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「サピエンス全史」

小学校の6年生になって社会の授業が歴史に変わった。

 それまで小学校での社会の勉強は、農家の人の家にお邪魔りしたり、工場に見学したりとアトラクションっぽい授業だったのに、歴史の授業になって一気に勉強らしくなった。  

歴史の最初は縄文時代からの勉強だ。

縄文土器についてや狩猟で生活をしていたとか、大きなゴミ箱である貝塚などの勉強をした。

僕は神奈川出身だったので大森貝塚は意外と近いところにあるんだとも思った。

 そして時代は弥生時代に入った。

弥生時代になると土器の形が変わり、狩猟をしていた時代からお米を作る農耕時代に変わった。

そして農耕時代になったおかげで、お米を蓄えるようになり、今までの平等だった社会から貧富の差が生じたと先生はいっていた。  

僕は小学校6年生の時、自分は貧富の差の中での貧だということに自覚をし始めた時だ。

 家は狭小の団地でしょんべん団地と周りから言われていたし、友達の家に行った時にベッドで寝ている人たちが羨ましく思っていた。いつかベッドというもので寝てみたいというのが夢だった。 

弥生時代の勉強をしていた時に、貧富の差というものはこの時代からきているんだ、この時代さえなければ、もしかしたら自分ももっといい暮らしができていたのかもしれない。そんな事を思ったのだ。

先生は弥生時代のまとめに入ろうとしていた。 

「この弥生時代で一番大事な変化ってなんだと思う?」 クラス全員に向けての質問をした。

歴史の授業の中で格差が生じた事の気づきは大きかったので、答えたかった。しかし僕は学校の中では、積極的に手をあげて発言できない生徒だったので、手を挙げる代わりに、先生にあててほしいと、先生の目をじっと見て、答えたいですアピールをした。

僕の視線に気づいた先生が僕を指名してくれた。

そして僕は自信満々に「人々に貧富の差が起こり格差が起こった事です!」と答えた。

 そしたら、先生はちょっと数秒黙ってしまった。そして「もう一度よーく考えてみよう!」と答えを返された。

僕が答えた回答は間違っていた。

先生は格差が起こった原因はなんだ?ともう一度尋ねた。

なんで格差が起こったかというと、格差が起こる前に弥生時代には米が生まれた。そして米を貯蓄する人が出てきたから、貧富の差が生まれた。

もし米がなかったら貧富の差は生まれてないはずだ。

だから弥生時代で一番の変化は米ができた事なんだよと丁寧に説明してくれた。

 自信満々に貧富の差と言った自分が恥ずかしくなった。 

貧富の差を憎んでいたのだが、貧富の差を生み出した正体は米だったのか。

米さえなければ、皆が平等で平和な世界が今も続いていたかもしれない。貧しい生活という言葉も生まれなかったはずだ。

そう考えていくうちに僕は、段々と米が憎くなってきたのだ。  

なんだ米という存在は?米さえなければ人間は貧富の差で苦しむことがなかったんだ。

そして僕は小学校6年生の時に、米が憎い、貧富の差を生み出した根源だ、と思って米を食べないというハンガーストライキをしたのだ。 

米よ。お前さえいなければ、世界に平和が保つんだ。 

その日から白米は食べずおかずだけを食べることにした。家での食事はコンビニ弁当が多かったのだが、いつもはセブンイレブンの牛カルビ弁当を買っていたが、パンに切り替えた。 

問題は学校の給食だ。パンの日はいいのだが、ご飯が出てきた時に困った。食べないで残せばいいと思うのだが、僕は小学校6年生にして身長は170cmあり身体も大きく、給食を残すことなどしたことがなかった。

ここでご飯を残すとクラスメイトやら学校の先生になんでご飯を食べないのかを聞かれてしまう。そこで米は貧富の差を生じた原因だから、と言っても、変人として思われてしまうだけだろう。

絶対に米を食べないと誓ったハンガーストライキも、給食で白米が出たというだけで、正確な日数は覚えていないが、2、3日であっけなく幕を閉じてしまった。

 人間がこれまで生きてきた過程には様々な変化がある。この「サピエンス全史」は人間がどのようにして発達し、これまでの歩みを続けてきたかが書いてある。米や小麦の登場で人間の生活がどのように変わったか、そして人間の未来はどうなるのか、架空の話でなく、現実に即した未来が書かれている。

この本を読んだ時に、小学校6年生の時に一人で米ハンガーストライキを起こした自分があながち間違った意見でもなかったのではないかと思え、20数年まえの自分を褒めたくなった。 







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