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特別になりたかった。

特別になりたかった。

けれど誰かにとっての特別にはなりたくない。
だって、それは安心と共にリスクでもあるから。
期待しないで。私に君の理想を押し付けないで。勝手に決めつけた印象とズレたからって嫌悪の目を向けないで。
誰かの中での主要人物になるってそういうことだ。

誰の心にも記憶にも残らずに消えてしまいたいと思ったこともあった。
けれどそれは、やっぱり寂しいよ。
特別じゃなくていい。
地味なモブのモブで良いから、せめて一緒にいる時は忌避せずに一緒に楽しく過ごさせて欲しい。


私は私にとっての特別になりたかった。

1人で街を歩いていると、当たり前だけど沢山の人達とすれ違う。
それぞれに、それぞれの人生があって、特別があって。
その中に、私の存在は微塵も無くて。いや、あったら怖いのだけど。
でもそれでも、そのまま空気に溶け消えてしまいそうな感覚に襲われる。

その時、私は私を見つけられるかな。
どこにでもいる普通の平凡の真面目ちゃんであっても。

人間、本当に殻を破ろうと思えばいくらだって違う人間になれるのかもしれない。
仕事を辞めて全然考えたことも無いようなバイトをして、髪を染めて煙草を吸って濃いお化粧をして普段とは全く印象の変わる服を着て整形をして。
簡単なことだ。
でも、そういう変化はまた違う気もする。
それは、私じゃない。

私は私の範囲内で、でも自分を見失いそうになった時に見つけやすいように自分だけの煌きを沢山もった生き方をしたいな。

そんなことをぼんやりと考えながら、22時。
六本木の夜を1人フラフラと歩いてみる。


9月に入った会員制バー2回目の訪問。

入会金が3万円と庶民的にはバカ高いので、だからこそ何度か行っておかないと。年会費も1万円かかるし、ひとまずは今年だけで辞める予定だから。

最初に何を注文しようかウンウン唸っていると、カクテルやパフェに使っているフルーツです、とパイナップルの試食を出してくれた。
「ハニーグロー」という品種だそうで、確かに蜂蜜のように甘い。

折角いただいたことだし、フルーツカクテルはこちらに決めた。

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あ、BARっぽくていいじゃん。
添えられた花が可愛らしい。

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可愛い。

パイナップルの果汁がそのまま喉の奥に――。
いや、少し違うかな。パイナップルの果汁は手についてしまうとベタベタになったり、高過ぎる糖度でいまいち喉を通りにくいなと感じることがある。

そういう要素が一切消えて、サラリと飲めてしまう。
勿体ないからチビチビとね。
グラスを傾ける度、パイナップルの甘さがヒンヤリと染み渡る。

「日によってもフルーツの状態は変わるんですが、今日は特に甘みが強く美味しいものでした。当たりでしたね」
店員さんの付け加えてくれたその言葉で、更にグンと美味しくなったような気がした。


普通のお酒も飲んでみようかな、とカルヴァドスのブラーペイドージュを。

「どういう飲み方にしますか」

「……(ど、どういう???選択肢って普通にロック・ソーダ割り・水割りの3択でいいの???あれ?何対何で割るとかいう??どういうってナンダ?もうちょい選択肢絞って???)……これってストレートだと40度くらいでしたっけ?じゃあそれで」

必死。
流石に40度のお酒、割って飲むのが主流な気もするけれど、まあたまには良いだろ。

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少なっ!!と思うことなかれ。
これ一気に飲んだりしたら、死ぬ。

普段は12.5~14度くらいのワインを飲むことが多いけれど、倍以上でこんなに違うとは。
舌を付けただけで、ビリビリと刺激が伝わる。

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でもそのビリビリが、ちょっとハマる。
合わせてフルーツを注文していたのが良かった。
これを一口含んで、その刺激を楽しんで、今度はフルーツを一口。
溢れ出す甘い果汁に濃いお酒が溶け込んで、凄くまろやかにフルーティーに中和されて、刺激という意味だけでなく、お酒本来の美味しさをも楽しめるようになる。

「フルーツ×度数のキツイお酒」の組合せ、結構良いかもしれない。

このフルーツという選択肢も良かった。
本当はパフェにしようと思っていた。
しかし、フルーツの美味しさを主目的としたフルーツもりもり元気系であるのなら、盛り合わせという形は非常に合理的だ。

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マンゴー・パイナップル・メロン・巨峰…
パフェの選択肢にあったフルーツ全種類入ってるじゃん!!
え、これ良過ぎでは。
実際インパクトはあるけれど、1種類のフルーツを無限に食べるより色んな種類を食べたいよなあ。
アイスは食べたくなったら別個注文すれば良い。

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この盛り付け方も良い。
食べられないフルーツの皮は全て剥いてくれているからそのストレスは無く、ただ見た目の美しさという価値を高めてくれている。
それって、結構大事なことだ。
お皿の中にも隙間なく、たっぷりに見えるしね。
満足度が各段に高い。

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フルーツ盛り合わせ+アイスでパフェの中間くらいかなという値段なのだけれど、それで圧倒的に一番高い巨峰も食べられるところがまた嬉しいポイント。

フルーツって食べた時に頭の中に広がるイメージカラーがフルーツそのものの色に寄るものだと思う。
このお皿でいうと、他が黄・オレンジ系の明るい色であるのに対して、巨峰やブルーベリーは落ち着きあるダークな色合い。

そういう色を意識して食べると、瑞々しく流れるようなフルーツがいっそう自分に溶け込むように感じられる。

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マンゴーの、アイスかなと思う程にとろけそうな舌触り。
パイナップルのキュンと恋する甘さ。メロンの広く大きく紳士的に染み渡らせるメロンらしい甘さ。

それぞれが、それぞれに美味しい。

強いお酒を飲んだので、最後には飲みやすく、キティを。

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名前が可愛いよね。
赤ワインとジンジャーエールのカクテル。
好きと好きの組合せだ。

甘く爽やかに、強いアルコール感にクラッとする事も無く、気持ちよく喉越し良く飲める。


おやおや、ゆったりと少しずつ飲んだり食べたりしていたら、あっという間に21時半とか。

酔い冷ましに...とは言ってもそんなに酔うこともなかったのだけれど、夜の六本木付近を3駅分くらい歩いた。

色々な人を横目に。
もうその時間でも開いてるお店って結構多いのね。

こんな風に夜道を歩くこと。

実家にいた頃はできなかった。
塾の帰りは確かに22時を過ぎていたけれど、親が車で迎えにきてくれていたし。
いつまでできるのだろう。
もしも結婚して子供とかいたら、そういう自由は無くなるのだろう。

色々な人生を飲み込んで、小さな悩みなんて覆い隠してしまいそうな真っ暗な世界は、どこまでも広がる自由のようで。案外短い、期間限定の自由なのかもしれない。

特別になりたかった。
過去の自分には絶対に知り得なかった世界に少しだけ触れて、自分はこんなに大人になったんだって自慢したい。

そういう想いを色々な場所に置いてきて、いつか、普通の特別じゃない今が最高だって言えるようになれるかな。

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