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密かに計画している事

少し前、日本野蚕学会からの原稿依頼で会報に掲載した文章です。一部抜粋。長い文章ニガテの方は写真だけ見て頂ければOKです。

虫との出会い

特に蝶を中心に撮影をしていますが、子供の頃から虫には縁がありました。小学生の頃は虫取り網を持って野原を駆け回っていました。中学になった時、技術科の先生に須田孫七先生という方がおりまして技術科の授業なのに虫の話になることが多かったです。ある時、先生が台湾に昆虫採集に行かれ、採集してきた蝶を展翅するお手伝いを杉並のご自宅でさせていただいた思い出があります。その頃、自身でアゲハチョウの雑種交配を研究していましたがなかなか上手くいきませんでした。中学・高校・大学と捕虫網をもって採集に行っていましたが、大学卒業頃に行ったインドはラダックのパルナシウスを最後に採集をやめました。
 
標本箱でしだいに色あせて来る虫たちを見るのが虚しくなってきた為です。仕事上で商品写真の撮影をする事が多くなり、同時に生き生きとした虫達の生態写真を撮る事が趣味になりました。

学生時代に何度も読み返した本は北杜夫の『ドクトルマンボウ昆虫記』とコンラートローレンツの『動物行動学』でした。この2冊は当時の私にとって聖書的な存在でした。

オオミズアオ


蝶や蛾の撮影について

写真撮影は、撮影対象や場所によって撮り方が異なってきます。屋外で遠方の梢に止まっている小鳥を撮る時は、巨大な望遠レンズを三脚に設置して撮影する事が多くなり、屋内でモデル等を撮影するときは人工的な光をコントロールして目的の効果を演出して撮影することが多くなります。レンズも標準レンズから中望遠を使ったりします。
 
さて、自然の中で遭遇する翅のはえた特に鱗翅目と呼ばれる蝶や蛾の場合の撮影は他の対象とは全く違ったスタイルで撮影することになります。

 まずレンズは、私の場合、70ミリから200ミリのズームレンズを使用することが多く、補完的に100 ミリのマクロレンズも使用します。三脚は使用しません。三脚設置中に対象が移動してしまい撮影タイミングを失うからです。常に手持ちの状態で、連写モードにしておきます。1 秒間に5枚から8枚撮せる状態にしておき瞬間のベストショットを逃さない様にします。又、カメラを手持ちで撮影するので必ず手ぶれ防止機能をONにしておきます。

以上の様な下準備をした上でフィールドに出かけます。
鱗翅目の撮影は、偶然に蝶や蛾に遭遇して撮影する場合と、決まった時期と場所で発生情報をあらかじめ調査して撮影に向かう場合に分かれます。ある特定の種類を確実に撮影する場合には発生時期や場所の情報をあらかじめ綿密に調査しておく必要があります。例えば関東でギフチョウの撮影は、神奈川県の石砂山近辺で4月1日を中心に前後一週間の間で発生します。年によって最盛期はズレますのでその手の掲示板等を参照して確実に撮影出来る日取りを決めます。この様な方法で、ウスバキチョウ、ウスバシロチョウ、オオルリシジミ、ヒメギフチョウ、ミヤマカラスアゲハ等を撮影してきました。

ヤママユ

さて、ここで鱗翅目でも蛾と呼ばれる種類の撮影ですが、これがなかなか難しいのです。過去撮影した大型の野蚕の成虫撮影写真はほとんど偶然に遭遇したものです。もっとも私自身に野蚕に関する知識が少ない、という事もありますが、あえて狙って撮影に行く場合、山奥の林道等の外灯を早朝に探して夜間に集まってきた成虫を撮影する位しか方法がありません。掲載した写真のヤママユは、奥多摩の日原鍾乳洞近辺の灯火に来たものを早朝に撮影しました。オオミズアオの写真は、高尾山近くの林道を歩いていた時、たまたま足元の草むらにいた個体を撮影しました。逆光だった事と恐らく羽化したばかりの個体の為、非常に美しい姿を撮影出来ました。オオミズアオがあんなに美しい存在だと認識を改めました。大型の野蚕の成虫はどれも美しく撮影意欲をかき立てる存在なのですが、偶然の出会いでしか撮影出来ない、というデメリットがある為なかなか良い写真を撮影出来ないのが現状なのです。

オオミズアオ


密かに計画している事

野蚕の美しさに魅了されたカメラマンにとってその美しさを写真で表現出来ないのは大きなストレスであります。現在それを解消する解決方法を二つ考えています。

一つは、夜間における灯火採集です。月の無い日に山奥で行う灯火採集には様々な昆虫が集まって来ます。その昆虫を目当てにマムシも来たりするので注意した方が良いと教えてくれた方もおりますが、多くの種類の集光性を持った昆虫が集まるので虫好きにとっては玉手箱を開ける様なワクワク感があると思います。もっとも撮影自体は、夜間ではなく日が昇ってからの撮影となります。自分の好きなシチュエーションで撮影出来るので面白い創作写真を撮影出来ると思います。

まだ蛾の分野では日本においても新種発見の可能性もありますので同定も出来るような体制で灯火採集を行いたいと思っています。 昔、弟が南アフリカで新種のクワガタを2種類発見したことがあり、その時の欧米の博物館や研究家からのオファーが凄かったでした。出来れば私も新種発見という密かな夢を果たしたいと思っています。

掲示写真にヨナグニサンの写真がありますがこれはバリ島のバタフライパークで撮影しました。海外においても偶然野蚕に出会う事はほぼありません。出来ればジャングル等で灯火採集をしてみたいですが、日本よりも多くの危険がありそうです。

ヨナグニサン

もう一つの解決方法は、野蚕を飼育する方法です。これは確実に美しい成虫の写真を存分に撮影出来ます。

最近新たなマンションに引っ越したのですが、南向きのベランダにある程度広さがあるのでここに例えばコナラの苗木を鉢植えで数本用意して灯火採集でみつけた野蚕の雌に卵を産ませて飼育する、という計画をしています。過去アゲハチョウ類の飼育は経験がありますが、まだ野蚕の飼育はしたことが無いのでどなたかご教示頂ければ幸いです。

飼育の場合、一番大変なのは幼虫の食糧需給問題であります。計画的な食樹確保の上で実施しないとドタバタする事になるのでしょう。しかしそのような苦労があっても羽化した美しい成虫を自身の好きなアングルで撮影出来れば最高の幸せであると思います。

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