コーヒーを好きになったら、都会の片隅に居場所ができた。
コーヒー豆にこだわっている都会のちょっとお洒落なお店は、いつだって敷居が高かった。
「自分でもよく分かっていないから、好みを聞かれても困る」
「味の違いを言葉で説明されても、結局選べない」
こんな不安が頭をよぎる度、一気に店の扉が重く感じてしまう。
真剣な表情でコーヒーを淹れる店員さんや、すまし顔で味わうお客さんたちを見て、さらに気が引けて、チェーン店の並ぶ駅前に引き返してしまう、なんて日も。
勇気を出して、お店に入ってみたこともあった。
耳なじみのない言葉たちや、抽象度の高い味の説明からは、そのお店のこだわりや違いを理解することができなかった。
好みを聞かれ、酸味が苦手だと伝えてみたら、「そういう人多いんですよね~。酸味が何かわかってない」と言われて、ちょっぴり傷ついた。
結局、分かったふりをして選んで、普段より高いお金を払ったけれど、自分が何を選択して、美味しいと感じているのかどうかも、よく分からないまま飲み干した。
その後も、何度かいろんなお店に足を運んだが、店員さんと自分はどうしても対等じゃない感じがして、コーヒーについてコミュニケーションを取ること自体が億劫になってしまった。
コーヒーは好きだけど、決まったお店に行って、いつも同じ深煎りの豆を買って飲み続けるという日々が続いていた。
そんな中、友人のお店のコーヒーワークショップに参加する機会があった。
言葉の端々からコーヒー愛が滲み出る、同世代のバリスタさんはとてもフランクで、
・コーヒーの風味の違いは何で決まるのか
・ハンドドリップで美味しく淹れるコツは何なのか
・飲み比べた結果、自分の好みの味はどれなのか
を実際に抽出し、飲み比べる体験を通じて、理解することができた。
初心者向けに言葉を選んで説明してくれるし、初歩的な質問にも一切嫌なことをすることなく教えてくれるので、聞きたかったことも色々聞けた。
それ以上に、この人がここまで夢中になるコーヒーって、もっと奥が深くて魅力的なんだろうなあと、語り口から感じるなんてことも。
その影響もあって、一気にコーヒー熱が高まった私は、その週末、気になっていたロースターに足を運んでみた。
勇気を出して、ワークショップで気づいたことをそのまま伝えてみる。
酸味が嫌い
→「レモンっぽい酸味だけが苦手」
深煎りしか好きじゃない
→「色んな焙煎度合いに挑戦してみたい」
好みは分からない
→「Single O Japan(事前に送られてきた豆のうちのひとつ)のエチオピアが美味しかった」
こんな風に伝え方を変えただけで、「わかりました、一緒に開拓しましょう!おすすめしたい豆があるんですけど、飲んでみません?」と店員さんが目を輝かせてくれた。
その後も定期的に足を運んで、今まで飲んだことのないコーヒーの味の違いや風味の多様性を知って、価値観が大きく変わった。
今回のコーヒーのように、「ちょっとだけでも語れることがある」って自信になるし、日常の生活の中でコーヒーにこだわれている自分が好きだ、とも思うようになった。
「コーヒー豆を買いに行く場所」
それ以上でも、それ以下でもないのだけれど、いつでもふらっと立ち寄れて、自分の好みについて話し合える人や場所があることを嬉しく感じるようになった。
そんな都会の片隅にできた、ちっちゃな居場所の話。
あそびの大学 すげの
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