恵上人の歌を引用しました。
また白洲正子のエッセイ『明恵上人』や、心理学者・河合隼雄の『明恵 夢を生きる』など、多くの文化人によって明恵上人は語られてきました。
明恵さんには不思議な力があるといいますか、最終的には明恵さんにたどり着くようで各界にファンがいらっしゃいます。
白洲正子さんや川端康成さんは、バスも通っていない不便な時代にわざわざ高山寺を訪ねてきてくださったそうです。
川端さんは明恵さんを真似て木の上で座禅を組んだそうですよ。
(田村裕行 栂尾山高山寺執事長)
歌人でもある西行法師に歌の指導を受けた明恵上人は、月にまつわる多くの歌を詠んだことで「月の歌人」と呼ばれました。
あかあかや あかあかあかや あかあかや あかあかあかや あかあかや月
(『明恵上人歌集』より)
上記の歌は月の光が明るいさまを歌ったもの。
このストレートな表現は今の私たちの心にも強く響くのではないでしょうか。
明恵上人のユニークなお人柄とともに、高山寺が伝える「鳥獣戯画」ののびのびとした表現にもどこか通じるものを感じます。
謎の多い『鳥獣戯画』を明恵上人自身が目にしていたのかどうかははっきりとしませんが、想像はふくらみます。
明恵上人のいちばん大切なお言葉に『あるべきようは』というものがあります。これは『あるべきように』ではなく『あるべきようは』というある種の問いかけといいますか、つまりは『自分で考えなさい』ということ。
今にも通じる明恵さんの生き方、考え方に、少しでも多くの人に触れてもらえたらと思っています。
(田村裕行 栂尾山高山寺執事長)
4月13日から行われる特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」では、「秘仏」として普段は公開されていない 「明恵上人坐像」が28年ぶりに公開されます。
修行のため自身で切った右耳もきちんと表現された迫真の像で、そのお顔の、なんとも優しい表情を見ていると「明恵さん」と気軽に声をかけたくなるほど。
「鳥獣戯画」とともに、明恵上人に会いに行くようなつもりで展覧会に出かけてみませんか。
特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」
会期:2021年4月13日(火)~5月30日(日)
休館日:月曜 ※ただし5月3日(月・祝)は開館
会場:東京国立博物館 平成館(〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9)
※会期中、一部作品の展示替え、および場面替えを行います。国宝 鳥獣戯画4巻は会期を通じ、場面替えなしで全場面を展示します。
※「鳥獣戯画 甲巻」は「動く歩道」でご覧いただきます。
※開館時間は確定次第、展覧会公式サイト等でお知らせします。
※展示作品、会期、休館日、イベント等については、今後の諸事情により変更する場合がございますので、展覧会公式サイト等でご確認ください。
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