精神科病院への入院あれこれ

新型コロナウイルスの感染拡大による各方面の影響が、日を追うごとに深刻なものになっているように思います。しかしながら、4月頃の状況とは大きく異なり、現状のようになることはある程度想定できていたはずですが、素人ながら、政治的判断が遅れているように感じているのですが、私だけの印象なのでしょうか。

当院のような精神科病院にもコロナウイルスの脅威は迫っていて、幸いにも当院から感染者は出ていません。しかし個人的には、いつ出てもおかしくない状況だと考えていて、その心づもりはできています。いつだって私たち医療従事者にできる事は、目の前の患者に対して迅速かつ適切な医療を提供するだけです。ですから、最前線で対応されている方々には、本当に頭が下がる思いで一杯です。

コロナウイルスの対応をしている医療機関のようにひっ迫しているとまではいきませんが(当院だけかもしれませんが…)、「コロナ鬱」と言われるものも出てくるほど、コロナ禍の影響で精神科に受診・入院される方も徐々に増えてきています。

しかし、「精神科病院に入院する」ということが、一般的にはあまり知られていないように思います。かくいう私も、身体科病院に入院するものと同じだとぐらいにしか思っていませんでした。今回は、身体科とはちょっと異なる「精神科病院の入院」の特徴についてお話しします。

・精神科病院は「閉鎖病棟」が多い

ぼんやりとですが、すでに「精神科病院=閉鎖病棟」というイメージが世間的についているように思います。実際、全精神病床数のうち約71.1%が閉鎖病棟です(参照:精神保健福祉資料 630調査 令和元年度)。この数字に対する賛否や是非は様々なので置いときますが、個人的な意見ではありますが、患者の命を守るためにも、閉鎖病棟は必要だと思っています。

「閉鎖病棟」と聞くと、あまり良いイメージが浮かばない方も多いと思います。原因として考えられるのは、過去にあった座敷牢や、精神科病院入院患者への差別・暴力の事件などが挙げられます。また、昔の精神科病院の病室は牢屋や留置所みたいな作り(形容ではなく本当にそんな感じ)になっている所が多く存在したそうです。過去の事実なので修正の仕様はありませんが、「自分がそこに入院する…」と想像しただけでも、ドン引きしてしまうでしょう。

近年の精神科病院は、建て替えによって以前のような病室は姿を消しつつあります。ただ、PICUだけは以前の印象はぬぐいきれないのかなという感じです。これは先にも書きましたが「患者の命を守る」ため、治療上やむを得ない理由があります。しかし、先入観や見た目のインパクトによって「やっぱり入院は止めておきます」という方も少なからずいらっしゃいます。仕方ないことなのかもしれませんが、まだまだ乗り越えるべき障害は多いなと思ってしまいます。

・入院形態は6種類

あまり知られていませんが、精神科病院の入院には種類があります。

任意入院

医療保護入院

応急入院

措置入院

緊急措置入院

鑑定入院

詳しい説明はリンク先にお任せしますが、かなりザックリ説明すると、上記6つのうち①は自発的な入院で、②~⑤はいわゆる強制入院です。(⑥は司法と関連するため、①~⑤と事情は異なりますが、ある意味これも強制入院です。しかし、今回の話の趣旨とはズレてしまうため、今回は触れません。)

先程も書いた「精神科病院=閉鎖病棟」に加えて「精神科病院=強制入院」というイメージを持っている方も少なくないですし、あながち間違いでもありません。これも歴史を遡れば、100%事実だった時代もあります。

しかし、現在は変わっていて、必ずしも強制入院になるわけではありません。自身で不調を訴えて①で入院される方もいますし、アルコール依存症などのアディクション治療の場合は、病院の治療方針によっても異なりますが、①でしか入院を受け入れない病院も(当院も含めて)多数存在します。

また、②~⑤の場合は「精神保健福祉法」によって不当な入院が行われないよう管理されていて、医師であれば「精神保健指定医」という資格が必要となりますし、入院・退院届や同意書などの保健所(保健福祉センター)に提出する必要がある書類も存在します。これらが適切に処理されていなかった時に、まれにニュースになることも残念ながらあります。

もちろん、状態に応じて形態は変更されます。良くなれば①に変更されますし、悪化すれば②に変更されることもあります。その都度、診察を行ったり書類を提出したりと、精神保健福祉法に定められた通りに随時対応します。精神科病院では、医師法や医療法などに加えて、精神保健福祉法はとても重要な法律になっています。

・入院生活は思っているよりも「普通」

ごくまれにですが「精神科病院に入院すると、他の病院ではやっていない凄い治療をされる」と、どこから聞いてきたのかよく分からない誤解を持った方がいらっしゃいます。確かに、m-ECTみたいな独自の治療法はありますが、それ以外はいたって身体科と変わらない「普通(何をもって普通かは割愛します)」の入院生活だと思います。

例えば足を骨折で入院した場合、ギプスで固めたり、リハビリしたり、薬を飲んだり貼ったり塗ったり注射したり、場合によっては手術したり…。でもそれ以外は安静にしているのがほとんどだと思います。そこは、手法は異なるところもありますが、おおむね精神科でも同じです。

また、以前書いた「実は凄い精神科」でも触れたように、精神疾患の治療法のひとつは「精神療法」です。医師と話をして、少しずつ生活リズムや環境を整えながら精神を安定させていきます。ですから、色々なことをやっていくよりも、刺激を少なくして、安静に過ごすことも治療の一環になるのです。落ち着いてくれば作業療法などの活動も行いますし、外出や外泊も許可されるようになり、少しずつ社会生活へと結び付けていきます。

精神科だけに限らず「入院」というのは、日常生活に大きな変化をもらたらします。なので、誰しも少なからず不安を抱くものだと思います。加えて、それが(多くの人が)よく分からない精神科であるならば、不安が増大するのも仕方のないことなのかもしれません。

今回の内容が、その不安を少しでも減らせるものにつながれば、これを書いた意味があるのかなという思いと、一人でも多くの人の役に立つといいなという願いを込めて、今回の結びにしたいと思います。

ありがとうございますm(_ _)m精神科の風評向上のために使わせていただきます。