特別展「人、神、自然」/悠久のミステリー
東京国立博物館の特別展「人、神、自然 ザ・アール・サーニ・コレクションの名品が語る古代世界」のポスターが美しくて、心惹かれました。顔の表現だけでも、こんなに多彩。なんだかワクワクします。
それほど大規模な展示ではなさそうだし、ちょっと観てみようかな、と気楽に足を運んだのですが、それはそれはすばらしいコレクションでした。
古代人が愛でた美しいものたち
ザ・アール・サーニ・コレクションとは、カタール王族であるシェイク・ハマド・ビン・アブドラ・アール・サーニ殿下が収集されたもので、幅広い地域とさまざまな年代の工芸品、美術品が含まれています。
今回展示されていた117点の品々は、もっとも古いものでは紀元前3300~2500年頃、新しいものでも5~7世紀頃に作られたものだそうです。プリミティブな印象のものから現代美術かと思うようなものまで、いにしえの宝物の数々にうっとりしました(ところどころ、不気味なものもありましたが)。
会場内は暗めで、ぱっと見たところではポスターのような鮮やかな色は目に入ってきません。各展示物の説明も角度によってはかなり見づらいです。
でも、近づいてしっかり見ると金は重厚に輝き、赤いカーネリアンがきらめき、ヒスイの緑色に引き込まれました。
古代の人の暮らしを想像する
古代の工芸品は、神への捧げものであったり、権力を誇示するためのものであったということです。
いつの時代も、人々が美しいものに憧れたからこそ、神や権力と結びつき、すばらしい工芸品が生み出されたのだろうと思うのです。
腕の良い職人は良い暮らしができたりしたのでしょうか。それとも、もしかしたら奴隷のように働かされたのでしょうか。彼らの生活に、美しいものを生み出す喜びがあったことを願いたいです。
超絶技巧のミステリー
印象に残った展示物の覚え書きをいくつか。
もっとも年代が古い「スターゲイザー」という女神像(?)は、抽象化された姿や白い石の質感が美しく、洗練された印象さえ受けました。現代アートのコーナーに並んでいても違和感がなさそうです。
「バクトリアの女王」も石でできていて、衣服には精巧な模様が彫り込まれ、金などで美しく彩色されています。
パルティアのリュトス(酒器)は角型で、細くなっている端からは馬の前半身が突き出ています。胸の真ん中に取り付けられた細いパイプから酒が流れ出るしくみ。
この馬のリアルな姿と躍動感には驚きました。走っているときの前脚の形が、ストップモーションで確かめたかのように再現されているのです。
同じく、鹿の全身を写したリュトスも動きがあって、見事でした。
ペルシャの特権階級の物だったという水差しには、精巧な羊が20頭ほどくっついています。これも、一頭一頭表情があり、ケースの周りをぐるぐる回って何度も眺めてしまいました。
機械や道具も揃っていなかった時代に、どうしてこんなものが作れたのだろうかと、不思議でなりません。文字のない時代から美しいものは作られ続け、それを何千年も経って眺められることに、驚きと喜びを感じます。
博物館にも行こう!
美術館は美しいものを観るところ、博物館は珍しいものを見る、あるいは勉強しに行くところ、というのが私の中での感覚的な分類でした。英語だとどちらもMuseumなのに、これまで博物館と名の付くところにはあまり行ったことがありません。
今回、博物館も楽しいということを知りました。常設展示もじっくり見てみたいものです。こうして、行きたい場所がどんどん増えていくのね……。
基本情報
特別展「人、神、自然-ザ・アール・サーニ・コレクションの名品が語る古代世界-」
会場●東京国立博物館 東洋館3室
会期●2019年11月6日(水)~2020年2月9日(日)
公式サイト●https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1979
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