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冬に育つ〈JAびらとり〉

「寒いほど甘くなる。こっちはツラくなる」

一年で最も寒い1月下旬。農閑期であるはずのハウスの中は、深緑色の葉でびっしりと覆い尽くされていました。ほうれん草の寒締め栽培(ちぢみほうれん草)は道内各地で行われていますが、その多くは12月末まで。一方、雪の少ない平取町では年が明けてからがシーズン本番となります。毎年約40戸がちぢみほうれん草を手がけていますが、じつはそのほとんどがトマト農家。夏から秋にかけてトマトをメインに生産し、その裏作でちぢみほうれん草を育てているのです。山田慶一部会長もその一人。夏はハウス25棟でトマトを、冬は4棟でちぢみほうれん草を栽培しています。

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JAびらとりホウレン草部会の山田慶一部会長。手がかじかむほど寒いハウスの中、甘みが十分にのったほうれん草をこうして1株ずつ手で収穫します。

「最も気を使うのは温度管理です。暖房のないハウスでほうれん草を育て、株が大きくなったらハウスを開けて寒さにあてます。寒いほど甘みがのるけれど、寒すぎてもいけない。ほうれん草自体が凍結してしまうからです。平均地温5°Cを1週間キープできるよう、天候を見て、毎日地温をモニタリングしながらハウスを開け閉めして温度を調節しているんです」。

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時期をずらしながら栽培し、12月中旬から2月下旬まで、長期にわたって出荷しています。

「最初は軽い気持ちで始めたのさ。それがだんだん仲間も増えて…」

平取町でのちぢみほうれん草栽培は2006年に町内紫雲古津地区の3人の若手生産者によって始められました。じつは山田さんはその3人のうちのひとり。「遊びでやってみよっか、ぐらいの軽い気持ちだったね」とチャレンジした当時の心境を振り返ります。「目的としては通年雇用の手段を作りたかったんです。冬も仕事があれば、パートさんもずっとうちで働くことができるでしょ。ちぢみほうれん草はいろんな可能性のなかの一つだったわけです。当時、北農研で寒締め栽培の試験結果が出て、どうやらいけるゾとなりました。幸いうちらにはハウスがある、種をまいたらできるんじゃないの?失敗したら土にすき込めばいいんだしって、本当に軽い気持ちだったんです」、そうアッケラカンと話します。大きな設備投資もなく、ハウス1棟からという小さなチャレンジでしたが、年明け出荷できる強みと品質の高さから年々評価が高まり、初年度・2年目は3戸だったのが、3年目に8戸、4年目には15戸とだんだん仲間も増えていきました。「最初の頃はさ、期待されてもいないし、いつでもやめられるって感覚だったのが、『おいしい』『もっとほしい』と言われたら、そりゃ、モチベーションも上がるよね。待ってくれている人がいるんだから、オレたちがやらなきゃって、なるよね」。

JAびらとりもこうした若手生産者たちのがんばりを応援。町内の生産者に声をかけて栽培戸数を徐々に増やし、産地形成を後押ししました。青果課長の永田智広さんは次のように話します。「正直、うちはトマトで生計が成り立っている生産者がほとんどで、わざわざ冬の休みを返上してちぢみほうれん草をやることに疑問を持つ人もいました。だけどせっかく始めた人たちがいる、消費者も求めているとなれば、組合としてもバックアップしたい。それで、みんなに声をかけていったんです」。

06年に3戸から始まったちぢみほうれん草栽培は15年目の今シーズンは43戸に、栽培面積も当初のおよそ30倍に拡大。夏のトマト同様、冬のちぢみほうれん草はなくてはならない産物になっています。

寒締めホウレン草(ちぢみほうれん草)の栽培と収穫

出荷ピークは1月中旬ですが、無加温ハウスでの厳寒期の栽培となるため被覆がカギとなります。

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生産者は二重ハウス(三重ハウス)でハウス内を保温し、ほうれん草の生育を促します。寒い日に重ね着をするイメージですね。

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収穫は、ナイフやはさみで1株ずつ刈ります。ちぢみほうれん草は這うように葉が伸びるので、収穫時に土が入らないよう注意が必要です。

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収穫後は生産者自身が計量してパックし、農協へ出荷します。

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トマト同様、「ニシパの恋人」のブランドが平取産ちぢみほうれん草の目印です。

「落ちこぼれを出したくない。その努力が地域の強さになる」

作付面積拡大の背景には人手不足という事情も重なります。平取町では特に夏のトマト栽培を支えるため海外実習生の受け入れを進めており、トマトの作業のない冬の雇用維持対策としてちぢみほうれん草に取り組む生産者が増えているそうです。

新しく参入するためにはノウハウが不可欠です。部会では種苗会社からの情報を共有したり、普及センターの営農指導を受け、栽培技術のレベルアップを図っています。ちぢみほうれん草は、ともすると寒気にあてて甘みを引き出す仕上げ工程ばかり注目されますが、大事なのは発芽だと山田さんはいいます。「まずは一斉に発芽させること。それが最終的な収穫量を決めるから。そのためには土壌の水分管理、タネをまく深さ、土質が重要になってきます。同じ作業をしたのに半分しか芽が出なかったら、そこでガックリくるでしょ」。山田さんは続けます。「なんでも最初から器用に作る人もいれば、なかなかできない人もいる。オレはね、成績のいい人には興味がないんです。もがいている人をいかに引っ張り上げるか。技術面でも、気持ちの上でも。底上げができれば、それが本当の地域の強さになると思うんです」。発芽でほうれん草の落ちこぼれを出さないように地域の落ちこぼれも出したくない。山田さんの言葉の端々から、地域とともに歩み続けることを願う部会長の思いがにじみます。

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山田さんは農家4代目。「百姓にはなりたくない」と実家を出て東京で就職しますが、父の病気を機に帰郷。2019年ホウレンソウ部会の部会長に就任。

そんな地域の思いも背負って出荷されるちぢみほうれん草。そのおいしさをダイレクトに楽しむなら、しゃぶしゃぶがおすすめだそう。ポイントはシャキッとした歯ごたえが残るぐらいサッと湯をくぐらせること。冬の寒さが育んだ甘美な味わいを、じっくりとお楽しみください。

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JAびらとりの「寒締めホウレン草」は全道のコープさっぽろ店舗(一部除く)でお求めいただけます。
また、北海道産のちぢみほうれん草は1月第3週から2月第3週の宅配システムトドックでご案内いたします。

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取材・文・編集/長谷川圭介
撮影/石田理恵 
デザイン/佐孝優