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【短編小説】開戦 ~大昔にふざけて書いた未完の話~

※ 書かれたのがずっと前なので、ビニール袋はついてくる前提など、時代背景が現在と若干異なります。
※ まあまあ読みづらいかもしれません。(わざとです)

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 時は20XX年。朝、学校前のバス停で『アーマードサイコホムンクルス人造生物兵器』、通称『aphaca(アフェイカ)』である海良 昇流(かいら のぼる)は完全武装してバスから悠々と降りてきた。完全武装に意味はない。
 バスの運転手はそういった武装から自分の身を護るために『魔障壁(リフレクター)』と呼ばれる攻撃の反射装置を体中に備え付けている。
 バスの運転手の辺弖欄・雲・天州(べてらん・うん・てんしゅう)、愛称 ウンテンシュは警戒しながら昇流をバスの外へ出す。
 その直後、鼓膜が破けんばかりの音とともにバスが爆発を起こす。
 炎の叢がる黒煙の中から昇流が笑顔で現れる。右手の付け根から黒い砲身がその身を投じている。
 彼は右手を『ノボルデンジャーエレクトロニクスザサスペンスガン(昇流デスガン)』に変え、大砲のようにバスに向かって撃ったのだった。
 昇流は機械的な音をたてながら、『昇流デスガン』をまるで変形ロボのように元の手の形へ戻す。
 周囲の人は歩きながらその光景を眺める。
「今日も朝が始まったな」
 会社員達の朝は、『昇流デスガン』の起こす轟音によって始まりを告げられるのだった。
 昇流は『昇流デスガン』を完全に右手へ戻すと校舎のほうへ歩き出す。

 時は20XX年。校舎のエレベーター前に、クラスメイトの久度 是遠(くたび ぜおん)が立っているのを見つけた。
 彼も昇流と同様に『アーマードサイコホムンクルス人造生物兵器』、アフェイカである。
 製造番号は18507776051915番だ。昇流の製造番号はというと、ご飯粒が固まってしまっていて読み取ることができない。
 昇流は右手をさっきとは別のものへ変形させる。
 赤くて後ろに噴射口のようなもののついた大きな手に変わる。形的にはボクシングのグローブか、若しくは野球のグローブがボクシングのグローブになったようなならないような、そんな感じだ。ちなみに昇流の利き腕は真ん中だ。
 挨拶代わりとばかりに、背後からその手を思い切り是遠の後頭部へ向けて振り下ろす。
「今世紀最大最後のドラゴニックファンタジーハードビクトリームサンダーコンニャクパアーンチ!!」
 しかしその拳は振り向いてもいない是遠の左手に、いとも簡単に受け止められる。
 是遠は希少なセンサーである『賛成センサー』によって即座に感知し、右の『キングコブラハンド』に指令を下して、昇流の拳を後頭部に届く前に受け止めたのだ。
「おい昇流。ミーの『賛成センサー』に気付かれないとでも思ったか? お前の、略して『世紀末コンニャクパンチ』を今までに何度止めてると思っているんだ?」
「是遠の『賛成センサー』の性能は反則だっぺぇよ。ちなみに略すじゃないっぺ」
「ばか言うな。お前にだって『昇流デスガン』があるだろうが!」
「その通り!(児玉清 風)」
 ちょっとおかしな物真似をした昇流は本物の昇流なのだろうか。もしかしたらあの機械の鎧の上に機械の装備をつけた学生の仮面を被ったロボなコップなのでは・・・? もしくは筋肉の鎧の上にSマーク付きの青いピッチリタイツを着てその上に機械の装備をつけた学生の仮面を被ったスーパー男なのでは・・・?

「でも是遠はそれ以外にも『ウニャニュクロウ』だって持っているでごわす」
 そう言われて是遠は無言で左手の指先から鋭く細いような太いような黒いような白いようなむしろ赤いようでそれでいて丸いような爪を生やす。
「その爪も絶対反則だぴょん。ダブル反則だぴょん。レッドカードだす」
 昇流は是遠のウニャニュクロウを指差し子供が駄々をこねるように、わめくことわめくこと。
 そのうるささと言ったらまるで春先にさえずる小鳥の合唱会のようだ。
「うるさい、黙れ」
 昇流は一瞬よりも早く口を閉じる。
「ところでアホ昇流も遅刻か?」
「おいどんはアホなんかじゃ―――」
「うるさい、黙れ」
 昇流は一瞬よりも早く口を閉じる。
「まったくなに遅刻してんだよ、このボケナスは・・・」
「おいどんはボケナスなんかじゃ――――」
「うるさい、黙れ」
 昇流は一瞬よりも早いめりこみ土下座とともに口を閉じる。
「遅刻遅刻って、授業まで時間はまだまだあるワン」
「は? もう30分も過ぎてるっての」
 是遠は校舎の壁に備え付けられている時計を指差す。しかし先ほど出したウニャニュクロウが伸び続けていたせいで爪が時計を貫く。
 そう、まるであなたのハートを昇流という名のキューピッドの矢が射抜くかのように。
 昇流はお腹周辺を変形させ古典的なベルの付いた目覚まし時計型の近未来的な時計を出した。そしてその針の位置と是遠に貫かれた時計の針を見比べて慌てだす。
 彼の体内時計は24時間30分ほど遅れていたのだ。
「じゅ、授業に遅れてしまったナリ!?」
 昇流は鼻の穴からどばっと汗を噴き出す。『鼻水超加速装置』により、それは秒速30キロの速さで是遠を襲う。
 しかし是遠はそれすらも『賛成センサー』で感知し、一瞬で両足の裏の『四次の箱庭』に逃げ込んだ。
 彼の土踏まずは俗に言う四次元空間なのだ。(どういう形で彼が自身の足の裏に入り込んでいるかはご想像にお任せする。想像することを忘れてはいけないと思う)
「お前汚ねえよ」
是遠は昇流の汗が止まるのを確認して『四次の箱庭』から出てくる。
「ち、違うんだな。これは汗と言う名の鼻水なんだな!」
 昇流はあわてて弁解する。
 チン。
 エレベーターが二人のもとまで下りてきたのだ。扉が開くとともに二人はエレベーターに乗り込む。その場に汗と言う名の鼻水だけを大量に残して。

 この学校のエレベーターは『マグネティカル磁力マグネット磁石装置』、通称『4m(フォーエム)システム』と呼ばれる独自の技術で動いている。
 これは同専門学校の「わかる!痛くなったときのお腹のさすり方学科・下腹部コース」担任兼「自称脳ある鷹は爪を隠すクラブ」影顧問の“最近腰之辺り・常に・痛男”(さいきんこしのあたりつねにいたお)教授により考案された。
 痛男教授は研究を始めて2週間を過ぎ、ある重大な事実に気付いた。

「わたしは磁石について全く理解していなかった。磁石に今まで以上に知られざる性質があったとは・・・。なんかSとNがくっつくのは知っていたが、まさかNとNとが反発しあうとは誰が考え得ただろう」
 豪雨の中、研究所の窓の外に稲光が走る。
 閃光は一拍遅れた轟音を纏って痛男教授の表情を克明に照らし出した。

 そして更に一週間後。IQ18000の天才・痛男教授は奇跡的かつ歴史的発見をした。
「バ、バカな! こんなことがあるはずない! 何かの間違いだ。・・・・・・・なんということだ、NとN同様SとS同士も反発するとは! そして、この私の指を磁石で挟めるとは! こんな性質を神以外の誰が発見できるものか! いや、現に今こうして私は発見してしまった。私は神の領域をも侵す男なのかっ!?」
 彼はこの発見を、幼い甥に「まだ正式には発表してないから秘密だぞ」と釘を打ち教えてやることにした。
 するとその子どもは恐ろしく、そして驚愕すべき言葉を彼に吐いたのだ。

「幼稚園児でも知ってるよ」

 痛男教授はその日を最後に、磁石に関する研究に終止符を打った。
そしてエレベーター開発の後任に就いたのが、かの有名な「30人31脚科・35脚コース」副担任“印巣・牌亜”(いんすぱいあ)教授である。
 彼はエレベーターを作るには予備知識が足りなかった。しかしそのことが後に幸いすることになる。
 彼が隣の区の学校へ授業の見学へ行ったとき、その学校と同じ作りのエレベーターを己の学校にも無許可で作ることを思い付いたのだ。
 その後、前任の痛尾教授の推薦もあり、全く新しい既存のエレベーター技術として、一カケラも使われていない磁石を全面的に推し出した『マグネティカル磁力マグネット磁石装置』という名称が採用されるまでに至った。

 是遠はそんな歴史を持つエレベーターの中で更に土踏まずの奥へと入っていた。
 昇流が動揺し、髪の毛を制御できなくなったのだ。『モダーンファンネルヘアー』がエレベーターの中を縦横無尽に駆け回る。
 たまにできる髪の毛の塊は飛び回りながら周囲にレーザーを照射する。一つひとつがすばしっこく、ビームは人一人を簡単に日射病に陥れる威力を持つ。非常に厄介だ。
 特に赤く塗られた髪は性能が3倍なので手がつけられない。
 是遠はそんな攻撃と、見た目・触感がいやなので現在足の裏に篭っているということだ。
 チン。
 二度目のこの音はエレベーターが目的の階に到着した合図。
 昇流と、土踏まずから貞子さながらに這い出した是遠は外へ出る。
 昇流の頭皮から離脱してしまった『ファンネルヘアー』だけを上下に動く箱に残して。
 是遠は昇流の後ろを歩く。昇流の頭には十数個の十円ハゲがある。『ファンネルヘアー』が抜けた分だ。
 離れて行くエレベーターの中からチュンチュンと光線の発射される音が聞こえる。

 今日二人が遅れていく授業は、鬼教師で有名な「尾仁・鬼夫(おにおにお)」の授業だ。
 身長140メートル強、体力は世界でもトップクラス、知能はゴリラ。とにかく見た目も性格も怖いのだ。
 それでいて体に核を数個積んでいるとか、Z戦士の太陽拳を凝視してもひるまないなどという噂もある。
 ティラノサウルスの尾を親指と人差し指でつまんでジャイアントスイングをしたとか、地球が宇宙に浮いているのは彼が支えてくれているおかげだとか、ブリーフの柄はいちご100%だとか、とにかくいろんなことを言われている。
 ただ一つ解っていることは今日、昇流と是遠は次の授業に於いて鬼夫に殺されるということだ。ちなみに本当は、鬼夫のブリーフはうこん100%だ。
 鬼夫は今までにも遅刻した生徒を、3年間で50人程度虐殺してきた。しかし彼のブリーフはうこん100%だ。
 それ故に生徒の間で彼に逆らうものは居なくなった。
 つまり学校中の生徒、それに多くの教師までもが、うこんの言いなりの状態なのだ。
 我が校の勢力分布図を作るなら学校中が茶色に埋め尽くされるだろう。体には良さそうだ。
 厄介なのは本当に純粋過ぎる強い力だ。もはや体力は宇宙クラス、知能はアメーバ。
 教師になれたのがGTOより不思議だ。というより彼もGTO(グレートティーチャーオニオ)だ。
 今日、尾仁教授が講演している授業は、今年になってエコの面で新設された「ビニール袋の断り方学科」の授業だ。
 基本1時限90分で行われる。今は受講プログラム中の「ローソンでの断り方」の時限だ。
 ちなみに明日の「ビニール袋で夏休みの自由工作を作る」の授業はやむを得ず袋をもらってしまったときのための授業だ。この学校の夏休みには自由工作の宿題など出ない。

 二人は教室の前まで並び、無言で歩いていた。しかし不意に是遠は静かに、そして力強く昇流に言葉を投げかけた。
「なあ、昇流。俺らは今日あいつに殺される」
「・・・・うん」
「それならさ、やられる前に俺らで先にあいつをやっちまおうぜ!」
「!!」
「どっちにしろ死ぬんだ。それならそのほうが絶対いい。なあ、やろう!」
「でも、・・・・・・い、いや。わかった。やるよ是遠!」
 二人はそれぞれ拳を握り締める。その握力で同時におにぎりも作る。
力加減が難しく、力いっぱい握ってしまった昇流の手には消しゴム大のおにぎりしか残されていなかった。
 手の端からこぼれたご飯が靴の裏にくっついたことで、昇流は不快感を覚えずにはいられない。
 しかしながら二の腕の内部辺りの『高性能ミニディレクターズ炊飯ジャー』で炊いた偽コシヒカリモドキはまあおいしかった。
 ただ塩をかけようとおもったのに間違ってソースをかけてしまったのが失敗だったと言えば失敗だったのかもしれない。
 その味で昇流は始めから感じていた違和感の正体に気付く。
 眼鏡をしてなかったのである。道理で目がよく見えないはずだ。
 眼鏡さえ装着していれば『世紀末コンニャクパンチ』を是遠に止められるはずはなかったし、時計が24時間半も遅れることはなかったのに。
「けっ」と昇流は胸の中で悪態を吐(つ)く。
 眼鏡を求めて鞄の中を暫く漁ったが目的のものは見つからない。
「なあ、是遠。おいどんの眼鏡見なかったかい?」
「なに言ってんだよ。ボケてんのか。そこにかかってるじゃんか、バカだなあ」
「ああホントだ。こんなところに」
 昇流はしゃがむと、右膝から眼鏡をはずし顔にかける。
 これは骨董品らしいが左右にくっついている数字の2と0が邪魔だ。何だこの眼鏡は。
 遂に二人は教室の前まで辿り着く。ここに足を踏み入れればすぐにも戦いが始まる。
 二人は無意識に揃えて深呼吸する。
「準備はいいか、昇流」
 昇流はここへきて嫌そうな顔をする。そして顔を歪め、額をさする。
「いや、左脇腹痛い。もしかしたら盲腸かも。ていうかむしろ盲腸だ。よし帰ろう。おいどんは病院へ行く―――――」
「うるさい黙れ」
 一瞬より早く昇流は凛々しい顔になり是遠の肩をぽんと叩く。
「大丈夫か是遠。心配なら言え。俺はうこん100%大丈夫だ」
「ふう」
 是遠は大袈裟に肩を竦めてから、一呼吸置いてドアノブに手を掛けた。
 パシッ。
「ぐ、うっ!」
 是遠の体を痛烈な痛みが襲う。
 ドアノブに溜められた1千兆万ボルトの静電撃が体中を一瞬で駆け回る。
 昇流はそんな親友を気遣い、下目使いでフンと鼻を鳴らした。

 今、世界を戦渦へと巻き込む戦いが始まりを迎える。


――To Be Continued――

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